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Sa ra i ra  作者: 白先綾
「太陽と月が泣いたのは、どうしようもなく昼で」

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「黒、壊すべき物」

 探せど探せど、森は疎か木の一本すら見つからない。彼女は溜息をつきながら苦笑する。草なら今でも時折見かける、触ると砕けてしまうのでそうしない様に注意を払って歩いて来た。花は川に沿って歩く様になってからは全く見なくなってしまったがそれでも以前には随分沢山のそれを確認する事が出来た、この死体の様な冷風の様な寂しい世界には似つかわしくない可愛らしい彩りだ。だが、木と言う物を、緑の葉、それを付ける枝、それらの更なる段階である生じる所である背丈の高い茶色の幹と言う物を見た事が無い、彼女はまだこの世界を知り尽くした訳ではないので断言は出来ないのだがどうやら彼女の背丈より高い物体は譬え植物でもその存在を許されては居ないらしい。それでも彼女はあの夢、木が鳥が確かにかつてはこの世界に存在した筈と言う夢を信じそれならそれらの存在の証も何処かに在るに違いないと考えているのであれを睡眠の中で知ってから少しも忘れない様にと懸命に日々思い出しながら歩いている。思い出すだけでは無く、あの夢がなんだったのかと言う事についても彼女は彼女なりの見解を纏めていた。あの映像は鳥の翼が散る所で終わっていた、あの鳥は恐らくは死んだのだろう、もしくは初めから死んでいてその後更にその死体が消え去ったという事かも知れないがとにかく予想出来るのはあの鳥の死体は残ってないと言う事だ、消えた死体から剥れた羽に関しても同様だろう、この世界は動物の欠片を徹底的に消去している。そして木はその動物の消去を行っていたらしい、どの様にやったのかは分からないがあの映像の中では鳥を自分の体に取り込む様な感じで葉を急速に鳥の影の有った所に生やしたと思うが速いか鳥が消滅してしまっていた。その後の木の様子を窺う事が出来ればもう少し具体的に考える事が出来るのだが今の情報不足の中ではこの程度が限界だ。あまり考えたくは無いが人間はどうだったのだろうか、鳥と同じく動物として扱われて森で処刑されたのだろうか、それにしては自分一人だけが強大な生命力を宿して活動を続けているのが理不尽だがはっきりした事は何一つ分からない。この世界に人の活動の証、建物に代表される生活の痕跡(彼女は自分の身なりからして自分が属していた筈の文化のレベルがかなりの物である事は知っていた)が見当たらないのも気になる。とにかくも森、それを見つける事が先決だ、と彼女は何十回目かになる決まりの独り言を心で呟いて何気なく綺麗な水面を湛える川に目を向けた。そして彼女は怪訝そうな顔になる、一番最初に見た時と川幅が微妙に違って見えた。まじまじと立ち止まって見つめてみるが気のせい等ではない、川幅は広がっていた。勿論森への歩行のスタート地点と現地点での川幅が単純に違うのだと言えなくも無いがもしも川幅自体が生き物の様に変化しているのだとしたらこのままでは向こう岸に渡る事が困難になって来てしまう、そんな妄想に捕らわれた彼女は今まで踏み込んだ事の無かった川の向こうの大地を踏み締めるべく川を跨いで飛び越えようとした。彼女は着地した、元の場所に。何度やってみても結果は同じだった、彼女はどうしても川の向こう側へ辿り着く事が出来なかった、川の向こうの世界はこの世界と繋がっていなかったのだ。彼女は呆然として別世界らしい川の向こう側を眺める。これと言ってこの世界と変わっている様には見えないが、森への歩みを再開して歩きつつ川の向こうを十分ほど観察して気づいた、あちらの世界の草は揺れている、風が吹いている。つまりあちらの世界はこちらより正常なのだ、それに気付いてまた彼女は何度も何度も川を越えようとジャンプしてしまったが前に飛んだ時以上の事は何も起こらなかった、彼女の体は見えない壁に毎回弾き返された。悔しくて彼女は土を掘り起こして土団子を作り向こう側へ投げた。思い切り投げてしまったので勢い良く跳ね返ってきたそれを胸元に食らってしまい彼女は悶えた。でも不思議とその痛さが嬉しかった、正常な世界は確実にまだ生きているのだ、今のままではどうしても辿り着く事が出来ないらしいが、それが在る、その事実だけで今は十分だ。彼女は胸元にぶつかって割れた土団子の欠片を集め拾い上げもう一度さっきよりも堅く作り直して今度はこの世界の太陽に向けて思い切り放り投げた。綺麗な放物線を描いて地面に落ちたそれはまるでこの世界が多少壊れた音で在るかの様な小気味のいい音で砕け散った。

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