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猫耳メイドは勇者の夢をみる―Brave Rune Online―  作者: 五月猫
第一章 ようこそBrave Rune Onlineの世界
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フィール・エル―シュア

 フィール・エルーシュアはエルーシュア家の長女としてこの世界に誕生した。


 幼い頃から数々の習い事をし、将来は大貴族と結婚する運命になっていた。

 両親はフィールを思い習い事をさせていた。

 だがある時を境にフィールは習い事を怠り始めた。

 何故そのような事態になったのか両親は探ることにした。


 結論から言えば、勇者に恋をした。

 

 両親はそれを不快に思った。

 何故あのような奴をフィールは好きになったのかと。

 今までフィールを思い、尽くしてきたのにあいつにすべて壊された。

 フィールの父親はそう思い、勇者を騎士に襲わせ排除することにした。

 もちろんそんなことは知らないフィールは来る日も来る日も勇者を待ち続けた。

 そこに現れるはずのない勇者を。


 待ち続けてから数年――

 

 フィールにお見合い話が来た。

 当然フィールはそれを断り、自分は勇者が来るまで誰も好きにはならないと決めていた。

 それを察した両親はその思いを断ち切るため、志半ばにして貴族と結婚させた。

 大貴族ではないが、街では名の知れた貴族であった。

 

 フィールは貴族の元で暮らしていた。

 だがある時から貴族のフィールに対する扱いが変わる。

 貴族はフィールにメイド服を着せ、朝から晩まで仕事をさせた。

 貴族は気づいていたフィールは自分に気がないことを。

 それに知った貴族は怒り、メイドとして扱うことに決めた。

 

 それから二年立ったある日。

 フィールは勇者を探しに行くことを決め家を出た。

 いつまでも囚われているのなら自分から外に出て行くと心に決めて。

 

 薬瓶を籠にしまい家を出る。

 警護していた騎士達に出会ったが何も聞かれはしなかった。

 おそらく買い物にでも出かけているように見えるのだろう。

 誰にも気づかれてないことが、とても面白い。

 馬鹿な奴らと心では思うが口にはしない。

 

 街を抜け近くの森に身を隠すために入ることにした。

 そこは暗く陽の光が僅かにしか入らない森。

 小さい頃に両親が話していたベールハウンドの森を思い出す。


 ベールハウンドの森はベールハウンドが住む場所で冒険者でも生きて帰れた者は少ない。

 またの名を冒険者の墓場。


 場所までは思い出せないが、おそらくこの森ではないと思いひたすら突き進む。

 引き返しはしない。

 捕らえられたら処刑されるのではないかと恐怖で足が震える。

 

 森を中腹まで進んだだろうか。

 先程からやけに犬の鳴き声がする。


 辺りにはモンスターの気配はない。

 そう思った矢先、一匹の獣に出会った。

 犬型でグルルとこちら見ながら唸っている。

 そして大きく泣き叫んだ。

 獣が泣き叫ぶと近くにいた獣がぞろぞろと集まりいつの間にか囲まれていた。

 後ろに下がろうとしても後ろには唸り声を上げながらこちらを睨む獣がいる。

 フィールは死を覚悟した。


 勇者に会えないのならここで死んだほうがマシだ、それだけが脳内に浮かぶ。

 だが心のどこかでは死にたくないと思った。

 フィールは胸の前で手を組み祈る。

 勇者様……助けて下さいと。


 獣はそんな様子を唸りながら見ていた。

 さすがにその姿を見飽きたのか傷の多きボスのような獣が叫びだした。

 その瞬間、一気に襲い始める。

 フィールはだた祈りを捧げた。


爪を出し遅い掛かってくる獣達の唸り声がただ響き渡る。


 だがいつまで立っても死は訪れなかった。

 周りには獣が氷漬けにされた光景が目に入る。

 よく見るとその先で手を前に突き出している者がいた。

 その青年はどこか懐かしさを感じる。

 否懐かしきあの勇者だった。


 すぐさま勇者に駆け寄り抱きついた。

 泣きながら力強く抱きつく。

 嬉しかった。

 温かかった。

 これまで我慢していた思いが一気に溢れ出す。


「あぁ、勇者様! またお会いしましたね! 私……信じておりました必ず助けに来てくださると!」

 

