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陽だまりのマゼンタ  作者: しぼりかぼす
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赤のリコリス 深緑の大輪

古めかしい街角に、ヒールの乾いた靴音が断続的に響いては、古びたタイルに染み入る様に消えていく。


朝もやの様に町中に漂っている濃霧が視界を不便にする分、音に対する感性を開花させているようだ。


 静寂に沈む町に、靴音だけの舞踏会が開かれているのはどことなく心地が良いが、ゴツゴツとしたタイルの上を踵の低いヒールで歩く感覚は好きにはなれなさそうだ。


 どこか気を紛らわせるモノを探そうと街を見回すも、普段の活気を彷彿とさせる店もたくさんあるが、趣味に直接的な関わりの有るものは少なく、この都市自体を好きになれる気がしない。


 都心から離れてはいるものの、観光名所として名高いメナトラは常に活気に満ちている。


 実際に見回ってみれば古き良き時代と言われている中世ヨーロッパの街並みがほとんどそのまま残っている事が一目で分かる。


水の様に自由自在で、ダイヤモンドの様に硬くすることのできる合成金属まで実現した今の人間には、無駄に重たいレンガで作られた家、浸水被害に会えば容赦なく腐る木の柱、定期的にさび止めを塗らなければあっという間に銅色になってしまう鉄柵が物珍しい様だ。


あまりにもろく、ベランダに出て洗濯物を干す時に起こる落下などの為に多くの建築物は鉄柵だけを取り換えているのに、わざわざこの町の特色を守りたいと、鉄柵もボロ屑のままで生活する者もいるらしい。


