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ちょっと待てよ、少し整理しよう。俺の可愛い妻叶音が光り出して起きたらここにいた。男三人が襲ってきて落ちてた木の棒を振り回していたら、炎が出て男たちは逃げて行った、と……
簡単にまとめるとそういうことになる。
「なんなんだよ、一体」
体は中学生だし、魔法は使えるし、何なんだよ本当。俺は二次元の世界にでも来てしまったのか。くそっ、まだ車のローンが残っているのに。なんてこった。
元の場所に戻ってみるとやっぱり石像があった。その石像をよく見てみると、文字が書いてあることに気づいた。
「ニハウィー王国の女神?」
最初は英語かと思ったが、違った。ローマ字のようだ。ちょっとダサいと思ってしまった。
その像は周りにたくさんあり、どれも女神か、女性戦士のような像だった。しかし、奥にぽつりと立っている像は他の像と違い、ボロボロだった。首は取れ、腕は片方取れている。
「何でこれだけボロボロなんだ?」
そこに文字は書かれていなかった。なんだかおかしい。これだけ不自然に朽ちているなんて。
「ハァー……そんなことよりどうしたらいいんだよ、これから」
まだ昼間だが、これから時間が過ぎて夜になれば何があるか分からない。
また奇跡が起きるとも限らないし、この木の棒をどうしようか……
「もういらないか」
この木の棒なんかより、探せばもっと武器になるものがあるかもしれない。投げよう。
「よいしょっ!」
俺は棒を遠くへ投げた。
棒は遠くへ飛んで……
「うおっ!」
真っすぐに投げたはずの棒が顔に当った。意味がわからん。
「なら、真っ二つに折ってやる」
俺はやればできる人間なんだ。だからこの棒だって折れるはずだ。
「おりゃああああ!」
折れ、ない、だと……何度折ろうとしても折れない。まるで、ゴムでできているようだ。
「くそっ! どうなってんだよ!」
この世界も、俺も、どうなってんだ。誰か俺に説明してくれ。
「もう! さっきっからあんた、あたしに何してくれんのよぉ!」
「……誰だ?」
「あたしよぉ! あんたの守護精霊よ」
この木の棒が俺の守護精霊? 守護精霊って使い魔ってことか?
「は? このどこにでも落ちてそうな木の棒が守護精霊? そんなわけあるか!」
「そうよぉ! 今はこの棒に憑依しているけど、正真正銘の守護精霊様よ。あんたの魔力が無に等しいから実体化できないのよぉ」
ああ、なるほど……って、すぐさま納得できるか! 木の棒、もとい俺の守護精霊は浮いている。他から見たら木の棒が浮いているようにしか見えない。俺にもそうとしか見えない。俺の魔力? 実体化?
本当何なんだ。頭が本格的におかしくなってきたのか、俺。
「さ、とりあえずこんなド田舎を抜けて王都へ向かうわよ!」
「なあ、なんでそんな口調なんだ?」
さっきから気になっていたことだ。この守護精霊が実体化したら、可愛い女の子になるんだろう? 違うのか?
「あたしが、オ カ マ だからよぉ」
幼女でもなく綺麗なお姉さんでもなく、男……それも、オカマが守護精霊……これからどうしろって言うんだ。漫画とかアニメじゃ、使い魔って言えば可愛い女の子と決まっているんじゃないのか?
別にオカマが嫌いなわけじゃない。そういったバーに行って勇気づけられたことも確かにある。だがな……使い魔と言うならばそこは女の子で……
「……もういいや」
もうどうでもいい。どうにでもなれ。
「もうっ! さっさと行くわよ。王都まで三時間ぐらいはかかるからさっさと歩く!」
「へいへい……」
俺は使い魔の後を歩く。道なき道を一時間ほど歩いたところで使い魔が口を開いた。
「そうそう、あんたにこのニハウィー王国がどんな所か教えなきゃね」
唐突に使い魔が呟いた。ニハウィー王国、それは叶音が夢について言っていた時に出てきた言葉。それにさっきの石像もニハウィー王国と書いてあった。
「叶音がニハウィー王国の姫?」
それなら、早く叶音を見つけて帰らないと。新築建てるって約束したのだから。