 思いを伝える。

 信じていた勇者にまた助けてもらえたそれだけでフィールは満足だった。


 だが勇者は予想をしていない返答を返してきた。


「悪い。俺達は初めて会ったはずだ。それに俺は勇者じゃない」

 

 そんなはずはない。

 姿こそは違うが、そこにいるのは確かに勇者だ。

 これだけは間違いないと確信していた。


「私は見間違えたりしません! 勇者様は私を昔助けて下さいました。お忘れになられたのですか?」

 

 絶対に間違いはない。

 大好きな勇者を間違えたりはしない。


「すまない。俺はお前を助けたのは今が初めてだ」


 思いが砕けちる音がした。

 フィールはその場に膝を付き涙を流した。

 

 勇者に忘れられたことが悲しかった。

 一体私は何のために勇者を探していたのかと思う。

 これまでどんな仕打ちをされても勇者のことを思うと頑張れた。

 しかしこの思いはすべて無になった。


「そうですよね……私なんて……私なんて……」


 涙が止まらない。

 もう悲しくないのに涙がいつまでも溢れ出る。

 

「悪かった。すまない」

 

 その人は謝ってきた。

 だがこの人が悪いわけではない、いつまでも勇者を思っていた私が悪いのだと思う。


「いえ、いつまでも思い出に浸っていた私が悪いのです。貴方様は悪くありません。助けていただきありがとうございます。それでは」

 

 ここにいる必要はないどこか遠くの街に行かなければと思いその場を放れることにした。

 いつ貴族の手下が追ってくるか分からない。

 

「待て! どこに行く? ここにはモンスターがいるぞ」

 

 勇者は心配してか声を掛けてきた。

 

「私はこの薬を街に届けなければ行けません。ここにいつまでもいることは出来ません」

 

 口から嘘が漏れる。

 こんなのは嘘だ。

 だけどこの場にいてこの人に迷惑を掛けるつもりはない。

 そう思い進む。

 だが地面に根を張る木に躓く。

 足元を確認していなかった。

 すぐさま立ち上がり先に進もうとした、しかし足が痛い。

 立ち上がるにも右足に力が入らない。

 

「大丈夫か?」


 その人は優しく声を掛ける。

 その優しさが私には心苦しい。

 そっとその人は手を差し伸べる。

 立てないのは事実だ仕方なく手を取る。


「ありがとうございます。では……痛っ」

 

 痛かろうとこれ以上はお世話になるつもりはない。

 先に進もうとしたとき、


「足を見せてみろ」


 その人はそう口にする。

 迷いは合ったが、足を見せると腫れ上がっていた。

 その人は困った顔をしていた。

 しかしすぐにその顔は変わり私に背中を向けてきた。


「乗れ、歩けないだろ? 俺が街までついて行ってやる」

 

 優しすぎた、私には勿体無いくらいに。


「いいのですか?」

「もちろんだ。こんなとこで怪我した奴を見捨てるわけないだろ」

 

 やはりこの人は勇者だと思う。

 どこまでも優しく人を大切にしてくれる。


「ありがとうございます!」

 

 背中に乗りながらお礼を述べる。

 心の中で砕けた思いとは別に新たな思いが生まれる。


 ――この人と一緒に居てもいいのかも


 好きというわけではない、だけどどこか嫌いにもなれない。

 ただ一緒にいたい。

 そう思えた。


「なぁお前名前はなんて言うんだ?」

 

 名前を聞かれた。

 そういえば勇者様は名前を言っていなかった。

 まだ知らないことが多かったと今更ながら後悔する。


「私はフィールと申します。貴方様は?」

「俺は宗一郎だ」

「宗一郎様ですか。いい名前ですね」

 

 宗一郎、聞いたことのない名前だけど初めて聞いた気がしない。


「そうか?」

「両親が授けてくださった大切な名前です。ダメなはずがありません」

「フィールもいいと思うぞ」

「お世辞は結構ですよ?」

「お世辞じゃない。本心だ」

「そうですかありがとうございます。優しいお方なのですね」

 

 宗一郎様はやはり勇者様と同じく優しかった。

 出会えてよかった。

 そう思えたこの瞬間に私はほっと胸を撫で下ろした。




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