case7 導入編 2
「で、未成年をお持ち帰りしたと」
河童探偵社の非常勤アルバイトである緑川鈴子は、そう言って冷たい目を、雇い主兼、幼馴染兼、義理の兄妹である倫太郎に向ける。
「しょーがねーだろ、この嬢ちゃん行く当てがねぇツーんだからよ」
倫太郎は憮然とした態度で、自分の腕にしがみつき、鈴子を威嚇するその少女を顎で指し示した。
「おい、こいつは、緑川鈴子って言う、ウチの従業員だ、別に危害は加えてこないから、挨拶ぐらいかわしてくれ」
「……船頭町綾子」
少女はぼそりとそう言うと、口をつぐむ。その陰鬱な雰囲気と長い髪から、鈴子は以前出会った幽霊少女(case3)を連想した。
「あははは……、わたしは緑川鈴子。あなた行く当てがないって言ってたけどどうしたの?」
嫌々とは言え、自己紹介してくれたのだ、鈴子は愛想笑い(0円)をおまけして、何があったのか事情を聴く、見ればまだ十代だろう財布を無くしたか何かで、帰りの足が無くなったのかとそう考えていたのだが。
「…………」
少女は、鈴子への挨拶はもう済んだとばかりに、ぷいと彼女から目を反らした。
「あなたねぇ」
梅雨時のジメジメした時期に、こうジメジメした態度を取られて、不快指数は鰻上り、土曜の丑の日にはまだ早いが、鈴子のイライラが、ウナギの値段の様に急上昇しつつあるタイミングで、倫太郎が助け舟を出した。
「あのな鈴子。この嬢ちゃんの助けになってくれねぇか、俺には力になれそうにない」
だが、その助け舟は、泥舟以下の沈没船だったが。
倫太郎の説明によれば、こういう事だった。
この綾子と言う少女は、歌手を志す少女で、ギター片手に単身田舎から飛び出してはきたものの、やることなす事失敗続きの鳴かず飛ばずで、おまけにバイトを首になった所に、住んでいるボロアパートがボヤにあい焼失の、泣きっ面にスズメバチ。それでやけくその路上ライブを行っていたところを、倫太郎に助けられたと言う話だった。
「……えーっと、話は分かりましたが、それでわたしに何の助けをしろと」
鈴子は、嫌な予感をビンビンに働かせながら、恐る恐る倫太郎に聞き返した。
「何って、勿論嬢ちゃんがアイドル歌手になる手伝いをして欲しいんだが」
「えっ、すみません、今なんておっしゃいました?」
「いや、だからこの嬢ちゃんが、アイドルになる手伝いをして欲しいんだ」
「あっアイドル!?」
その、あまりにもな大暴投に鈴子は思わずキャッチミスをしてしまう。少女の陰鬱な雰囲気、この世の全てを呪うような不健康で濁った瞳。あまり手入れのされていない、伸ばしっぱなしの長髪。どれをとってもスポットライト輝くステージからは程遠い。夜は墓場で運動会がお似合いの印象だ。
これはちょっといかんでしょ。と倫太郎を見て気が付いた、倫太郎自身もどんよりと曇った眼をしている。これは無理を承知でお願いしている時の目だ、長い付き合いである鈴子には分かる。そう、分かってしまったのだった。
問い詰めたい、この無茶振りに対し、心の底から小一時間程度問い詰めたいところだが、倫太郎は綾子にガッチリとホールドされているので、内緒話の一言もかわせない。
「なぁ、頼むよ鈴子。お前フリージャーナリストの伝手で芸能界に知り合いとか居ないのか?その人たちに嬢ちゃんの歌声を紹介してくれるだけでもいいんだ」
そう言い、倫太郎は片手で拝んでくる。ここでのポイントは歌声だけと言う所だろう、確かに彼女の声は、いい意味でも悪い意味でも印象深い声だった。だが、ビジュアルや性格、そして歌自体をスルーして歌声だけで判断してくれるところなんてある訳がない、前途多難どころか、人外魔境の未踏の地をサンダル履きで踏破せよと言っている様なものだ。
だが、出会ったばかりの前途ある若い少女に、正面切って、「貴方向いていないからあきらめたら(笑)」と言えるほど、鈴子の神経は太くも丈夫でも無かった。
「…………………………。それくらいなら……まぁ」
こうして鈴子は、渋々ながら、倫太郎の依頼を受けたのだった。
船頭町綾子 CV能登麻美子 以上




