第2話
ちょっぴりお店と世界観の説明もどき。
空間とは同時に存在しながら、平行に作られているため、本来決して交わらないモノである。
時間とは一直線に伸びながら、本来なら後にも先にも移動できず、ただその流れに身をまかせるしかないモノである。
そんな中で、どの空間も時間も行き来する当店『 bric-a-brac 』は特異な存在である。
この店の存在意義は『時空を越えて、必要な者に必要なものを』
これがマスターの言う経営方針だ。
ここはある人にとっては価値のある場所であり、ある人にとっては何もないも同然の場所である。
『何か』を必要とする者しかその店には来訪できない。以前訪れたことがあっても、必要とする品物がなければ、その店をもう一度見つけることができない。
むしろ品物に選ばれた者しか訪れることができない、とも言える。
その店はどこにでも存在しうるが、どこにも存在してはいない。
そんな呪がかかっているので、がらくたというよりアンティークな小物が全体の7割を占めているこの店に、普通の買い物目的のお客様は訪れることがない。
買い主にとっても商品にとっても唯一でなければならない、らしい。
そしてもう1つこの店には大きな術が施されている。
その術によりこの店自体が時空を旅し続けているというのだ。
それも、店にいる誰かの意思ではなく、必要とする人の元へ。
店の中にいて動いてたり、振動や衝撃を感じたりという、時空を越えたことを実感するようなことはない。
この店の店員は皆、店の三階から五階にかけての部屋にそれぞれ住んでいるのだが、普通の宿に普通に寝泊まりする感覚だ。
しかし窓や扉を開くたびにそこから見える景色は変わった。
マスターいわく、移動しているのではなくただ求められる場所に『存在』しているのだとのことだが………魔法に詳しくない私には理解出来なかった。
50歳前後に見える白髪・白髭のマスターは優しい。
私の感覚でいうと数ヵ月前、私がいた世界でのある事件をきっかけに、店の一員としてここに置いてもらうことになった。
時空を『旅』をするには人材は多ければ多いほどいいから、と言って当時かなり荒んでいた嫌な奴だった私をすんなりと受け入れてくれた。
どうやら、外へ出る仕事『旅』(品物の買い付け、預かり、ぬす…失敬してくるなど)をするには様々な適合性が必要で、各世界にそれぞれ"型"のようなものがあるらしい。
多くの場合、その世界の時の流れの型と人の時の流れの型が適合するかしないかで、その世界で外の仕事を担当する者が決まる。
"型"が適合しない世界で店の外に出ると、たちまち体調を崩したり、精神的に不安定になってしまうそうだ。
不思議なことに、この店にいれば、それぞれ適合する"型"が違うはずの仕事メンバー兼下宿メンバーの誰にとっても苦痛ではないようだ。
始めのころ、束縛が堪らなく嫌になっていた私は、試しに1度、忠告を破って少し店先を歩いてみた。
結果、目眩とともに冷や汗が出て、身体が震えだし、その場に膝をついた。
図らずも人生初の出血なしでの貧血を体験できた訳だか……なんでかその後、かなりゼロの機嫌が悪く、散々からかいやバカにした言葉を浴びせられた。
助け起こして店に運んでくれたのはマスターで、あんたには迷惑かけてないじゃないと言ったらますます不機嫌になった。そしてわざとそばを離れずに、私の顔色がもとに戻るまで、どんなに生意気を言っても無視・無言を貫かれ、じっくりと観察された。
あれは新手の嫌がらせだ。
近くで見ていたマスターは薄情なことに、こちらを眺めて愉快そうに笑っているだけだった。
そういえば、不思議なことにマスターだけは時空の"型"の制約を受けないらしく、どの世界でもマスターは腕にロシアンブルーのミーを抱えて、朝と夕方に散歩へ出かけていた。
いや、朝も夕方もない世界でもマスターはミーとの散歩は欠かさなかった。
……ミーもただ者(猫)ではない、のかも。
本日は私とゼロがお留守番。ミーは適当に外に出て昼寝。マスターとこの世界に適合できた二人が『旅』をしている。
『 bric-a-brac 』はフランス語でガラクタって意味だった気がする。あやふやな記憶だけど韻が好きなので店名に決定。