メビウスを見上げて
人類滅亡なんて、映画やアニメの世界だけだと思っ ていたが、この時代においてはあるらしい。それも 人の手によって行われる人類滅亡が。
あまり歴史には詳しくないので正確な年数は覚えて いないが、人類が宇宙に住み始めてから90年ぐらい が過ぎた。そして数年に渡って戦争が繰り返されて いる。宇宙に住む人々と地球に住む人々との戦争。 前の世紀の人々からしたら夢物語だっただろう。
この人類滅亡は地球に巨大隕石が落下し、地球に核 の冬が起こって、人類が地球に住めなくなって、最 終的に地球に残った人々が滅亡してしまう様に計画 されている。この人類滅亡は正確には地球の人々が 滅亡するということである。そしてこの巨大隕石は 核パルスエンジンによって軌道コースを変えられ、 地球に落下するようになっている。宇宙に住む一人 の男が地球を食尽そうとしている地球の住む人類に 嫌気を起こして、地球に住む人々を抹殺しようとし ているらしい。もうすでに、地球に住んでいる富裕 層などは避難が終わっているらしいが自分は避難な どせず、地球の大地に寝転がって、宇宙 そら を見上げている。
例え全ての人類で無くとも、人類が滅亡する瞬間を 見てみたいと思う自分は変なんだろうか?運のいい 事に隕石の落下予測地点はここから真逆の地点なの で、いろんな事が経験できるだろう。今後にその経 験を生かすことは全く無いが。唯一持ってきた電子 端末には、家族や知り合いからの連絡が大量に来て いるが、全て無視している。よく映画やアニメでこ ういう話を作るときは、恋人に会いに行ったり、や りたい事をやったり、英雄 ヒーロー が地球を救ったりするものだが、自分にそんな人は いないし、やりたい事も無いし、英雄 ヒーロー なんかもいないだろう。地球軍が隕石落下阻止作戦 を行っているが、今のところいい成果は聞いていな い。最後にやり残した事をやって悔いのないように するなんて言う人は多いと思うが、やりたい事なん て後から後から出てくると思うし、楽しさを味わっ たら余計に終わってしまう時間が辛くて、悔いも残 ると思う。
しばらくすると見上げた雲の隙間から巨大な黒い影 が見えた。これから起こることを想像すると胸が高 鳴った様な気がした。
あの後、巨大な黒い影は空気の断熱圧縮によって赤 く色づいて地表に激突する筈だった。先ほどニュー スで地球軍が隕石落下阻止作戦に失敗して分裂した 隕石の片方が地球に落下するのが確定したと言って いたが、隕石は赤く色づいたと思ったら、一瞬の内 に色を変え、虹色の光に包まれた。その光を見たと き、酷く心が安らいだ。根拠は無いがあの黒い影は 地球が地球に落下する事は無いだろうとも思った。
しばらく虹色の光に包まれて地球から離れていく巨 大な隕石の一部を眺めて、鳴りっぱなしの電子端末 を手に取り、電話に出る。両親からの電話だった。 両親を安心させるために、今は宇宙のコロニーに避 難していると嘘をついた。