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Sa ra i ra  作者: 白先綾
「太陽と月がそばに居て、それでも世界は夜を望んで」

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「黒、火の鳥」

 涙の川に体を浮かべる、水が水の性質を段々に取り戻しつつあると言ってもそれは彼女が硝子だ粘土だと空想した時の堅さや粘着質を大きく保持していたので彼女の体はまるで木片の様に横たわっていた。彼女は先程から、目を閉じてみたり、開けてみたりで感じ取れる世界の在り方に浸っていた。今は目を開けている、空を見ている、彼女が今寝ている位置のすぐ近くに有りながら絶対に辿り着く事の出来ない、いや死のうとしているのでそこに行ってもどうにもならない正常の世界、今はもう正常と言う物をこちらの異常世界に食い潰され始めているので失正常の世界とでも呼んだ方がいいか。その世界と彼女が寝そべる、眠り夢を見るかの様なスタイルを取る事の出来る、そうして夢において現れる幻想の側ではない厳然とした狂気と言う現実世界、この両者は空だけを見た場合仲良く手を繋いででも居るかの様に、一つに見える、空はすぐ横の壊す事の敵わない絶対境界等どこにも無いとでも言う風に、どうでもいいとでもそんな事は小さすぎて見えないとでも言う風に知らん顔でただただ赤く綺麗に佇んでいる。ひょっとして空くらいに高く高く飛翔出来たら、壁の向こうの世界に辿り着けるのかしら、と彼女は思う、鳥になりたいなと。あの地面の夢が鳥の自由の翼を否定しているのは彼女は知っているがそれでも彼女の夢の翼まではもぐ事は出来ない様だ、彼女は自由に空想の中で隣の遥かな壁を飛び越えた、飛び越えた先には眩しい程の青が広がっていて涙が出そうだ、今までずっと見る事が出来た筈の色なのに、夢の中で見るそれはなんて宝石的に強固で優しい輝きなのだろう、絶対に砕く事の出来ない平和、そんな色合いだ。だが足りないのは雲、白い水撒きの旅人で彼女の夢の世界にはどうしても草木が無かった、それ故生命も無い、彼女の空想の鳥が辿り着ける憩いの地は見当たらない。彼女の鳥は飛び続けるが地面に救いが無いと言うので太陽を目指し始めてしまった、生命の光の集合体とでも云うべきそれを。交渉してどうにか地面に生命を分けて貰おうとでも言いたいのだろうか、何か自分には出来る事が有る、と言う強い表情をその鳥は持っていた。だが太陽に近付く事は禁じられていた、それは鳥の目を焼き翼を焦がした。もう空の青も太陽の白も見えなくなった鳥はそれでも尚太陽を目指した、何故なら記憶の中に有るそれらは十分に青く白く輝いていたから。鳥はやっと太陽に辿り着いたがその太陽にはもう光が無くなっていた、近付いて来る鳥に脅えた太陽は自分の炎の力を全て鳥を燃やし尽くす事に消費してしまっていたからだ。その話を聞いて鳥はやっと自分が体をとうに失った幽霊である事に気付いたが心の炎はまさに生きていた、それは太陽が灯した篝火だった。逆に太陽が鳥に懇願する、どうか私の炎を返して下さいと、寒くて今にも凍え死にそうですと。だが鳥にはどうしようもない、鳥に宿った炎とは魂の炎であるから。貴方に炎を戻す事は出来ないが、と鳥は口を開く、私を太陽にする事は出来ます、貴方を私にする事は。太陽はその話に驚いたが生命の続きが鳥の魂に受け継がれるなら、とその条件を飲んだ。二人は一つになった、その火の鳥は天にも地面にも生命らしさが無くなったその世界を後にして壁の向こうの世界へと戻っていった、つまり彼女の寝そべる世界へと。そしてそのままその火の鳥が偽りの太陽に向かっていく所で空想は途切れた、彼女はその続きをどうしても見たくなかった、火の鳥は彼女自身の投影だったからだ、あの太陽と今度は一つになろう、正しく光を照らす太陽に成ろうとする火の鳥を見続けるのは辛かった、それは即ち火の鳥の消滅を意味していたからだ、彼女はこれからやり方によってはあの偽りの太陽に真実の光を取り戻す事が出来る、それは分かっている、だが今やもうそれを死を覚悟してまでやり遂げようと言う気概が無い、あの太陽の子供に対する信頼を取り戻さなくては、あの太陽の子供のくれた心の光に対する愛が無くては彼女はもう立てないだろう。彼女の瞳は黒く淀んでいる、瞳の満月は朧月となって闇に落ちてゆく世界を見続けている。そろそろ夜は、近い。

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