全くご苦労なことだ。


身の回りが最先端で固められている彼女には、ゴシップ建築の味や、わざと機能性を排除したものに関心を向ける価値観を理解することは出来ない。


しかし、彼女の退屈は理解不能な文化の重みよりは、本来その埋め合わせをするべきである傍らの青年が寡黙である事が大きい。


歩みを止め、クエロは隣を歩きながら、周りの建築物をじっくりと眺めている巨躯の青年にすがるようにしがみついた。


「アイギスゥ~…やっぱりムリ…乗っけて」


 甘えた声でねだるクロエにアイギスと呼ばれた青年は和やかな笑みを一瞬見せ、落ち着いた声で答えた。


「もうすぐ着くから。もう少しだけ、ガマンしてくれ」

 巨躯の青年はうっとうしい物を払いのける様な答え方ではなく、小さな子供をあやすように答えた。

その瞳には、僅かな申し訳なさが宿っていた。


「このパターンでもダメか…」とクロエが諦めた様に目を反らすと、巨躯の青年はまた建築物に目を向ける。


ゴシップ建築への関心興味というよりは、足場として活用する際に自分の体重を支えきれるか考えているのだろう。


 目立つ二人組だった。


片方は平均の背に、長めの髪を後頭部のバレッタで無理矢理に従わせた鳥の羽を思わせるような髪型の少女。


燃え盛るリコリスの様な髪色が幻想的で、瞳に写した物の脳裏を焼き付ける。対照的に乱せば消えてしまうような儚げな水面を思わせる水晶の様な瞳が美しい。


不満を隠しもせずに桜色の唇を引き結んでいるが、子供っぽい仕草がかえって整った顔立ちの美を目立たせている。


 隣を歩む巨躯の青年は、闇夜に瞬く落雷の様な、金と黒の入り混じった髪が短長を目立たせた髪型をしている。


荒々しさを連想させる逆v字の鼻元の傷が深緑の瞳を歴戦の闘士の様な灯に仕立て上げている。


208㎝の巨体は、鈍重さを思わせる事は無く、身長に比例しない痩身には極限まで凝縮された筋肉が根を張っていることが見て取れた。


 容姿だけでも十分に目立つ二人組だが、容姿は目立つ理由の四割にも値しない。


この二人をただの巨人と少女にしない最も強い要因は装備品だ。


 アイギスは肩掛けのリュックに付き添うように、全長170㎝程の大剣を肩に掛けている。身長に比例しない痩身が無駄の無い筋肉で形作られていると予測できる主要因だ。


一般人には振るはおろか、引きずる事も出来ないだろう。


 一方のクロエは、螺旋の水流の様な装飾の施された、実戦式というよりは儀礼用の芸術品さながらのサーベルを腰のホルスターに差している。

 旅行に出かけているかのような雰囲気の完全武装二人組は違和感そのものといっても過言ではない。


ただし、二人が大して噛み合っていないと言う事をクロエは自覚していた。


 雑談で時間を埋めていると、おおよそ100メートルほど先からざわめきが耳に入ってくる。


アイギスの十字架のピアスが尖った耳に連動して揺られる。


「ついたみたいだね」


 アイギスはそう言うが、通常の聴覚しか持ち合わせていないクロエは「何が?」と小首をかしげて見せた。


「すぐに分かるよ…」


 水滴に大きく波紋を浮かばせる水面の様な冷静な声色がクロエの耳に響いた。


長身の男のくせに女子みたいに長い睫毛を伏せ、詩を連ねる様に言ったアイギスにクロエが答える。


「な~にカッコ付けてんのよ!アイギスのくせにぃ~」


 生意気だとクロエの小さな肘がアイギスの脇腹をつつく。


 アイギスの考えでは「すぐに分かるなら時を待てば良い」ということだろうが、クロエの思考上は「どうせすぐならもったいぶらずに言って欲しい」となる。


 二人の思考は常に交差している。


二人で行動するようになってもう半年にもなるのに、そんなことも察する事が出来ないアイギスに無意味な怒りを覚える自分がいつからいたのかは分からない。


自分が単純に出来ていることぐらいは分かってはいるが、何処か不自然な違和感を覚える。


 気が付くと喧騒の塊がクロエの聴覚でも感知できるほどの距離に迫っていた。


「な~ンか随分大きな事件みたいね」


「そうじゃなきゃ、僕らは呼ばれないよ」


 喧騒の最後尾に接触すると、所々から火種が燃え広がっていくようにこそこそと話し始める。

どうやら、アイギスの巨躯に驚いているらしい。


見た目もさることながら、肩掛けバッグでも担ぐように軽々と肩に掛けた大剣もおおいに目立つ。


クロエには装飾の施された銀の儀礼式レイピアでも、走ったり飛んだりするには重い。

ましてやその何倍…いや十倍重くてもおかしくは無い、一般人の背丈ほどもある鉄の塊を背負い、不満一つ零さずに涼しい顔で歩いているのだからクロエには人一倍アイギスの屈強さを感じる。


こういったざわめきは何度か行った場所で無ければ、アイギスの訪れる場所には必ず起こる現象だった。


噂に耳を傾けると、どうやら背の高さは当然の事、眼の色などから「マーナガルン人か、レスティナ人か?」という会話をしているらしい。


確かにアイギスの様な緑の瞳に、一際大きな体を持つ人間はマーナガルンかレスティナの人間に思うだろうが、アイギスは彼らの様に長身に比例した丸太の様な体格でも、ごつごつとした岩の様な肌でも無く、身長を40㎝縮めれば丁度良い痩身に、陶器の様に白く、女子生徒が理想とする様な肌は温かみのある柔らかさを持っている。


