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プロローグ
うっそうとした木立を風が通り抜ける音が響く。
暗い森の深夜。
月さえ無い闇の中。
その日は星さえ瞬かない。
無数の枝葉が盛大にざわめき続ける。
虫の鳴き声もしない暗闇で、風は轟々と吹き荒ぶ。
堪え切れずうずくまった。
暗闇も風の音も何もかもが恐ろしく、消えてしまいそうになった時
「ここで何をしている」
無機質なそれでいて心に響く、脳を麻痺させる様な、どうしようもなく心地好い声を聞いた。
声のした方を見れば闇が凝っていた。
月も星も無い真っ暗闇の中でなお暗く、髪は光を反射しない真の闇。
瞳は太陽の様な黄金色で、白目の部分は何故か漆黒。
そしてその存在は無を感じさせる何もない奈落の底。
だというのに不思議と怖くなかった。
もう大丈夫だと、何故か安堵したのだ――――