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術師の頭領たる伽儀理一族の一応、直系の血を引いている。
祖父は一族の当主で母は嫁に行かなかったし、父親は誰かは知らないから直系と言っていいのか悩むが、一族の血を濃く引いているのは確かだ。
だというのに、私には霊的な存在は朧にしか見えない。
――――これは一族始まって以来の事だそうだ。
ああ、自己紹介の順番が来た。
「伽儀理 瑠伽です。この高校を選んだ理由は、代々術師の家系だからです」
面白味もないが、他にどう言ったら良いか分からない。
自己紹介を聴いていた限り、皆、術師に憧れがあるようだが、この世界は、かなり洒落にならない危険と隣り合わせなので、心配だ。
一応、入学する時に誓約書で【命の保障はしないから文句言うな】と意訳すればそんな文面もあったと思うのだが、皆、夢一杯だ。
正直、そうまで夢見れることに憧憬を抱いてしまう。
アニメや漫画、小説、ゲームの中の様な力を使えるとなったら、普通の人は喜ぶのだろうか。
生まれた時から何というか人外魔境しか側に居なかったから、本当に良く分からない。
現実は過酷だ。
術師になれるとは限らないし、術者には最低限なれるから合格したのだろうが、能力差が凄まじいのだ、術師も術者も。
それこそミドリムシと太陽位、いやきっとそれ以上に術師の最高峰と術者の下位は違う。
私は術師の術師たる所以の術がほとんど使えない。
いくら特訓しても、治癒と浄化以外、全く能力が発動しない。
そういう人も出てくるのではと心配している。
折角夢を抱いて入学したのに、満足に揮える能力がなかったら、天から落ちる位、激しく落ち込むだろう。
私は能力がほとんど無いけれど、お祖父様や従兄の和兄と双子の弟の静に、代々仕えてくれている人達、神様達とか友人達がいるから、まだ良い。
誰か支える人がいないとどうなってしまうのか、とても心配している。
それに大切な人がいたとしても、ある日突然、その関係性が失われる事があるのだ。
これは本当に堪える。
しかし、私の後、何か騒めいているなぁ。
何故だろう? ってああそうか。
生徒の代表である総代や新入生代表と同じ名字だからね、それは気になるよね。
術師の世界を知らなくても、珍しい名字だし、関係性は疑われるか。
それに、例の大規模な霊的な災害を解決したのは私の従兄弟の和兄なのだが、その際、色々やらかしたらしい。
何でも任務の途中に襲われている人達を複数、直接助けたという。
その中にあちらの政財界の大物とその家族も居たらしい。
会見に家族で出て、凄く感謝しているって熱心に訴えたってかなり報道してたよね、日本でも。
本当に殺される寸前だったらしいし。
ボディーガードがいたけれど、銃は霊的な存在が実体化していても効かないし、直接攻撃も普通の人がする場合だと、可能性は少ないけれど、銀や桃の木の何か、人が打った刃物に自然塩、お神酒にお香、鏡や鈴があれば良いし、念珠とか天然石でも破魔効果がある物。錫杖も良い。真言、神歌、祭文を唱えたり梓弓にいわゆる聖水なんかも良いだろう。 そういうのがあれば弱いのが相手ならば多少は何とかなる程度だけれど、無いとまず無理だ。
それらがあったとしても、それを攻撃に使えるだけの量とか色々難しく、本当に霊的な存在に狙われたら完璧に詰んでる状態だからなぁ。
方法は多いが霊力がある程度無いと効果が薄いのだ。
弱い人間の霊でも憑りつかれたら運が下がって不幸になるから、本当に霊的な存在は厄介だと思う。
それ程強くないのが軽く憑いた位なら、自然塩を舐めて、肩に振り掛ければ離れてはくれるのだが、もっと強く憑かれたら神社やお寺でお祓いしてもらうのが良いと思う。
ガッツリ憑かれたら専門的に霊を祓っている人に頼むしかない訳だから、大変である。
だって専門家を探すのが普通の人は大変だと思うのだ。
偽物もいる訳だからね。
強力なのにガッツリと憑かれた場合は術師に頼むのが効果的だと思うが、伝手を得るのが難しいだろうな。
ああ、だからこその神秘庁なのかな……
和兄が有名になってしまった原因は他にもあって、あの霊的な大規模災害を誰が終結に導いたのか、その災禍の渦中にあった人々は、何故か全くその場を動かずとも、視えたらしい。
頭の中に映像が写り混んだという。
で、和兄の容姿が相当な人数にばれて、感謝を言いたいと血眼で探されたり何だりな上、政府に誰か教えろと色々圧力が凄まじく、助けられた国の政府が発表してしまった訳だ。
これは伽儀理としては寝耳に水だったそうだ。
大戦後の秘密裏に結ばれた取引で力を貸さざる負えない我々、術師達は、あの国に色々含むところがある。
日本政府にも色々思うところがあるから、術師達はこの事態に非常に迷惑しているのだ。
それでも他の近隣の国々よりは断然マシだから、割と協力はしているのが現状だ。
近隣諸国の人々には、出来れば関わりたくないのが正直な所である。
それでも色々やらかされて大変なのだから頭が痛い。
御神体等やら仏具等やら盗むし。
この国には先祖代々住んでいるし、好きだから愛着もあるし、だから踏ん張っているのが実態である。
まあ何よりも、この地に導かれてやって来た訳だから、他に移るとかは考えられない。
例の霊的な災害の際も、術師達が矢面に立たされ、今回の学校への受け入れもせざるを得ないのは、私達が大昔に軍門に下ったからだ。
私達、術師や術者は、この国の陰陽師等超自然的な力の行使者達とはそもそも系統が違う。
仏の力を借りる者達とも違うのだ。
元を正せば、遙か昔にこの地に誰より早く、一番初めに住み始めた古きもの達の末裔が、術師や術者なのだ。
故に彼等にとって、私達術師や術者の一族は、未だにまつろわぬもの、なのである。
私達は、基本的に争い事が嫌いな者が多い。
だから、ある程度の保証があれば、軍門に下るのも吝かではないのだ。
それをこの頃後悔する者も増えているのは、相変わらず彼等は私達を使い勝手の良い兵器とでも思っているのが分かるから、だろうか。
長い事政権の関係上放置気味で、こちらとしては楽だったのだが、明治維新後の敗戦後、それが変化し、関係性が悪化した上に外国の干渉もあるというのに、尚且つ兵器としか思っていないのが顕著になっていて、色々問題は噴出しているのだ。
面倒事は、我々に丸投げする事もザラであるのが理由の一つだ。
それでも術師や術者は伽儀理に絶対服従だから、当主の決定に逆らえない為の平穏なのが我々術師や術者には誰の目にも明らかだと分かり、当主一族に何かあれば、容易く危険な状態になるのは目に見えているのが、目下の伽儀理一族の最大の悩みだ。