表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sa ra i ra  作者: 白先綾
「太陽と月がそばに居て、それでも世界は夜を望んで」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/24

「黒と白、沈黙」

 言葉と殺意の蜘蛛糸に絡め取られた黒鳳、今も丹念に獲物を取り分けようと言った飢えた蜘蛛植物達に更なる糸で縛り上げられている所だ。彼らの言葉は続く、ただ、彼らが一方的に話し掛けると言うのはもう終わり、今度は弱々しく浮かんで来る彼女の心の疑問に対しての返答の形式になっていた。

 何故、あの草や花は形が有るのに触るだけで死んでしまうの?返答、奴等は我々と違ってこの世界でかつて己を保つ為の存在だった影の保有領域が少ない。それ故影の捕食もままならずこのままではまともに生きていけないと分かったので死を選んだのだ、だがそれは単純な死ではない、生物は影を保てないと言う位で自分は死ななくてはならないとは簡単に納得出来ないものなのだ、奴等は自らが完璧な形を保ったまま死を選んだものだから死にながらどうしても自分が生き続けていると言う誤解を捨てられなかった。そして影の分身であるお前に触られてやっと自分が死んでいる事を理解して成仏出来たと言う事ではないか。奴等は自ら死を選ぶしかなかった出来損ないの植物だが、かつては我々の仲間と呼ぶ事が出来た存在だ。お前が奴等をどんな形であれ葬ってくれた事には素直に感謝を述べよう。

 何故、この世界には人の生きた証が無いの?返答、この世界は、完全に植物の世界なのだ、自然界そのものなのだ、人間が後から築き上げた文化などはこの世界で存在を保つ事は出来ない。

 あの川の向こう側の世界は一体何?返答、あれは動物、特に人間主体だった世界の名残だ、我々の居るこの世界とあの破棄された古の世界とはもはや次元を異にする。今世界は生まれ変わろうとして居る、物理的存在の世界から我々精神的存在の世界へと。

 その精神的世界と言うのはどう言う物になると言うの?闇に閉ざされた、闇の快楽の世界になるだろう。我々ももう闇だけを愛する存在にすっかり変容してしまった。その我々に一番適した環境、空間がこれから形作られていく事になる筈だ。ただし、このままあの太陽の花が上手い事朽ち果ててくれればの話だろうが。

 何の変容も無い、完全な静の世界と言う事か。だが、それならば私に赤子の様に撫でる事を要求してきたあの水は一体なんだと言うのだ。あれは正しく変化を望む者の一員ではないのか。今になって吹き始めて来た風にしたってそうだ、やはりこの世界の本当に有るべき姿が静の方向に有るとは思えない。植物だとて、本来的には静の生き物ではないだろう、太陽に向かって力一杯枝葉を伸ばし、地に染みた水を逞しく吸い込み、愛らしい花々を付け、風に虫に鳥にその花粉その種を運ばせる、そんな素晴らしく活動的な生き方がその有るべき姿ではないか。植物に静世界への憧れが大きいのは理解出来るが、それでも動物と共に歩む道を選んで欲しい、上手な共存の道を人間が知らなかった結果こう言う神の怒りが生んだとしか言い様の無い悲しい世界が一つの答えとして導き出されてしまったのだとしても。返答、やはりお前は人間側の発想をするのだな、我々は人間にもはや希望など持てない、何故こんな植物にとって都合の良い世界が形作られたのかは分からないが、それでも元居た世界に帰りたいとは微塵も思わない。人間は神にでもなったつもりで自然を我が物顔に弄び過ぎた、これは当然の帰結なのだよ、神は出来損ないと分かっていた人間を諦め切れず自然を与えたが、人間はその与えられた宝物を玩具だとしか思わなかった。子供から成長出来なかったのだよ、お前達人間は。それに対する彼女の返答は無かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