猫耳メイドとの出会い
一人メイド姿の少女は森を彷徨う。
方向が分からず道に迷っている。
「ここどこー? 誰か助けて……」
助けを呼ぶ声は獣の声によって掻き消される。
「グルルルルルル……」
「いやぁー! こっちに来ないで!」
獣は静かに少女に近付く。
メイド服に鼻を近付け匂いを嗅ぐ。
そして一吠え。
「ガウッ!」
どうやら敵と判断されたようだ。
獣の叫び声に反応したのか近くにいた獣までもが集まる。
少女は手を胸の前で組み祈る。
「誰か……助けて……勇者様」
必死に祈るが人が現れる気配はない。
獣は顔を合わせながら何か話している。
だがその話し合いも終わり、少女を見つめる。
口元には涎が垂れ今にでも喰われることは少女には分かる。
必死に祈る。
小さい時に出会った勇者を思い出し、弱々しい声でその名を呼ぶ。
「お願い。勇者様……助けてください……」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺は街をから逃げるように森へと向かう。
盗み聞きした噂によると森の中に牛に近いモンスターがいるとか、それを探しに森へと潜る。
一応マップを表示させ常に出口は確認しておく。
「おい、牛型のモンスターなんていないぞ。デマか」
文句を言うが森の中腹にまで潜ったため戻る気もない。
「グルルルルルル…………」
犬型のモンスターが目の前に現れる。
咄嗟に手を突き出し無詠唱魔法の唱えようとするが、足早に立ち去っていく。
「ふ、ビビったのかあいつ」
馬鹿にしていると、遠くでさっきのモンスターの叫び声が森のなかに響き渡る。
「今度は何だ? あっちから聞こえたな行ってみるか」
叫び声のする方へ走ると、無数のモンスターが集まっていた。
「何だ? 牛型のモンスターでもいたのか?」
足音を立てないように回り込みモンスターが集まるところの中心に目をやると、一人の少女が手を組み座り込んでいる。
「あいつなんで逃げない、危ない!」
モンスタ―が爪で切り裂こうとしていた。
「――――無詠唱ルーンブリザード連魔!」
冷気の塊がモンスタの集団を氷漬けにさせる。
少女はそれに気づきこちらを見るとすぐに動き出した。
その目には溢れんばかりに涙を溜め、今にも零れ落ちそうだ。
「勇者様! またお会いしましたね! 私……信じておりました必ず助けに来てくださると!」
溜めていた涙を流しながら俺に少女は抱きついてくる。
だが俺は前に助けた覚えはない。
そもそもこのゲームを始めたのがついさっきだ、人違いでしかない。
「悪い。俺達は初めて会ったはずだ。それに俺は勇者じゃない」
そう俺は勇者じゃない。
ただのプレイヤーだ。
このクソゲーのテスターだ。
「私は見間違えたりしません! 勇者様は私を昔助けて下さいました。お忘れになられたのですか?」
「すまない。俺はお前を助けたのは今が初めてだ」
少女はその場に膝を付き泣き出す。
なんて声を掛ければいいのか分からない。
「そうですよね……私なんて……私なんて……」
その声は寂しさを感じる。
この状況で、どんな言葉を言えばこの少女は泣き止むのか、馬鹿な頭を精一杯動かし考える。
だが無意識に思ってもないことを口にした。
「悪かった。すまない」
俺は普段から人に謝ることが嫌いだ。
なのに今の俺は少女に頭を下げ謝っていた。
何をしてるんだ……俺は。
「いえ、いつまでも思い出に浸っていた私が悪いのです。貴方様は悪くありません。助けていただきありがとうございます。それでは」
覚束ない足で、森の奥へと歩いて行く。
「待て! どこに行く? そこらにはモンスターがいるぞ」
「私はこの薬を街に届けなければ行けません。ここにいつまでもいることは出来ません」
少女はそう言うと森のなかへと進もうとして木に躓く。
「大丈夫か?」
その場に向かい手を差し伸べ立たせてやる。
「ありがとうございます。では……痛っ」
躓いた時に足を軽く痛めたのだろう。
「足を見せてみろ」
スカート小さく捲り、足を見せる。
どうやら軽い捻挫のようだ。
あいにく治療薬を持ちあわせていない。買う予定だったがネロリアでは売ってくれないだろう。
俺は腰を下ろし背中を少女に向ける。
「乗れ、歩けないだろ? 俺が街までついて行ってやる」
「いいのですか?」
「もちろんだ。こんなとこで怪我した奴を見捨てるわけないだろ」
「ありがとうございます!」
