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Sa ra i ra  作者: 白先綾
「太陽と月がそばに居て、それでも世界は夜を望んで」

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17/24

「黒と白、再会」

 手に、再度の違和感。もう川を撫でるのをとうに止めていたので波が手に押し寄せて来たのではない、それ以前に違和感は下方からの物ではない、手の上にその無刺激と言う停滞を破りし物が舞い降りた。彼女は驚き早速その右手に降りた謎の感触の原因を探るべく首を起こし、手の上を確認する、するとそこに有ったのは小さな太陽だった。彼女は更に驚いた、彼女が求め続けた光の赤子の欠片とでも言えそうな物が、こうしてそれを求めるのを諦めてしまってから彼女に与えられたのだ。余りにも小さな、風に乗って運ばれて来たのだろうそれがまた風に連れ去られてしまう前に彼女はそっと太陽の欠片の乗っていない左手を右手の甲に被せた。被せてからしばし止まる、彼女はこれが一体何なのか考えるだけで動悸が激しくなって来た、どう考えたってこれは希望だ、希望の光だ。あの天空の嘘偽りに塗りたくられた太陽から発せられる忌むべき眩しさ等ではない、間違い無く希望に、あの太陽の赤子に関係する温もりの有る優しい光だ。今まで気だるげに寝転がっていたのが嘘の様に彼女は跳ね起きてそして暫らくの停止の後、そっと左手を退けてみた、それが太陽の気まぐれが見せた幻では無い様にと強く強く念じながら。そしてその願いは通じた、その光源は彼女が一目見ただけで感じ取った真実の正しい光、忘れようも無いあの太陽の赤子の持っていた輝きをその身に施していた。彼女はそれを右手の甲から摘み上げ、両手で包み込む様にして大事そうに胸の辺りに引き寄せた。まじまじと見つめているとその手の中の光放つ谷に雨が降り注いだ、涙だった。止められる物ではない、雨は手の中の谷を湖にしてしまいかねない勢いで力強く降り続けた、そして手の中の無限の火はそんな水の来襲になど全く動じず、むしろそれを力として輝きを増した。

 どれほどの時間がたったか、雨が止んで彼女の曇った視界がようやく晴れて眼下に見る真新しい湖には光の花弁が浮かんでいた、どうやら光源はそれだった様だ。ここで疑問を抱く、この花弁が風に飛ばされて自分の所へ来たと言う事は恐らくこれの元有った花にも近いと言う事なのだろうが、何故この花弁はその有るべき場所を離れ私の所へ来たのだろうか。詩的なイメージとしては私に花が弱りつつ有ると言う事を教えに来た、と言う事でいいのだろうが事態はどうもそんな物語的な美意識に浸っていられる程軽々しい物では無さそうだ、恐らくもう花は死にかけているのだろう、ひょっとして全ての花弁が散ったその一欠片が運良く自分に辿り着いたと言う、そんなどうしようもなく悲しい事態なのかも分からない。全てを投げ出してしまった不甲斐無い自分を死に行く体で叩き起こしてくれた花、その花に会いたい、その太陽の赤子の兄弟に。花の有る場所に行けばきっと太陽の赤子の行方も掴める事だろう。その前に、この花弁をここに投げ捨てて行くのは忍び無い、かと言ってこれをそのまま持って行くのはなかなかに神経を使う、何かこの花弁の妖精と共に旅をするに当たってその弱き体を保護してあげられる物が必要だった。そして彼女は気付く、今まで彼女の体を支えていた程に強固な作りの水、これで妖精の聖域を作る事が出来る。彼女は水を削り取って削った水の真ん中に花弁を置き、それを丸め花弁を中心とした硝子球を作り上げた。水を貫いて尚元気に真っ直ぐに光り続ける花弁の妖精に彼女はにっこりと笑い掛けるとすっくと立ち上がり、川の上を歩き始めた。光の球を持ちながら迷い無く川の上を軽やかに進む彼女は、この死で覆われた世界を根底から覆す事が出来そうな聖者の雰囲気を持っていた。

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