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短編・ショートショート

地平の彼方にレンズを向けて

作者: 葦沢かもめ

お題:誰かの朝日 制限時間:30分

 夜道を歩く人間というのは、得てしてどこかに心の闇を抱えているものだと思う。心象に風景を重ねて、居場所はここにあるのだと自らに錯覚させて安心している私が言うのだから、半分くらいは間違っていないだろう。

 だがしかし、夜の高所に佇む人物が一体何を考えているかは、私には想像できなかった。

 いつものように夜の散歩をしていた私は、近くの小高い丘の上にある展望台に明かりが灯っているのに気付いた。キャンプ用のランタンか何かが置いてあって、隣に誰かが座っているのが見て取れる。

 歩いても、さほど遠い距離ではない。興味が湧いた私は、早速展望台へと向かった。

 展望台に着くまで、人影は全く無かった。涼しい夜風を受けながら、私は展望台の螺旋階段を昇る。

 私が最上部に辿り着くと、足音で気付いていたのだろう、その初老の男性は振り返るなりこう言った。

「君に良い物を見せてやろう」

 促されるままに隣に座ると、彼は首に提げていたものを大事そうに私に見せてくれた。一眼レフのカメラだ。

「ここは朝陽がよく撮れる」

 聞けば、毎日ここへ来て、天気が良ければ朝陽の写真を撮るのだという。まるで職人のようだ。趣味というのは自己満足であるからこそ趣味たりえるのだが、ただ夜道をふらついて暇を潰すような私からしてみれば難儀な話だった。

 理由はあるのかと尋ねると、彼は少し間を置いて言った。薄暗くてよく分からなかったが、笑っていたようにも見えたし、無理に笑顔を作っているようにも見えた。

「考えたことはないかな? これは誰かが見たかった朝陽かもしれない。誰かが見たくなかった朝陽かもしれない。どうでもいいと思いながらも、どこか心の底ではホッと安心している朝陽かもしれない。

 地平線から現れる朝の日差しの初めの一瞬の煌めきの中に、そんな人たちの顔が詰め込まれているような気がするんだ」

 彼はカメラを構えて、ファインダーを覗き込んだ。

「そろそろだな」

 いつの間にか、地平線の向こうは赤く燃えていた。

 そう言えば、朝陽が昇る瞬間をこの眼で見るのは初めてだ。

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