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森の魔女  作者: アレン
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 そうして、魔女と少年の二人だけの生活は始まった。

 魔女は少年に自分の持つ知識を出来る限り与え、少年は家事の苦手な魔女の代わりに、家事全般を請け負った。

 最初こそお互いよそよそしかったものの、数日経てば完全に打ち解け本物の家族の様に日々を過ごした。


 そして少年は成長し、逞しく美しい青年へと成長した。



***************



「じゃあ行ってくるよ」


 魔女がフードを深く被りながら振り返る。彼女の後に立っていた青年は、眉を顰め唇を噛んでいた。そんな彼に魔女はやれやれと溜息をつく。


「本当に行くのか?」

「まだ言うか。昨日納得したんじゃなかったのか?」

「そうだけど、やっぱり納得出来ない」


 青年は歯を食いしばる。


「町のヤツらを助けるために薬を持っていくなんて。アイツらが俺らにしてきた事を忘れたのか?」


 青年は拳が震えるほど強く握り、怒りの表情を浮かべる。


 最近、流行病で国民が次々と亡くなっていて、青年の故郷である町でも流行りだしていた。その事を知った魔女は、町の人達の為に薬を持っていこうとしている。

 しかし、それは魔女にとってはとても危険なことであった。何故なら、流行病は魔女が撒き散らしたものだという噂が流れており、各地で『魔女狩り』が行われているからだ。


「あんな奴らの為に危険を犯すことは無いだろう」

「そうだな。お前はあの町の人達のことを未だに恨んでいる。それは私も理解しているよ。でも……」


 魔女は強く握られた青年の拳をそっと握る。いつの間にか背を抜かれ、自身よりも背の高くなった青年の顔を見上げた。


「教えただろう。魔女の力は人々を助けるためのものだ。私が今まで魔法や薬を作り続けてきたのは、こういう時のためのものなんだよ」


 魔女は青年の頬を包み、自分の方へ引き寄せて額同士をくっつけた。


「心配しないでいい。ちゃんと流れの医者だと言って薬を渡すだけだから。直ぐに帰ってくるよ。だから、美味しい夕飯を作って待っていてくれ」


 微笑んだ魔女に、青年は納得のいかない思いが残るものの、彼女が決して引かないと諦め溜息をついた。そして、彼女の頬にそっと触れる。


「分かった。好物作っといてやるから早く帰ってこい」




***************





 その後、魔女は町に出向き全ての家に薬を配り歩いた。

 病で苦しんでいた人々は、薬を恵んでくれた彼女に心から感謝した。

 何とか魔女であることを気づかれることなく家へ帰りついた魔女は、待っていた青年に抱き締められ、用意をしておいてくれたご馳走を二人で食べた。


 これで町の人達を救えた。魔女はそう信じていた。



***************



 月も星も出ていない夜。漆黒の中、炎の光がゆらゆらと揺れる。


「出てこい魔女め!!」

「この人殺し!! ぶち殺してやる!」


 怒号があちこちから飛び交い、怒りで我を忘れる人々が魔女の家を取り囲んでいる。


「お前のせいで子供が死んだんだっ」

「私の子を返して!!」

「捕まえて罪を償わせてやる!」


 魔女が町に薬を持って行ってから数日後。町で子供が病によって死んでしまった。薬を持って行った時にはもう手遅れだったのだ。

 子供が死んだことにより、町の人々は病気への恐れを募らせ、そもそも病を流行らせた元凶が魔女であると決めつけ、全ての思いを魔女へと向けた。

 そして、魔女狩りを行うため今夜魔女の家へと攻め込んできたのだ。

 しかし、人喰いだと噂される魔女に対しての恐怖心からなかなか攻め込むことが出来ないでいた。


「それでも、ここに攻め込まれるのは時間の問題ね」


 魔女は窓から外の様子を伺い、苦笑を浮かべる。


 町へ行った時、例の子供がかなり末期だということは気づいていた。だから、その子には治癒の魔法をかけたのだが、間に合わなかったのだ。


(ごめんなさい。助けられなかったのね)


 魔女は心の中で亡くなってしまった子供に謝った。

 そしてキュッと胸元で手を握り、覚悟を決めた様に表情を引き締める。


(このままじゃあの子まで巻き込んでしまう。それだけは避けなければ)


