last case 導入編
ドウン、ドウンと腹の底に響いて来る、重低音のV8ミュージックが事務所に近づいて来る。
ピクリとそれに反応した、河童倫太郎は競馬新聞を置きサングラスを光らせる。
はて、来客の予定は無かったと思うけどと、一瞬不思議に思った非常勤アルバイトの緑川鈴子は、何時になく上機嫌な倫太郎の雰囲気を感じ取り、それがエンジン音と結びつき、しょうがないなと口角を緩める。
コツコツと、硬質なライダーブーツの足音が近づいてい来る。
そして、その人物が事務所のドアをノックした。
「倫太郎いるか?」
「久しぶりですね!優作の兄貴!」
普段、鈴子が居る時は、客の出迎えなんて面倒くさがってしない、いや鈴子が居なくても面倒くさがって椅子に座りっぱなしの事が多い、倫太郎が目を輝かせてドアを開ける、そんな様子に、鈴子は静かにほほ笑みながら、倫太郎とその兄貴分であり、ハードボイルド道の師匠である工藤優作(case5)のブレンドコーヒーを準備するのであった。
「お久しぶりです、優作さん」
「おう。鈴子ちゃんも綺麗になって」
「あはははー、そんなこと言ってるれるの優作さんだけですよー」
優作のストレートな誉め言葉に、鈴子は照れ笑いを浮かべながら、お盆を胸に抱きしめながら優作の肩をパシパシ叩く、この辺りの距離の近さは、鈴子にとっても優作は、かつて家族の様に暮らしていたからだろう。
「それで、今回はどこに行ってきたんすか」
「ああ、ちょいと足を延ばして、中南米に遊びに行ってた」
「あははは、またそんな危なっかしい所に」
「はっはっは、人生においてスリルは最高のスパイスだぜ」
足を組み、コーヒー片手にそう語る優作は自信に満ちていて、正にハードボイルドの権化と言った感じだった。
「それでなんずか、麻薬カルテルの1つでも潰してきたんですか?」
「ん?まぁ色々とな。議員に立候補しようって言う、マリアって言う女と仲良くなってな、ちょっと一肌脱いで来たりしただけだ。
まぁ、俺の土産話は置いといて、ここに来る前に農場の方に挨拶に行ってきたんだが……」
「……ご当主様がどうしたんですか?」
珍しく、言いよどむ優作に鈴子は嫌な予感を感じて問いかける。
それに対し、優作は苦笑いを浮かべ倫太郎にこう言った。
「なぁ倫太郎。お前農場に戻ってくる気はないのか?」
「……さて、あまり期待しないでもらいたいところですね」
農場の話が出たので、この話題は予想できる。倫太郎は眉を顰めてそう答えた。
「お前さんと、ボスの関係は俺もよく知っているが……」
「その通りですよ、俺は農家としての洞ノ助と言う男は信用しているけど、河童忍者当主としてのあの男には恨みしかない。奴が河童忍者を終わらせるってんなら少しは考えてもいいですよ」
優作は、鈴子に一言断ってから煙草に火をつけ、それを一服しっかりと味わってから衝撃的な一言を発した。
「カッパファームが買収に有っている」
「え!?」
「…………」
その一言に、翔子は驚愕の声を上げ、倫太郎は静かに飲み込んだ。
「ボスには止められてたんだがな、こいつは俺の独断で話している」
優作は、そう前置きをして話を続ける。
「結果論だが経営拡大の為に株式化したのが仇になったって事なんだろうな。敵は密かにそれを買い占めていた。ボスは農業のプロだが、そう言った事には疎いからなその隙を突かれたってとこだ」
「でもでも!奥様がいらっしゃいますよね!奥様は如何したんですか!?」
「そうだな、全く持ってその通り。ボスが農業のプロなら、奥さんは経営のプロだ、彼女が居れば問題はない、そう言った油断がボスに有ったのかもしれねぇ。
だが、それは敵が全うな手段で株式の買収を仕掛けてきた場合だ」
「……敵は、忍者かい?それとも……」
「ふっ、相変わらずお前はここぞと言い場所では勘が鋭いな
だが……敵は不明だ」
「不明?馬鹿親父はともかくとして、お袋が分かんないって言うのか?」
カッパファームに置いて、経営プランを作成するのは洞ノ助の妻美奈子だ、彼女は大学を首席で卒業したほどの才女、彼女のプランに間違えたことなど一度も無かった。
「…………忍者用語じゃ、プライズって言うんだろ。何らかの薄汚い手を使って奥さんを貶めた奴が居るって事だ」
ミシリと机から音がする。
「若様……」
決して高級な応接テーブルと言う訳ではないが、それでも天板の厚さが4~5cmはあるそれを倫太郎は握り壊していたのだった。
「総力戦だ」
俯いたまま、倫太郎はそう呟く。
「俺の持つすべてを駆使して、そのくそ野郎を地獄の底に叩き落としてやる」
そう、呟いたのだった。
10話と切りが良いので今回で最終回とします。
ちょっとシリアスさんが頑張るかも知りません。




