1-3
遥か昔、そこには戦火があちらこちらに燃え上っていた。
ニハウィー王国と隣国のウォールリ王国。この二国は何かあるたびに戦をしていた。
あと少しでニハウィー王国側が負けるといった時、王女は声高々に言った。
「私は民のためこの身を敵国ウォールリに捧げる」
その王女の名前はカイリと言った。カイリは民を集めその場で言った。民は動揺し、涙を流すものもいた。カイリはこの国で一番気高く、美しい女神だとして崇められていた。
「そう泣くな。私は平気だ。ニハウィーの民よ永遠に」
カイリがそう言ってウォールリの迎えの馬車に乗り込もうとした時だった。
「神よ、どうか私に力を……」
最後の願いだろう。乗り込む前に膝をつき天に、神に願いを乞いた。
そうすると、どうだろう? 暗雲があたりに立ち込め、その雲は大陸をすっぽり覆い隠すほどであった。火は消え、恵みの雨がニハウィー側に降った。しかし、反対にウォールリ側には火を消すくらいの小雨が降った。その後は日照りが続き、人々を苦しめた。ウォールリの魔女や魔法使いたちは、ウォールリを見捨て辺りに散らばった。ウォールリの戦力の大部分を占めていたものは無くなり、それから戦をしかけてくるようなことはしなくなった。
カイリは雨を降らせた後、若くしてこの世を去った。
人々はカイリを称えてこう呼ぶ“ニハウィー国の女神”と……
「どう? これがこの国に伝わるお話よ」
俺の使い魔は目をキラキラさせ、感想を俺に言わせようとする。
「あのさ、一つ言っていいか? 女神の象があっちにたくさんあったってことは、さっきの話のようなことがたくさんあったってことだろ?」
それって、もしかして今も起きているんじゃないだろうかという不安があった。もしかしたら叶音は、そのニハウィーの女神とやらなんじゃないだろうか。
「さすがあたしの主人ね! 今、この国はウォールリと戦いになるかならないかの瀬戸際なのぉ。だからあんたの力とカノン様の力が必要ってわけ」
「俺の力? 叶音は俺と一緒に元の世界に帰るんだ。だから、そんな戦はやってられない。それになんでお前が叶音のことを知っているんだ!」
「あらぁー私のこと舐めないでよね! ま、舐めたって今は木の味しかしないでしょうけどぉ~」
こんな時にふざけたことを言うこいつの神経を疑いたい。
「あんたは私に選ばれたのよ。この国最強の守護精霊のノイル様にね」
どやああぁとでも言いそうな口調に俺は何も返さなかった。こいつが付け上がるだけだ。
「もう! 反応くらいしてもいいじゃない」
面倒だな、こいつと思いながらノイルにあることを聞いた。
「なあ、後どれくらいで着くんだ?」
もうかれこれ二時間強は歩いている。普段そこまで運動をしない俺にとってこれはきつい。
「あんたの足が遅いせいで明日になっちゃうわよ!」
パンッとノイルは俺の顔を叩いた。まるで、女の子に平手打ちされたみたいだ。音は大きかったが、そこまで痛くない。
「少しは休憩させてくれよ……」
ノイルはそれは無理ですーと言うかのように体を揺らす。
「ただ宙に浮いた木にしか見えねー」
そう俺が呟くとまた叩かれた。今度は痛かった。顔が赤くなっているんじゃないだろうかって心配するくらい痛い。
「まったくだらしのない主人ね」
仕方ないとノイルは切り株の上に降りた。どうやらここで休憩と言うことだろう。
俺はそれに甘えて腰を降ろした。