細かく分析すれば、即答出来る。


アイギスはそのどちらの人種でも無い。

まるで注文して作られた様な、同じような特徴を持った人種が存在しない容姿をしているのだ。


パートナーとなった当初から、時折聞いてはいるが、アイギスは出身地も、人種も、血液型スラ答えた事は無かった。


ざわめく人々を気にしていないのか、聞かない様にしているのか、アイギスがタンスでもあさる様に容易く人垣を掻き分けていく。


小柄なクロエはアイギスの背にぴったりとくっついて人だまりを抜けていく。


 所在なさげに辺りを見回すと、流石は観光都市といった所か、人垣を形成しているのはほとんどが観光客である事が分かる。


一際目立つ黒い肌が数人、実際に見るのは初めてだが、黄色の肌をした極東からの観光客もいる。


そして、最も多いのが見慣れた白い肌に青の瞳を持つ観光客だ。


メナトラの現地人であることを証明する薄いエメラルドグリーンの瞳は喧騒の中に半分も見られなかった。


 前を進むアイギスが喧騒の先端に辿り着くと、責任者らしき男の人が息を切らして駆け寄ってきた。


「君か?配属された詠唱騎士は?」


「君」と言われた瞬間に「君達」で無い事に気付く。


目の前に壁の様にそびえ立つアイギスの巨躯をぐいぐいと押しのけ、横に並んで会話に割り込み乗車する。


本来なら最初から会話に入れられているはずなのに無駄に切れた息がちょっぴり悔しい。


 肩で大きく息をするクロエの横で、少し驚いた様子の刑事にアイギスが親指を横に倒して「彼女も」と短く言った。


刑事は一瞬目を見開いて驚いて見せたが、その反応には慣れっこで、初めのころの様に眉根に皺が寄る事も無く、特に何も思わなかった。


だが、その時はその時で、むくれたアタシに声を掛けて、不器用ながらも慰めてくれるアイギスの心遣いが嬉しくて、すぐに機嫌を直していた。


今となっては思い出の一ページだ。


 ぼんやりと過去を思い返していると、アイギスが手帳を証明書代わりに取り出したので、慌てて胸ポケットからクロエ・リフェンダーと書かれた手帳をアイギス・ビゾフニルと書かれた手帳に重ねる様にして手渡した。


 普段ならばこんな面倒なチェックはパスできるのだが、今日の場合は特別だった。


 状況は謎だった。詳しい事はまだ分かっていない。

鎮圧の任務がほとんどである二人にとって初の調査任務だった。


 二時間前…情報課調査報告室前にて


「三時にここで良いんだよね?」


 クロエが尋ねると、携帯端末の展開式ディスプレイを見ながらアイギスが頷いた。


アイギスが見ているのは、たった今二人宛てに送られてきた受信メールだ。


クロエもスカートのサイドポケットから携帯端末を取り出した。


マッチの箱を一回り大きくした程度の大きさのそれのサイドに突いたスライド式のスイッチをカチリと上に引き上げると、手品の様に四方に携帯端末そのものと同じ大きさのディスプレイが飛び出し、金属部が接合する。


