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陽だまりのマゼンタ  作者: しぼりかぼす
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Prologue

          陽だまりのマゼンタ

                                              しぼりかぼす


           PROLOGUE


 三つの生き方が有るのならば、人はどう生きていくのだろう?


 無限の渇きを訴える渇望の化身である人間。


 絆という名の一筋の光に沿って生きる者、祈祷師(デモニカ)

 たとえ多くを失おうとも、決して立ち止まらぬ力の極致…争い(ストライフ)


 全ての者は歩み、傷付き、その儚くも美しい人生をどのように描き上げていくのだろう?


精霊(ブローゼ)達の世界、


それは人の侵してはならない領域、


はじまりはいつだろう?


一人の人間は許された。


心を通わす事を、

踏み入る事を、

選ばれた人間達はやがて祈祷師(デモニカ)と呼ばれた。



 第一章 赤のリコリス、深緑の大輪


 まるでこの世の終わりの様だ。


 草木も生えぬ枯れ果てた大地に墓標の様に突き立てられた剣。

深々と死の砂に突き刺さるその姿は、まるで朽ち果てた死者の骨の様だ。


その一つ一つに規則性など無く、クロスし、そのまた上から降り注いで組み立てられた剣達は、死してなお死に切れぬ屍の様だった。


その場に向かい合う者がいた。


一人は二メートル超の巨躯に、それに見合わぬ痩身。深緑の瞳は優しげだが、確固たる意志を宿している。


一人は深緑の瞳を宿した戦士には及ばぬが、およそ人のモノとは思い難い五体に、憤怒を具現化した様な火山を思わせる赤髪に宝石の様に純な輝きでなく、黒々と燃えたぎる炎獄の瞳を宿している。


二人に迷いは無かった。


炎獄の戦士の瞳は、万物を貫き、さらに灰となり果てるまで燃やし尽くす様な威圧感を放っている。

炎獄の瞳に真正面から射抜かれながらも、深緑の瞳の戦士は一歩も譲らない。


深緑の戦士の肩口から突き出た柄を辿れば、通常の人の身長ほども有る刃渡りに、それに見合った厚みを兼ね備えた異形の大剣が鎮座している。


武骨な刃の元に施された十字架の様な装飾が更に異様さを増して伝える。その異形は牙を剥き出しにした獅子を思わせる。


炎獄の戦士が腰に差す長剣は、細長い印象を与える刀身を持ちながらも、巨龍すら一振りの元に沈む至高の刃だ。


深緑の戦士の暴君の獅子を思わせる大剣に対し、炎獄の戦士の剣は神の洗礼を受けたかのように白銀の光沢を惜しみなく放つ…聖剣を思わせた。


炎獄の戦士は高貴な白銀の甲冑を…


深緑の戦士は黒の衣服を身に纏う。


まるで、今この瞬間、世界は相対する二人の戦士の為だけの闘技場となっているようだ。


 炎獄の戦士は片翼を表す様に右側の手に持つ剣を肩の高さに構えた。

片翼が指すは、朽ち果てた左翼の傷跡ではなく、なおも羽ばたかんとする誇りだろう。鏡の様に澄み渡った白刃が戦士の決意の眼差しを焼き付けた。


 そして果たし合いの幕が開く。


 深緑の戦士の踏み込んだ右足が、鉄槌を振り下ろしたかの様に辺り一面に地響きを起こさせた。


ビリビリと全身を震わせる緊張、本能が泡立つ戦慄。


空間を砕いていく様な疾走を超えた爆走。踏み込んでいく足跡をなぞっていく様に地はその身を歪ませていく。


深緑の戦士は肩から突き出た大剣の柄を万力の如く握り込み、引き千切る様な勢いで抜刀する。

走力を力に変えた一振りがギロチンとなって炎獄の戦士の首を食いちぎらんと奔走した。


 冷酷なギロチンの刃の様に、怒り猛る猛獣の爪牙の如く迫り来る大剣を、炎獄の戦士は片翼の如く肩の高さに構えた白刃で迎え撃つ。


一号目が交える刹那、辺り一面の空気が一瞬封じ込められたように静まり、さらに数瞬後、弾かれるように衝撃波(ショックウェーヴ)となって空間を揺るがす。


 ギリギリと刃の削り合いが続くも、深緑の戦士の漆黒の大剣も、炎獄の戦士の白刃も僅か一ミリの歪みも傷も見せない。

威嚇し合う大剣と白刃はまるで猛獣の様だ。


 競り合いが続き、耐え兼ねた刃がお互いの刃をレールの様に削ぎ合い、鮮血の如く火花を散らし、強引に振り切られる。


莫大な力達の強引な押し合いの果てに、鉄の咆哮が轟射され、辺り一面の鉄の海に反響し、嵐の様に駆け抜けていく。


引き裂く様に唇を広げ、愉快そうな狂笑を炎獄の戦士が吐き出した。


触れる者まで狂気の世界に引きずり込んでいく様な狂笑は舌なめずりをする悪魔を思わせた。


「さぁ!全てを…終わりにしよう!!」

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