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Sa ra i ra  作者: 白先綾
「太陽と月がそばに居て、それでも世界は夜を望んで」

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「黒、死と言う現実」

 微風。それはほんの微風で、彼女はそれに頬を撫でられたに過ぎなかったのだが虎の爪にでも引き裂かれたかの様な大変な衝撃だった。理解してしまったのだ、分かってはいけない事を。彼女は自分の死に脅えていたと言ったがそれでも歩いていた、死に向かって歩くと言う行為を多少投げ遣りにでも出来てしまった彼女は死を現実としては見て居なかった、そしてそんな彼女が現実に存在する物として物質の様に明確な識別の出来る物ではない自分の死を物質さながらに脳内で具現化すると言う時に表れるのは夢世界、と言う異次元であった。彼女は自分の死を天国と地獄の狭間に遊ばせながらまるで自分の死を飼ってでも居るかの様な心持ちで歩んでいた、漠然と死を自分の下位の存在だと決め付けていた、自分に危害を加える事の位置に居ない物として居たのだ。だが、彼女は知った、彼女の飼っていた死は虎の子であった事を、死を司る黒き虎の子が虎視眈々と彼女の首に爪を立てられるまでに自分が成長するのを待っていた事を。そして今彼女は虎に頬を切られた、死への牽制をされた、死は遂に彼女の上位の存在となって彼女を圧倒し始めたのだ。彼女は恐る恐る見てはいけない方向を見る、川幅が彼女の背丈の何十倍にも広がった川の向こう側、正常なる彼女の憧れの世界を見やる。明らかに草に生気が無くなっていた、こちら側の草は場違いな程に力強く生き生きしていると言うのに。この世界は、間違い無くあちらの世界の核を侵食し始めた、この世界が風を手に入れたという事は、変化への鍵を奪い取ったという事はもうあちら側の世界の寿命はそう永くは保証されては居ないだろう。何と言うことだろうか、彼女はこの世界が死んであちらの世界が生き延びる物だと、あちら側が未来で、こちらは過去になるのだと思っていた、たとえこちらで自分が死んでももしかするとあちらの世界での新しい自分が始まる、そんな幻想を抱いていた、つまりこの世界を何処か現実としては見ていなかったのだ。だがそれは間違いで、現実の土壌として新たに立場を獲得するのはこの腐った光がへばり付いているだけの忌むべき世界の方だったのだ、あちらの世界はそれを食って太り続けている川に今後もどんどん体を削られて遂には終わってしまうのだ、こちらの世界で光に闇を流血し続けている己が如くに。自分の有るべき立ち位置を、理想郷を奪われた彼女は弱い、そもそもが弱かったがそれでも隣に頼りとなる正常が居てくれるなら彼女の弱さは逆に強さと言い間違える事が出来た、彼女が正常を頼みとしてしまう強烈な弱さこそが心の唯一の光だった。だが今やあの光の赤子も理解出来ず正常な世界も死んでしまおうとしているこの状況下で彼女の弱さが寄り掛かる事の出来る柱は、無い。今までを正常世界と言う壁伝いに歩いて来た様な彼女は急にその壁が崩壊してしまった為前に向かって歩く事が出来なかった、壁に余りにも頼り過ぎていた為川にまっすぐに入り込みそしてそのまま、失速も加速も無くまるでそうしている事が当然とでも言う様な足取りで死に行く正常世界の方へと向かって行った。表情にすら変化が無い、諦めているとも、期待しているとも言い難い、そして無表情では無い表情、感情の堰が切れる直前の、感情の氷塊としての顔がそこには有った。彼女はそして正常世界の見えざる壁、先程の精神的な寄り掛かる頼みとなる物としてのそれではなく以前彼女の体を拒絶し弾いたそれに触れる。手は簡単に弾かれる、それでも彼女は何度も壁に触った、今の彼女にとって歩みゆくべき前とは正常世界の方だけだったからだ。彼女が力無くした為か、それとも壁が一段階強く彼女を押した為か、彼女は遂に川に倒れた、少し変化と言う属性を取り込み始めていた水の新たな質感に触発されて彼女の氷の顔が融け始めた、融けた氷の中に封じ込められていた物は、当然の様に涙で、彼女はその涙で変化と言う熱に水で有ると言う記憶を取り戻し始めた透明な粘土に水の在り方と言うものを教える事になった。微風が嬉しそうにその涙を舐め味わう感触が頬に張り付いた。

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