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39話 俺と猫子とこれからのため

書けてたのに上げ忘れてたというミラクル。

「あんた…猫子と別れなさいな」



………は?


言ってる意味が良く分からない…

猫子と別れる?

その言葉が頭に浸透するのに、しばらく時間がかかった。



それは数時間前の事だ。





皆との旅行が半月も前に終わり、その後も楽しく夏休みをすごしていた。

まさか文月との出会いが、この短期間でここまで劇的な変化をもたらすと、誰が予想できたか。


俺はそんな文月と縁側で素麺を食べている。


イチャイチャしながら。



「はい文月、あ~ん」


「きゅあ~ん」


「美味しいか?」


「きゅうん!!」


「だろぉ~?お婆ちゃんが送ってくれた良い素麺なんだぜ~。ほら、もう一口」


「きゅ~~ん!!」


「もう~可愛いなぁ!お前は!!……ん?電話だ」



コール音が鳴り、携帯電話を開くと『鈴鳴家』の文字だ。

出るとなんと学美さんだった。



「はい、もしもし」


『あ、丈君?私、学美です』


「学美さん?どうかしました?」


『ちょっと、家に来て欲しいの。話したいことがあるから』


「あ~、はい。わかりました」



手早く食事を終わらせると、俺は鈴鳴家へ脚を運んだ。


到着すると学美さんが迎えてくれて家に入った。

そして玄関の先にはレオがいる。


…あれ?



いつもなら、猫子が来るんだが…

今日は来ないな……


(買い物か?)



そもそも学美さんは俺に何の用だ?

その学美さんはいつもの眼鏡ではなく、以前に俺の髪を切った時につけてたキリッとした仕事用の眼鏡をしていた。



学美さんクールモードだ



文月を床におろすと、すぐにレオの足元に向かった。

そしてレオも変だ。

いつもニコニコ笑ってるのに、今日は困ったような表情をしている。

何か言いたそうに俺を見たが、すぐに目をそらしてしまった。



「さ、いらっしゃい。獅子は文月ちゃんとお部屋で遊んでなさい」


「うん……」



おかしい…

ってか、この空気苦手…








そして冒頭に戻る。




リビングに入りお茶を出されると、学美さんに開口一番そんな事を言われた。

困惑していると、学美さんは言葉を足した。



「別に、何も意地悪とか、悪意があって言ってるわけじゃないのよ」


「え…あぁ…うん……」



学美さんは俺の隣に座り、しっかりと俺の目を見つめて続ける。その表情は真剣だ。



「君は、今まで人とあんまり関わらないように生きてきたのよね?」


「……うん」


「でも…それじゃダメなのよね」


「ダメ…て、どういう……意味?」



一呼吸置いてから、続ける。



「人ってね、ぶつかって成長して行く者なの。人と関わると、一人じゃ絶対に得られない経験ができるの。人の優しさ、暖かさ、友情、そして、人の狡さ、人を恨む気持ち、喧嘩して痛い思いをする。体も、心も。そして、また優しさの大切さを学ぶ。そうやって、人は成長するの」



学美さんは俺を撫でた。

母親のような眼差しで見つめながら。



「君は、体は成長してても心はあの頃のまま。いいえ、ここ最近で、少しは成長してるのかしら?うん、きっとそう。だけど、まだ足りない。君はもっと成長しなきゃいけない。今は猫子と別れて、成長するべきなの」


「あの子は、本当に君の事が好きで、それ故に、君を束縛してしまう所がある。それじゃ、君はこの先の経験が出来なくなってしまう。そうなれば、君も猫子も、深く傷ついてしまうかもしれない。覚えがあるんじゃない?自分は、誰が好きなのか…?とか」



その通りだった…

猫子の事はもちろん好きだ…

だが、一緒にいて安心できるのは文月だ…

レオとは全力で遊んで、良い気分になれる…

結菜先輩は独占したい気持ちがある…

光と一緒にいると凄くうれしいけど、たまに胸が苦しくなる…

進や星名や巳茶とはもっと楽しく話をしたい…


本当に、分からない…

自分の今の気持ちが…



俺の声は…自然に震えていた。

うっかりしたら、今にも泣きそうだ。



「はい……確かに…最近は分からなくなってきました…」


「うん。でもそれはいけない事じゃないの。むしろ良い事よ、人を好きになることは。人を好きになって、どうすれば分からないけど、自分なりに頑張る。それが失敗して、でも今度は上手く行くように頑張る。それが経験。恋に失敗して、その子とこれからどう接するかを考えるのも経験。好きな人を他の人に取られて、恨む気持ちも、経験」



「何か…恋の事ばっかりですね…」



「別に経験は恋だけじゃないのよ。喧嘩をして、痛む体と心で、どうやって仲直りするか…とか。言って良い事と悪いことの区別をつけたり…とか。空気を読んで、余計な事は言わないようにしたり…とか。これから君は、どんどん成長していく。そして…改めてじっくり…時間をかけて考えて欲しい。自分が本当に好きな人が誰なのか…って事を。後悔しないために」



「そのために…猫子と別れる…の?」


「うん…君が本当に好きな人が、猫子だって気付けたら、その時は、君の口から言ってあげて。好きだって」


「でも…それが猫子じゃなかったら…?」


「その時はその時よ」


「…ざっくりですね………」


「私はね、君…ううん。丈の事を、本当の自分の息子のように思ってるの。だから丈には、絶対後悔して欲しくないの。もちろん、後悔することも大事な経験だけどね。……これは私の個人的な気持ち…貴方には、後悔して欲しくない」