寸分も違う事無く合わせられた元の五倍の大きさのディスプレイは人目では接合部を見分けられないほどにぴったりと一つになっている。


液晶についさっき受信したばかりのメールを映した。


―アイギス・ビゾフニル、クロエ・リフェンダー以下二名は現時刻から十分以内に情報課調査報告室に集合する事―


 最終確認をしてから(かんぬき)でも掛けられているかのような不落の城の門の様な重厚さを放つ扉を開く。


雰囲気とは対照的に、扉の下部に付いたレールは快く滑って二人を迎えてくれた。


雑然と積み重なった資料の置かれた室内を進むと、情報課のファロンがいた。


彼女の顔が視界に入った瞬間、クロエは思わず苦虫を噛み潰したような顔になるのを堪えた。


 女子にはあまり嬉しいものとは言えない長身を欠点に見せる事の無い大人びた顔立ちに、見つめるだけで誘惑している様な妖艶な瞳。

純金の髪に、海を宿したブルーの瞳。


そして何より気に食わないのが…凹凸のくっきりとした肢体はまるでスレンダーな体系のクロエを見下す様だ。


腹が立つというより、なんだか宛先不明の悲しみの感情が沸き起こる。


理想的なスタイルに、落ち着いた口調と柔らかな表情は、辞書にでも載っていそうな美人という雰囲気を醸し出している。


アイギスが隣にいる時に会いたくない女子生徒の欄に刻む様にしっかりとノミネートされている。


それもナンバーワンとしてだ。


「渡す資料はこれだけよ。それじゃぁ」


 ファロンがアイギスにウインクしてみせる。


もっと色々な絡みをしてくるかと思っていたが、以外にもそれだけで廊下と報告室を繋ぐ扉は閉じ切った。


十分眉根はヒクついていたが、怒りに発展することなど到底ない。


 アイギスと二人で手渡された資料に目を通す。


 午後一時三十分…観光都市メナトラにて謎のミストが発生。濃霧に覆われ、視界はほとんど利かない。


負傷者多数。

負傷の仕方などから、視界のせいでの事故等ではなく、明らかに生物の爪や牙によって傷つけられている事が確定。


町中に充満したミストが不可抗力により発生したミストか精霊(ブルーゼ)そのものであるかは不明。


さらに第二(セカンダ)研究所(シナプス)からの逃亡者シルフィー・グレイ、その他重位研究員一名の消息が掴めておらず、各地での警戒が呼びかけられている。

本件との関連性も考えられている...


PS…あっ、そう言えば、メナトラ地区座標F14―62の二階に位置する喫茶店「Hunter」は紅茶とイチゴケーキがとっても美味しいそうよ♪

いずれ時間の有る日にでも❤


ここ三日間で最大のニュースとしてどこの情報誌でも取り上げられている研究者シルフィー・グレイの失踪事件。


その一文を目にし、緊張に身を引き締めるまでは良いモノの…

 特にひっそりとするわけでもなく通知書の端に書かれた余計な文章を視界に入れてしまった時は思わず報告書を握り潰してしまうところだった。


 ファロンに限らず、情報課の女子は見た目のレベルが高いとは思っていたが、まさかここまで大胆にアプローチしてくるとは…


流石に予想していなかった。


そしてどういう理由かはいまいち良く分からないが、任務前にした休暇の約束は何よりの楽しみになるというのが詠唱騎士の(さが)だ。


見た目のレベルも高ければ、効果的な誘い方も分かっていて、なかなか侮れない。


そして喫茶店の名前ももはや当てつけとしか思えない。分かってはいるがあえて聞いてやる!!

一体何を狙っているといのだ?!


 鈍感な事極まりないアイギスが耐えきれない衝撃に体を震わせる私の横で絵に描いた高青年の涼しげな顔で微笑を零しながら


「良かったね。うらやましいよ」


と喫茶店に誘われたのが私だと勘違いしているのがさらに許せない。


「もういい!早くメナトラまで行きましょう」


 怒りなど通り越してしまって呆れた私は状況の掴めていないアイギスの手を強引に引いて学園の外の駐車場まで引っ張った。


 手帳に有る程度目を通した刑事が指を真北に差して「ここから80メートルほど先に」と短く言う。


 だが、正直な所、位置情報は当てにならない。


調査対象は召喚獣である以上は常に動いているのだろうし、気休めにでもと言ったところだろうか…


強いて言うのなら、現場に刻まれているかもしれない召喚門でも調査しろということだろう。


 腰を屈めてKライン(Keep Out 立ち入り禁止 ライン)

(常日頃から目にする物のため、同級生にもKラインと略している者が多い)をくぐる。


振り返ってアイギスを待っていると、常識外れの208㎝の巨躯の為か、もういっそのこと飛び越えてしまおうか、見苦しく屈んでくぐろうかと考え込んでいる。


 二歩三歩と歩を進めた辺りから「早く行きましょう」と促すと、さらに十秒近く悩んだ末5メートルほどの大げさなジャンプで飛び越え、余力に流される様に少し進んだ位置のクロエと並ぶ。


逸脱した脚力は器用に1,2メートル飛ぶことの方がかえって難しいのだろう。


「力が有りすぎるっていうのも不便なモノなのね」


 そう呟くと振り返ったアイギスが誇らしげに言った。


「否定はしないけど、それだけの代償で誰かを守れるなら、俺はどんなに不器用でも構わない」


 穏やかに笑って、アイギスは誇らしく語って見せた。


場にそぐわない不意打ちを受けたせいか思わず見入ってしまう。


その言葉にはどんな意味が込められているのだろう?