 魔女は青年のことを思い浮かべた。


 助けた日からずっと二人で過ごした日々。それは彼女にとって人生の中で一番幸せな時間だった。

 最初は母性愛だった青年への思いは、いつしかそれは別の感情へと変化していった。


 青年の部屋の方を見る。

 町の人達が来たことに気づいた時、青年には眠りの魔法をかけた。だから、この騒ぎに青年は気づいていない。


「私の愛しい人。貴方は幸せにならなきゃいけない人だわ」


 そう呟き、魔女は振り返ってドアへいき、ドアノブを回す。





「また俺を助けようとしているんだな」

「え?」


 ドアノブを握っていた魔女の手に大きな手が重なり、後から青年が彼女を抱き締めた。

 眠っているはずの青年が現れたことに驚いた魔女は、慌てて振り返る。その瞬間、頬に髪が触れ、唇に暖かな感触が触れた。


 魔女は目を丸くし固まる。間近にある赤い瞳と目が合う。と、ぐらりと視界が歪み、体から力が抜ける。


「なっ!」


 崩れ落ちた魔女の体を青年が抱きとめる。

 そして、青年は魔女の髪を優しく撫でた。


「お前はまた俺を助けようとしているんだな。本当にあの日から変わらない」

「どう、して。それに、その格好……」


 魔女を見下ろす青年は、髪を彼女と同じ色の長くし、服も彼女のものを身に着けている。魔女の姿を知らぬ町の人が見れば、青年を魔女と思う格好だ。


 青年は微笑み、魔女を抱き上げ彼女の部屋に連れていった。そしてベットにおろし、もう一度髪を撫でる。


「お前は俺を助けてくれた。だから、その恩を今返すよ」

「ま、てっ。だめ、だ!!」


 青年のしようとしている事に気づき、魔女は引き留めようと手を伸ばす。が、体は思うように動かず、腕が上がらない。

 そんな魔女に青年は苦笑を浮かべ、髪から手を離し立ち上がった。


「さよなら。今までありがとう」


 背を向けドアへと青年が歩く。



(だめ、だめ、だめ!!)


 叫びたいのに強い眠気が襲い声を出せない。瞼は重くなり、どんどん視界が歪んでいく。


(やめて、行かないで。私は貴方に死んでほしくないの。貴方は生きなきゃいけないの!)


 魔女の瞳から涙がこぼれる。


「いか、ない……で」


 ドアを開けた青年が振り返る。彼は一粒涙を流し、愛しげな瞳で魔女を見つめた。



「俺の愛しいアレシア。君は幸せにならなきゃいけない人だ」


 そう言って微笑み、青年はドアを閉めた。




「魔女が出てきたぞ!」

「捕まえろ!!」

「処刑よ! 火あぶりにしてやるっ!」


 外から怒号が聞こえる。しかし、その声もだんだんと遠のいていく。


 魔女は涙を流しながら、目を閉じる。先程見た青年の最後の笑みを思い出しながら。


「ジー……ク……」


 愛しい青年の名を呼び、闇の中へと沈んでいった。





***************



 深い深い森の中、小さな少女が器用に木を避けながら駆けている。彼女の手には花束が握られていた。


 木の密集する場所を抜け、少し開けた場所に出る。そこは森の中で唯一太陽の当たる場所で、色とりどりの花が咲いていた。そして、その真ん中に小さなお墓がある。

 少女はお墓へ行き、花を供えて手を合わせた。


「おはよう。ジーナもママもげんきです」


 たどたどしい言葉でそう言い、立ち上がる。


「またくるね、おとうさん」


 ニカッと笑い、少女は元来た道を走っていった。






***************



 ある町の外れに魔女の住む森があった。陽の光が入らない鬱蒼とした森は、入れば二度と戻れず、町の人々は魔女が捕まえて喰らったのだと恐れていた。


 ある年、国が病に包まれ、町でも死人がでた。町の人々は魔女のせいだと武器をとり、邪悪な魔女を捕らえ火あぶりにした。

 町の広場で行われた処刑には、町の人全員が集まり、焼かれる魔女に怒りをぶつけた。

 しかし、炎に包まれた魔女は何故か微笑みを浮かべていたという。


 処刑の後、魔女の亡骸をどうするか町の人々は悩んだ。

 怒りに任せ魔女を殺したものの、冷静になって自分たちが恐ろしい事をしたと気づいたのだ。

 しかし処刑の次の日、魔女の亡骸は姿を消した。

 魔女が死して尚魔法を使ったのだと人々は恐怖し、それからは魔女の話をする事を禁じた。それと同時に、森へ入る事も禁じたのだ。




それから森の魔女のことは忘れ去られた。



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