始まりの嵐
どんな始まりだっていいじゃないか
世界は俺の目の前で弾けて
そして動いてる。
掌に掴むことの出来ない平和という聖なる十字架を探して
静かに進むんだ。
「おい、この先はどう変わって行くんだ!」
耳が痛い、顔を覆った布をとうしても聞こえる大轟音。
1、2メートル先に何があるのかが完全には視認できない状況に、嫌気がさしたゲイルが叫んだ。
猛烈な風と砂が狂ったように襲いかかってくる。
「天候は変わらない、作戦をこのまま進める!」
アルベルトは大声で答えた。
先頭を進む二人、その後ろに15人の屈強な戦士が続く。
ここにいる彼らは、布で全身を覆いゴーグルを付け、風と砂から身を守っている。
どんな状況にあっても前進する肉体と精神を宿し、一人一人がさまざまな銃器を背負い軽防弾装備と自身を砂嵐から守るために砂色のフードに身を包み歩く、隊全員が一つの意思となって、死、恐怖、危険を恐れることのない戦士たち。
ゲイルが布をずらし腰に装備している剣に手を当てた。
「あとどのくらいだ、こいつで連邦のくそ野郎を叩き切るのが待ち遠しいぜ!」
砂嵐の大轟音の中でかき消される事も無く、笑いを含みながら大声が響く。
「何もマイクで話せばいいものを、敵の防衛ラインに近づいている、これ以上はサインだけで話そう」
アルベルトは冷静に答えた。
最高品質のヘッドホンは外部音を収集しながら敵の僅かな動きも捕らえることができるはずだが、嵐のおかげで全く役に立たない、視界を補助するモニタゴーグルは、砂を巻き上げて唸る暴風に影響されて画像が歪み、いくつものクラックノイズが写り、装備を外した方がマシだと思えるほど悲惨な状況だ。
「このゴーグルの電源切っていいか、役に立たないモニターじゃ自分の目で見た方がマシだ!」
ゲイルが叫ぶが、アルベルトはサインでダメだと答える。
明らかに指示に従いたくないとジェスチャで返すゲイルに「この嵐ではいくらお前でも自動補正無しに相手に命中させることも出来やしないぞ」マイク越しにアルベルトが冷静に語った。
またも同意できないと大きくジェスチャするゲイル、そろそろ目的地の渓谷に近づいていることを直感しながら、もう三日目の強行軍に入り、一般の大人なら歩くことも困難な岩と砂の地形と強烈な風の中を力強く進んでいた。
その時、今までにない突風が足元から吹き上がり始めた、反射的に姿勢を低くした隊全員が渓谷に到着したことを悟り足元を慎重に探りながら歩き始める。
先頭のアルベルトとゲイルが砂に隠れて危険だった岩場の端に着き、隊全体に地面に伏せ集まるようにサインを出した。
「あれだな」ゲイル、はるか先に光る建物が見える。
「派手なもの建てやがって、こんなところに立てる意味があるのか?自分の身を守ること以外に、自分達もたどり着くのが大変だろうに、あのデカい基地に例の研究施設があるのは間違いなさそうだな、危険すぎるだろこの場所は、あの銀色の基地は相当な防衛システムか敷かれているぞ」
アルベルトはクラックの起こるモニターで最大望遠で確認しながら冷静に語った。
「そうだな間違いなさそうだ、砂嵐の時間を選んで正解だった、相手の防衛システムも完全にこちらを捉えていないな」
ゲイルは笑みを浮かべながら「この嵐の中をこのまま進んだら、隊の内何人は渓谷に落ちて死ぬぞ。隊長さん俺は命は捨てているし、まあ渡り切れる自信はあるしどっちでもいいが、どうする?命令してくれ。」
嫌味な言い方はゲイルのいつものことなのだが、今の状況は本当に生死を分ける判断になる。
アルベルトはゴーグルを外し、強く見開いた鋭い視線を隊の全員一人一人を目視しながら、一瞬空中に目を向けた後、前方の銀色に光る要塞に移し静かに目を閉じた。
ゆっくりとした呼吸の流れを、さらには自身の体内の血液の流れ、心臓の鼓動に意識を集中させて瞬時の瞑想に入る。
自身の内なる魂が与える直感を感じるために、頭の中に声が聞こえる、何度も渓谷から落ちる仲間、自分の姿がリフレインする。
強い深呼吸の後ゆっくりと瞼を開き、意思が強く示される眼差しを敵基地に向けると、アルベルトは突然語り始めた。
「どうも計画通りに渓谷を進むには今からあと3時間17分待つ必要がある、嵐がその後に30分ほど和らぐ、その間にこの渓谷を攻略してあの基地手前の岩場にまでたどり着く必要がある」
ゲイルはホッと息を吸うと「いつものことでよくはわからないが、隊長の言うお告げはほぼ的中するよな、今のお喋りの間にも時間が過ぎてるから315に時間を合わせてくれ、フィリップとマイクは道具の用意をジョージとサンダースはトラクの補佐を頼むそれと時間は合わせたが出発時は伝えてくれよ全てダブルチェックでな」
15人の隊員は一箇所に集まり、本部での最初からの計画通りに、ゲイルが先頭に不安定な岩場の渓谷を渡り、あの基地へと向かうこととなった。