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入学式は滞りなく終了した。
祝辞には内閣総理大臣やら神秘省の大臣からもきていたのには驚いた。
入学式の前よりは幾分落ち着いた教室の雰囲気に多少和む。
クラスの人間が皆素人だと知って安心したのだろう。
こんなに入学式が嵐の前の静けさ並の緊張感に包まれていたのは初めてだ。
こういう雰囲気は苦手なのだ。
ピリピリしているのもダメだが、私は基本的に争い事がてんでダメだ。
悪意を向けられるとそれはもう委縮してしまう。
だから私は仕事に向かないと皆が口を揃えて言う所以だ。
その上怖がりだしね。
私が仕事に向かないのはそれ以外の重大事もあるのだが……
おかげで教室内をそれとなく見回しつつ、窓の外に意識をそらしている。
どうしたものかと思案していた時、
「あの、おはようございます」
静寂を切り裂く鈴を振る様な声に驚き、その声の方向を見る。
「あ、初めまして。私、藤河 陽奈って言います。彼女は須藤 萌生」
声を掛けてきたのは焦げ茶色のショートボブの、目の大きい可愛い女の子だった。
隣には黒髪で三つ編み、小動物系の小さな女の子。
あ、三つ編みの子、須藤さんか、私より小さいかも。
私も背は平均より結構低いのだ。
「初めまして。私は瑠迦です。宜しくお願いします」
しまった、慌てて、家での癖が出た。
親戚も伽儀理だから、名前だけ名乗れば良いから、油断した。
相手が私の事を知っている事が多いのもあるだろう。
焦ったのだが、彼女は気にした風も無く、楽し気に声を掛けてくる。
ちょっと驚く。
この息が詰まる空気間の中で普通に振る舞えるとか、大物かもしれない。
「瑠伽ちゃん、って呼んで良い? 私は陽奈で良いよ。これからクラスメイトになるから、こちらこそ宜しく!」
元気な子だ。
ちょっと幼馴染にして後輩の娘を思い出す。
先生が来るまで雑談を交わしていたのだが、須藤さんとは一言も話せなかった。
何かプルプル震えているし、人見知りみたいだ。
藤河さんが廊下でハンカチを落としたらしい須藤さんを見つけて、一緒に探したらしい。
ハンカチは無事に見つかったという。
良かった。
私には中々名前呼びはハードルが高い。
仲良くなりたいのだが、どうも、緊張する。
なので名字で呼んでしまう。
こんな調子でこのクラスで友達できるのだろうか……
前途多難だ。
「自己紹介してください。内容は名前とどうしてこの高校を選んだかです」
そういうのは担任の神守 霖だ。
伊達眼鏡が異様にはまる、二十代後半に見える涼やかな凄いイケメンさんだ。
何故伊達眼鏡か知っているかと言うと、彼は伽儀理一族に代々仕える家系の当主なのだ。
なので小さい頃から知っている。
私にとっては家族の様な物だ。
彼には甚だ迷惑かもしれないが……
それでも私にはとても大切な存在である。
しかし、彼は違うクラスの担任になるべきではあるまいか。
何せ、彼はランクで言えば最高位の術師なのだ。
そんな人間が教えるって、余程このクラスに有望株がいるのかな。
大体人を教えている暇、あるのだろうか。
寝る間も無い程とてつもなく忙しかったのは知っているのだ。
このクラスを含めた四クラスが、全くの素人を入れたクラスだと入学式で言っていた。
それに自己紹介を聴いている限りと顔を見た事なさで、彼等は外部の人間なのは理解した。
うん、そんなクラスにいるのか、私。
一応、幼稚舎から学んではいるのだが……
まあ、これもお祖父様の心遣いだろう。
一からもう一度学べば、もしかしたら私でも、朧に、じゃなく、霊的な存在が見えるようになるかもしれない。
希望を抱く分には自由だと思う。
例えそれが、砂漠で砂金を探すかの様な儚い希望でも――――