「黒、旅立ち」
泣き止み、暫し茫然自失。泣くと言う巨大な叫びに対応し泣かなくてはならない程の自分ではどうしようもない己の身に有る欠落を穴埋めしてくれる筈の存在、優しみの強者親にその叫びを受け入れて貰える事が無い、と言う向希望発展要素の零が判明した場合、子供は、泣き止む、余りにも弱く小さな己の抱える余りにも強く大いなる闇の中で、親鳥が狩られたかして帰って来なくなってしまった雛鳥の最期の夜の姿の様に、縮こまり、何をする事も無く、何を望む事も無く、その涙を失った黒い瞳をじんわりとその瞳より更に黒い闇の色に染め上げていく、光へ羽ばたける未来を親鳥の姿に垣間見た筈の雛鳥が、光届かぬ闇に抱かれていく。彼女は、だが、親が助けなければ死を待つ事しか出来ない子供では無かった、そしてどうしようもない様な場面で泣く事しか出来なかったのだから生命の道筋を自ら切り開く意志と力を兼ね備えた大人と言う訳でもない彼女は、助けとなる存在を必要とした、自分とその存在とでやっと一人前の大人の仲間入りと言えそうな、二本ずつ有る手足の様に自分の心にとっての対となってくれそうな。彼女は大体見当がついていた、先程の、太陽、本来の姿かどうかは定かではないが太陽の赤子として見えていた、暖かな感じのした存在、あれが多分自分にとって非常に重要な助けとなってくれるだろう、この呪われた静の絵画から脱出しようとする哀れな囚人の手を引いて確かな方向へと導いてくれる事だろう。希望を、思い出した、いや一度完全にその精神から消去した物であるから、知った彼女は、今度は泣く代わりに笑おうとしていた、笑い声がその今は彼女の泣き声に驚いたか何処かへと離れ行ってしまった太陽の赤子を探し出そうと立ち上がる自分の背中を押してくれる手、いつか健康的で元気だった頃の自分自身が押してくれる幻の手を呼ぶ魔法の声になると思ったからだ。だが、彼女は今はまだ笑えなかった、頭上の太陽が眩し過ぎた。彼女は、自分が闇に沈む事を強要し続けた、絶えず強烈に自らを照らし続けた太陽を忌み嫌っていた、そしてそれ以上に、畏れていた。それでも彼女は、そんな光の投げ掛けをする神の姿をした天の悪魔の赤子と歩を共にしたいと思った、太陽と仲良くならなくては、自分の心に再び光の芽が生える事は無い、と言う事を直感で感じ取っていたからだ。太陽の赤子とならば、きっと自分は太陽との関係改善を上手く出来るに違いない、そう信じて彼女は立ち上がった。頭上の太陽を、怖さで目蓋を閉じながら目蓋越しに透かし見た。弱弱しく彼女の目蓋を貫く光が、彼女の目蓋の裏側の闇を少しだけ削り取った。




