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七人で学園の敷地内にある寮まで歩いて帰った。
何故七人かと言うと、須藤さんも一緒だからだ。
須藤さんは大層勇気をだしたのだろう。
震えながら、一緒に帰っても良いかと訊いてきたから、勿論、と一緒に帰る事になった。
道すがら、どうにも視線が痛かった。
一年生の廊下や昇降口は特に酷かった。
あれだな、新入生代表の静が目立っているんだな。
烈も他の人よりずっと背が高いから人目を引いているみたいだし。
悠真も注目を集めやすいしなぁ。
容姿がすこぶる整ったのが砂羽を含めて四人か……
藤河さんも容姿は整っているが、飛び抜けてって訳でもないけれど確実に可愛いしなぁ。あれだ、クラスで一番っていうより学年で一番という感じだろうか。
須藤さんも可愛い方だと思う。所謂クラスでも上位の可愛さってやつだ。
静達は日本一って言ってもいい位整っている。否、日本一がこんなにいたらそれはそれで問題だけれど。
結論。うん、目立つな!
私は注目を集めるのが本当に苦手なので、かなりいたたまれない……
歩きながら藤河さんは砂羽に色々訊いていた。
私も答えられる事なら質問に応じた。
寮までの時間では足りないらしく、食事も一緒に取る事になった。
珍しく私にも新たに親しくなりそうな人が増えて、素直に嬉しい。
寮は男女別で食堂を挟んで隣同士とは言え、静と烈に悠真は遠回りになるから、送ってもらうのは本当に気が引ける。
だから今度からはしなくて良いと断ったのだが
「瑠迦は抜けてるから心配」
静に言われ、烈と悠馬も頷き、いくら断っても無駄だった。
三人共過保護過ぎやしないか?
それぞれ彼女とか出来たらどうするつもりだろう。
というか、私に構ってばかりではこのままだと彼女が出来ないんじゃないかと不安になる。
お姉ちゃんは心配です。
大きな六階建ての寮の入り口で男性陣三人と分かれ、玄関にある鍵の付いた一人一人別の靴箱に靴を入れ、入れてあった内履きを履き、広い玄関ホールを抜け、それぞれの部屋に移動した。
私の部屋は二階の南端で突き当り。
昨日の内に荷物は整理しているし、入寮式は終わっているから、着替えて夕食までまったりするだけだ。
私の部屋は一人部屋で、東と南に窓がある、かなり良い部屋だ。
板張りの広い1LDKである。
トイレとバスルームが別で嬉しい。洗面台がある脱衣所には乾燥まで行える洗濯機。風呂場とトイレにも窓がある。これは良いね。空気の入れ替えは大事だと思う。
小さいながらキッチンが付いていて、備え付けのそう大きくはないが冷蔵庫等の一通りの調理家電が揃っている。料理が出来るのがこれまた嬉しい。
食材は食堂にある売店でも扱っているというが、バスで街に出て手に入れるのも良いだろうと言われた。
この学園の高等部は結構な山の中にあって、外部との繋がりが校門を出たところにあるバス停しかないのだ。
携帯食料等や飲料水は一階にある談話室にある自販機でも入手可能だ。
もしくは通販も可能だそうだが、売店に取りにいかなければならない。
建物全体がシックな内装で落ち着いた感じが気に入っている。
本来この寮は二人部屋なのだが、私は違うらしい。
そういえば、和兄も一人部屋だったと言っていたから、伽儀理の人間は一人部屋なのだろうか。
寮の建物は新たに建てられた物だ。
元々は食堂は男女で別だし、敷地内の正反対の場所にあったらしい。
それでは手狭だし、食堂も一緒にした方が効率が良いとかで、今の状態になった様だ。
さて着替えようかと、備え付けの箪笥から、真っ黒なダボダボジャージと中に着る長袖のシャツを取り出していたら、
「そなたは、それが好きよな」
頭が覚醒する様なとんでもなく良い声がして、声のした方を振り向く。
目に飛び込んできたのは、他を圧倒する絶世の美形様がベッドに座ってこちらを眺めていらっしる姿だった。
艶やかな長い黒髪も人ならざる黄金の瞳も相変わらず見事です。
「夜行、一応、ここ、男子禁制の女子寮なのですが?」
溜息を付きつつ訴えれば
「これならば問題あるまい」
そう言って、彼は真っ黒な赤ちゃん狼になる。
悔しいが可愛い……
諦めて着替え終わり、長い髪を首の所で一つにシュシュで纏めてから、ベッドの上の狼を抱き上げる。
真っ黒で黄金の瞳な、ふわふわの小さな赤ちゃん狼の身体を頬擦りして抱きしめる。
うん、本当に可愛い。
この姿でずっといれば良いのにと常々思う。
人の姿でいられると、いつの頃からかとても緊張する様になったのだ。
小さい頃は一緒に寝たりしていたのになぁ。
この頃はこの姿でいてもらっている。
助かる。
人型の時もだが、瞳は白目の所が黒いのが、改めて普通の存在ではないと知らしめる。
彼は私以外の人間がいると姿をけして現さない。
何故かは知らないが不思議ではある。
艶のある美声がため息を付きつつ
「我も愛でられるより、愛でる方が良いのだがな」
などと言っていて、深い意味などないのだろうがドギマギして鼓動がおかしくなる。
うん、この声が悪いのだ。
うっかり腰が抜けそうになる。
声も変えてくれたら安心なのに、それは嫌だと何故か拒む。
頑なに声は変えないのに、私以外の前だと人の前では話さないし姿も現さない。
人以外の前だと普通に姿を現す事も多いのだが……
彼と私は絆を結んだ訳ではないから、私の式神ではない。
人外の存在であるのは分かる。
なのに、何故彼は私に構うのか、幼い頃からずっと疑問なのだが、いくら訊いても彼は黙して語らない。
――――あの約束を律儀に守っているというのなら、いくらでも私は約束の解除を彼に申し出るのだが……