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Sa ra i ra  作者: 白先綾
「太陽と月が泣いたのは、どうしようもなく昼で」

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「黒、夢の中へ」

 暫らく影に目線を釘付けにされる、思えばこうして真に闇の色と言うのを瞳閉ざす時以外で拝むのはこの世界に入り込んでから初めての事であり彼女は自分が空想し続けた色を食う色に見惚れていた。そしてその影が他の物にも与えられていないか、他の物もこの世界に遂に実在として認められしてはいないかと淡い期待を抱いて周りを見渡すがあいにく影を与えられそうな明確に天の方向に伸びている物体は自分の肉体以外には見当たらなかった。それでも今までの影無しと言う事の狂気を和らげるこの確かな自分と言う闇の人の地面に住まう姿は十分に先程の喉を潤した水滴相当に彼女を喜ばせた。余りの嬉しさに彼女はついさっきまで川を覗き込み黄昏れていた様歪んだ物理の水に恐れを成していた様が初めから無かった様子で有るかの表情挙動で影と踊り出した。影はどんなに自分が押さえ切れない感情に手足を振り乱し全身でその感情を表現しようとしてもその踊りを完璧に模倣してくれる最高のダンスパートナーだった、それは勿論影は自分の挙動の黒い地面への投写でしかないのだから当たり前なのだがその当たり前が当たり前では無くなっている世界を当たり前として受け止め始めていた、当たり前で有って欲しい物事の当たり前と言う性質をもはや投げ捨てようか諦めようかとしていた彼女にはそんな影の在り方それだけで堪らなく嬉しかった。だが、ずっと踊り続けて全く自分が心地良い疲労感を覚えない、踊る体の情熱に噴き出す爽やかな汗をかけない事に気付きまた心の陰りを戻した彼女は踊るのを止めてじっと川に対してした様に影を見つめ出した。そして地面に倒れ込む、愛しい影と言うかつての日常の欠片を抱き締めるかの様にうつ伏せになった。うつ伏せのまま、彼女は泣き出してしまった、この影を見た事で強烈に沸き起こって来たかつての日常への憧れが彼女をきつく苦しめた。この影は平和な日常と言う有るべき世界に繋がっているに違いない、少なくともこの世界の要素としては随分異質だ、この影としての真っ黒な私は多分平和な日常の私が落とす影、この厚く閉ざされた地面の向こうの有るべき世界に居る私が見せる幻なのだろう、これは偽りの光偽りの空偽りの太陽に見つめられる事から逃げる事が出来ない囚人を哀れに思った幸せなもう一人の与える者としての私が与えられる者としてのこの私に与える夢の餌で、その夢の餌を食べ続けてなんとか夢の無い世界であるここで生き延びて見せろと言う事なのだろう。地面の向こうにもう一人の自分が居ると言う夢を抱きながら彼女はそっと瞳を閉じた。世界は闇に沈む、影の自分が自分の視界全てを覆う程に大きくなり自分を全て取り囲んでしまった、彼女は影の自分を、もう一人の自分の闇の衣を身に纏ったのだ。彼女はまるで自分を全て取り囲んでしまえる程大きな母親に抱き締められた赤子の様に安心して眠気を覚えて来た。一つ違うのは、抱き締めてくれる母親の肌が妙に硬く優しげでは無いと言う事だがそれでも彼女は母親の様な大きな存在を感じて居られるだけで、この世界の恐ろしさを或る程度忘れさせてくれるだけで良かった。

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