たった一言の真意を知るのは彼一人だけだ。


「守りたいのが誰なのかは、あえて聞かずに置いてあげる」


 悪戯めいた表情でクロエは言ってみせたが、その響きは静かなモノで、表情とは一致していなかった。


正直な所は…怖かったのだ。


自分が何を恐れているのかさえ、今の自分には分からないけれど、何処かにまっすぐに見据えなければならない物から目を背けてしまう様な感情が無かったとは言えない。


 二人の会話に必要な静寂が出来、ただ踵の低いヒールがタイルを小突く音だけが耳に入ってくる。


 自分が会話を止めてしまった事に耐え兼ね、クロエが何度も開こうとして詰まっていた唇を今度こそ開き、当たり障りのない話題を切り出した。


「それにしても凄い霧ね」


「ああ、ここに来てまた一段と濃くなったね。召喚獣に近付いてるって意味かもしれない」


 ミストにも、自然に出来た霧を覗いて二つある。


 主要因によるミスト。

つまり、ミストを放散させる目的で、放った物なのか?

それとも、副産物のミスト。

属性に精通する召喚獣を現界させた際に司る属性を露わした物なのか?


見分けが付かず、どちらかが分かれば対処もしやすいのだが、これだけの濃霧となると、よほどの召喚獣を現界させたとも捉える事が出来るし、視界を奪う為に放ったミストとも捉える事が出来る。


「だとしたらよっぽどヤバイ奴そうね…考えたくも無いわ」


 思わず身震いしてしまう。


(ウェイバー)の召喚獣で大物と言ったら…

サメや魚ならばまだ良いのだが、ここが陸地である以上想像が出来なくて恐ろしい。


ヌメヌメしてたら全部アイギスに任せてしまおうかと本気で思ってしまう。


「ははっ、それは俺もカンベ――


 言の葉を打ち切る刹那、アイギスの三半規管に空を裂く飛翔音がこだました。


ジャガガッツ!!と右足を軸にして身を返し、空に砂塵となり果てたタイル片が土埃の様に巻き起こる。


ギロチンの首枷となったアイギスの強靭な腕が首元に飛び込んだ獣の喉を掴み上げる。


「―っと、危ねっ」


 掴み上げた獣を叩きつけ、振り下ろした足で抑え込む。


叩きつけられた獣は鈍い音を響かせ活動を停止する。


「なっ、何よこれ?!見た事無いわ」


 アイギスの抑えつける獣は実際にはおろか、資料でも見た事の無い物だった。


「存在しないって意味なんじゃないかな…新種とか?」


 そう言ってアイギスは足元の獣をじっくりとその眼に焼き付ける。


牙はサメの歯に近く、だらしなく開いた大口には何層も牙が連なっていた。


顔面はネコやハイエナにも見えるが、所々に魚類の持つ鱗が付いている。

首元には陸上生物には必要のないエラが付いており、爪の間には羽の様に広げられた水かきが付いている。


その姿は異様としか言えない。


「それは無いわね。新種ならここまで余計というか…魚類の特徴だけをやたらめったら取り入れた様な進化はするかしら?」


 しばらくの沈黙を置いて、アイギスが大剣に寄り添うようにして肩に掛けられたバッグから注射器を取り出した。


あてにならない憶測を並べるよりも、遺伝子情報を元にして情報処理に任せるのが最善と判断したのだろう。


「他にもこんなのがいそうだね」


「最悪…」


 涼しげに言い放つアイギスに率直な感想を一言で返す。


何が何だか分からない合成されたみたいに異様な姿をした召喚獣が他にもうようよしてたら、もっと悲惨な容姿のモノを見る羽目になるかもしれない。


ばれたら悪戯を仕掛けられたりするかも知れないので隠しているが、ヌメッとした皮膚と鱗が大の苦手なのだ。想像してしまい思わず口を押さえた。


「発生源はこの辺りだ。何が出てきてもおかしくないから用心しておかないとね」


 腰に下げるレイピア銀翼(ブル)の(ー)(タス)()を握り直す。


ふと、階段を踏み外しそうになった様な違和感が背を走り抜ける。

足元に感じた違和感に目を向けた。

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