「学美さん…」


「焦らなくて良い、ゆっくりで。そして答えを出して」


「うん、ありがとう……」


「うん、良い子ね」



すると学美さんは、いつもの優しい表情に戻り、俺を抱きしめた。



「これからも、猫子と仲良くしてあげて。別れたとか気にしないで、一人の友達として」


「うん、わかった」



学美さんの母性の優しさに、俺は感謝をした。

そして少しだけ…泣いた。



ありがとう、お母さん。





(今日はもう帰ろう…さすがに一旦、頭の中を整理したい)


リビングのドアを開けると、文月を抱いたレオが待っていた。



「あ…ジョウ…え~っと、えっと……猫子ちゃんに会って欲しいにゃ」


「でも…今はそっとしておいた方が…」



学美さんは猫子にもこの話をしたみたいだ。

猫子は大泣きだったそうだ…

頭では理解できるが、心ではまったく理解できない…みたいだった、らしい。

ひどい荒れっぷりで、見るのが辛かったと言ってた。

それでも、俺と猫子のために、学美さんは心を鬼にした…

そして猫子は、部屋に閉じこもってしまったみたいだ。



「でもでもでも、猫子ちゃん、いっぱいいっぱいにゃいて、悲しんでるにゃ。だから…だから……!!お願いにゃ…レオの一生のお願いにゃ。猫子ちゃんに会ってあげて欲しいにゃ…」


「……あぁ、わかったよ」



レオの一生のお願いを使われちゃ、しょうがない。

俺は階段を上がり、猫子の部屋まで来た。



「猫子…入っていいか?」


『………こないで……』


「猫子……」


『来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで!来ないで来ないで!!来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで!!!!来ないでよ!!!丈と別れなきゃいけないのに何で来るの!?丈は誰にも渡さない!一生閉じ込めて私の側に縛り付ける!私がずっと丈の一番でいる!私無しじゃ生きられない体にする!体に私を刻み付けて心に刻み付けて丈を奪う女は皆消してやる!お願いだから来ないで!!…………こないでよぅ……お願いだから……そばにいて…』



言葉が出てこない…なんて言えばいいのか…

どうやったら仲直りできるか…


俺は今思う事をそのまま口から出した。



「えっと…ありがとう」


「え~っと…こんな俺を好きになってくれて。えっと…だから、その…少しだけ…待っててくれ。この先、俺自身どうなるか分からないけど…それでも、今の俺は、猫子を好きでいたいって思ってる…これから何があってどうなるか…だから今俺が言えるのは…待ってて欲しい…そんでいつか猫子を好きだって確信できたら…って事だけ…でも、できなかったら…なんだ…あぁぁぁ!クソ!!もう!俺言ってる事最低だよな……。こんな事言いたいんじゃない…えっと」



静かにドアが開き、猫子が出てきた。

部屋の中は真っ暗で、テーブルやイスが引っ繰り返されて床にはクシやアクセサリー小物が散乱している。

猫子は少し俺を見てから、抱擁を求めるように腕を伸ばしてきた。

ネコ耳はつけておらず、目元はクマで真っ黒になっている。いつものドレスのようなゴスロリ服はヨレヨレになって、髪もグシャグシャで、長さもバラバラだ。顔は泣きはらして…頬には爪が食い込んだ痕もある。


それでも俺は………いや、だからこそ、猫子を抱きしめた。


猫子は背伸びをして



俺の肩に噛み付いた。



「ツッ!」


「………」



八重歯が刺さり、血が流れるのが分かった。

それを舐め取る猫子。



「私以外の人を好きになったら許さない…丈は私だけのモノだから……丈を好きになる女は許さない…丈は私のモノ…誰であろうと許さない…許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない…」








「後悔したら…絶対に許さない…自分にだけは嘘…つかないで……」


「うん…後悔しない選択をするよ…」



猫子は涙を流しながら、俺を痛いくらい抱き締めた。



カシャンと、猫子の手にあったハサミが床に落ちる。

そのハサミと部屋を見て分かった……猫子は自分の髪の毛を自分で切り裂いたんだ。

俺が褒めた黒髪を。

言葉を慎重に選びながら、俺は同じくらい強く猫子を抱き締め、頭と髪を撫でる。



「猫子の髪が、また綺麗に伸びるまでには、絶対答えを出す…」


「うん…私…今より丈に好きになってもらえるように努力する…」


「猫子…」


「丈君…」







「文月ちゃんは良い子にゃ。猫子ちゃんと丈を二人っきりにさせてあげてるにゃね」


「きゅうん、きゅぅーん」


「うん、レオも…二人が大好きにゃ。だから、レオも負けないにゃ。文月ちゃんも、にゃ」


「きゅん!!」








数日後、猫子は長い髪をバッサリ切って、首が見えるほど短くした。





あと数日もすれば2学期だ。

学校が楽しみなんて、初めてかもな。



今度はどんな事が待ってるのか、そしてどんな出会いがあるのか。

まぁでも、文月や猫子、皆といれればきっと、退屈する事はないだろう。



だって、皆が大好きだから。




続く

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