そっと俺の背中に少女が顔を近づける。
「ひゃあ!」
「す、すみません!」
「いや、少し驚いただけだ。気にするな」
そういえば名前を聞いてないな。
一応聞いておくことにしておこう。
お互い知らないままよりはいいだろう。
「なぁお前名前はなんて言うんだ?」
「私はフィールと申します。貴方様は?」
「俺は宗一郎だ」
「宗一郎様ですか。いい名前ですね」
「そうか?」
「両親が授けてくださった大切な名前です。ダメなはずがありません」
「フィールもいいと思うぞ」
「お世辞は結構ですよ?」
「お世辞じゃない。本心だ」
「そうですかありがとうございます。優しいお方なのですね」
いい名前か……そんなこと思ったこともないな。
軽くフィールは笑う。その笑顔に少しドキドキしたが、現実よりも平常心を保てている。
「さて今日はここらで休むか」
「そうですね。もう暗くなってきましたので」
森を先に進み、開けた場所で今日は休むことにする。
近くに落ちている薪を集めルーンファイアで火を起こす。
「――――無詠唱ルーンファイア」
昔、学校行事でキャンプした時に火を起こすのに苦労したことを思い出す。
原始的なやり方で火を起こしたが今は魔法一つで火を起こせる。
「すごいです! 魔法ですね! いいなぁ私は魔力がないので魔法が使えないですから」
「魔力がないってことがあるんだな」
俺は魔力が最初からあるがない奴もいる。いや俺でも種族が違えば魔力がないのかも知れないな。
一応フィールの種族を聞くことにした。
「フィールの種族って何だ?」
「私は、プシー種ですよ。ほらここに耳がありますよね?」
「気付かなかった。だがやけに人に顔が近くないか?」
「私はハーフなので、母が人種で、父がプシー種でしたよ」
「人種っているんだな…………」
「何か言いましたか?」
「いや独り言だ。気にするな」
天然の猫耳メイドか、悪くないな。
それにしても人種がいるのは驚いた。
人種はプレイヤーだけだと思ったが一応存在するんだな。
まぁ俺は人種ではなくルーン種なんだがな。
「宗一郎様は何種ですか?」
「俺か? 俺は………………ルーン種だ」
「えっ…………」
フィールは驚いていた。
それもそのはずさっきいた街はルーン種を嫌っていた。
このルーン種とは一体何をしたんだよ。
「宗一郎様はルーン種なのに私を助けてくださったのですか?」
「あぁ、フィールが危ない状況だったんだ助けるだろ?普通は」
「噂に聞くルーン種とは違いますね」
「噂ってなんだよ?」
どんな噂が出回ってるんだよ!
「ルーン種は、すべての種族を嫌い。すべての種族に恨みを持ち、平気で人を殺す悪魔の種族です」
「酷い言われようだな」
本当にこの種族クソだな。
いやこの種族を考えた運営の奴らがクソだな。
ハズレくじ引いたな俺。
「でも宗一郎様はオーラが違います。ルーン種が放つ殺気のような禍々しいオーラではなく、どこか優しい温もりを感じるオーラです」
「オーラ? そんなの出てんのか? 何も見えんが」
「オーラは私達プシー種の得意能力です!」
プシー種のことがそこそこ知れた気がする。
それにしてもこうやって火を囲んで話していると現実世界でキャンプに来たみたいでなんかいいな。
嫌なことも忘れられる。それに心が落ち着ける。
「……ん……なんか眠いな」
「私も眠くなってきました……」
疲れが溜まっていたためかすぐに寝ることができた。
まぁ疲れを溜めておくのは危険だからなゆっくり休もう。
「ふわぁーおはようございます宗一郎様」
「ん? なんだこの抱き枕ように柔らかいのは……」
目の前には俺に抱きつかれ困惑しているフィールがいた。
「…………あ、悪い!」
急いで俺は起き上がると顔を合わせないようにして薪に火をつける。
「いえ、私でよければいつでも」
いやそんなつもりはない。
ちょっと寒くて抱きついてしまっただけだ。
フィールをどうにかしようなんて思ってないぞ決して。
フィールは胸の前で指をモジモジと動かし、下を俯いている。
何を照れてるんだお前は!
「フィール、俺は何もする気はない」
「そ、そうですか……」
なんでそんな残念そうなんだよ!
俺はロリコンじゃない。だからフィールに手を出すことはない。
「頼むから誰か証明してくれ…………」
その声は静かに消え去っていった。
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