《出会い》
何のために生きてるんだろう?
何のために毎日過ごしてるんだろう?
この頃、あたしはそんなことを考えてしまう。
特別仲のいい友達もいないし
家に帰っても何もすることがない。
そんなときだった。
そう、あたしの運命を変えた人と出会ったのだ。
いつものように教室に入ると
教室がやけに騒がしい。
隣の席のまりあに
「どうしたの?」
とたずねてみた。
「あ、おはよー!明日香!
なんかね、転校生来るらしいよ。」
「へぇ〜。」
なんだ、そんなことかと
いつものようにいすに座る。
「ガラガラッ!」
教室のドアが開いて
先生が入ってきた。
そしてその後ろには・・・
かわいらしい顔のわりと背の低い男の子が
ついて入ってきた。
「今日からこのクラスの一員になる
町田翔くんです。」
周りの人たちは、町田くんを見て
「かわい〜!」とか
「女の子みたい〜!」とか
コソコソ話している。
「はじめまして。
町田翔です!背はそんなに高くないけど
男だからね。
翔って呼んでね〜!」
転校生とは思えない明るさだ。
「そしたら・・・
下村さんの後ろ席に座ってね。」
「えっ!」
下村ってあたしじゃん。
やだな、転校生が後ろに座るなんて・・・
町田くんが笑いながら席につく。
「よろしくね。
え〜と・・下の名前は?」
「明日香だよ。」
「OK〜!じゃ、明日香って呼ぶから。」
「は?」
ちょっと待て。
初対面で女子のこと
名前で呼ぶか?
「俺のことは翔って
呼んでね。約束!」
かわいらしい顔とはうらはらに
男の子らしい骨骨したかんじの手を
差出してきた。
「分かった。よろしくね、町田くん。」
「だから〜、翔だって!」
苦笑いの町田くん。
「はいはい、翔くんって呼べばいいんでしょ!」
「ありがとう。」
なんだか幼稚園児の素直な当たり所のないような笑顔でにっこりとほほえむ町田くん。
このときまでは、まだこの人が私のことを変えるなんて
思ってもみなかった。
あたしが思っていたとおり
町田くんはすぐにクラスの人気者になった。
いつも町田くんの周りには
たくさんの人の笑い声がこだましている。
「キンコーンカンコーン」
チャイムがなった。は〜、今日も疲れた。
あたしは、いつものように教室をでて
靴箱に向かう。
すると、あたしの名前を誰かが呼んでいる。
ふりかえると、町田くんが
「明日香〜!」
って走ってきていたのだ。
「一緒に帰ろ!」
「は?ヤダよ。」
あたしが言うと
町田くんはムスっとした顔をして言った。
「大事が話があるの!」
なんだろう?
「分かった分かった!」
町田くんは嬉しそうにほほえんで
「ありがとう。」
って言った。
5月の心地よい風の中を
二人で歩いていく。
「そういえば、翔くんが転校してきて
もう1ヶ月だね〜。」
「そだね〜。」
町田くんはそっけなく答えた。
「でさ、大事な話って何?」
「あのさ・・・」
「・・・?」
「明日香って俺のこと・・・
嫌い?」
「なんで?」
「いつも俺のことさけてるじゃん。」
だって、町田くんみたいな人
苦手なんだもん。
言いそうになったがハッと気づいて
口を閉ざす。
「しかも俺の名前呼ぶのいやがってる。」
「!それは・・・」
「何?」
「だって男の子の名前呼ぶの
恥ずかしいんだもん。」
「なんで?」
「なんでって・・・」
「俺ね、転校してきたときから
ずっと明日香のこと見てた。」
「え?」
どういうこと?
「もしかしたら、俺は・・・
明日香のことしか考えてなかったのかも。」
パンッ!
あたしの中で何かがはじけた。
「俺と付き合ってくれない?」
夕日が沈む中で
あたしたちはいつまでもいつまでも見つめ合っていた。