37話 俺と2日目と夏祭り
久しぶりの更新
時々既出を編集するので、時々ツイッターで報告します。
あぁ~、気持ちいぃ~
海に浮かんで揺られるだけってのも、なかなか良いものだなぁ~
まぶしい太陽に熱い風、冷たい海…ぬるい?温かい?いや…熱い…?
ってか暑い…
いつの間にか海は巨大な文月の背中の上になっていた…
暑いよ~…暑い~…
(ぼごっ!!)
「ぐはぁ!?」
汗だくで起きた俺の腹には、学の踵落としが決まっていた…
寝る前におやすみタイマーにしておいたエアコンは夜中の内に止まり、男子が密集したこの部屋はとんでもなく暑かった。
いきなりたたき起こされて不満な俺は、俺の布団を奪って眠っている進の脚を使って、学の脚を四の字固めにした。
もし進が寝返りをうてば…
よし満足!
(すっかり目が冴えちゃったな…)
俺はとりあえず廊下に出てから、海を眺めるために外に出た。
まだ日が昇りきってないのに、かなり蒸し暑い。
一人かと思ったが、浜辺には猫子が物憂げな表情で砂浜に座りながら海を眺めていた。
「どうしたんだ?」
「丈君…」
俺は猫子の隣に座った。
「私ね…もうすぐ死んじゃうんだ…」
「うん…」
「だからね、この旅行が楽しくて楽しくて…終わるのが怖い…」
「じゃぁ…もっと生きれば良い」
「うん、頑張る…」
「きっと上手く行く…」
「んぐぁ…」
んぐぁ?
「はっ!?」
目を開くと、そこはまだ別送の男子寝室だった。
どうやら二度寝をしてしまったようだ…
「嫌な夢だ…」
まさか、猫子が余命わずかな夢を見るなんて…
まったく…どっから夢だったのか…
「イデデデデデデデ!!!!」
「うるしゃい…(ゴロン)」
「ひぎゃあああああああああああああ!!!」
どうやら学の脚を四の字固めしたあたりで二度寝したらしい。
「夢って何で、違和感持たないんだろうな」
「どうしたの?いきなり」
朝食の席で、俺は唐突に言った。
席には猫子の両親と文月、誘波、誘薙を除く全員が座っていた。
猫子の親は買出しに行っている。俺達男子が予想以上に良く食べるものだから、買い置きが無くなりそうだとかで、さっき買いに行った。
文月と誘波と誘薙はあっちこっち探検して遊んでいて、この部屋にはいない。
サラダをかき混ぜながら聞き返した紅にドレッシングを渡しながら続けた。
「いや、今朝見た夢でな…思いっきり変な夢なのに、何で夢の中の自分は不思議に思わないんだろうなぁ…って、思ってさ」
「あ、分かる~、その気持ち。私もこの前あったなぁ」
「結菜先輩のはどんな夢ですか?」
「丈が本当の弟になる夢、目が覚めたとき、ちょっとショックだったなぁ」
「先輩の弟かぁ、それは楽しそ…(ザクッ!!)」
俺の指先をかすめ、木製のテーブルに銀色に輝くフォークが刺さっていた…
「あ、ゴメンね、丈…楽しそうな丈見てたら、私、手が滑っちゃったにゃん」
「あはは、きをつけろよー、しょっきであそんじゃだめじゃないかー」
俺の生存本能が叫んでいる。
今の猫子を刺激するな!!
猫子はパンを切り分けるのに使ったテーブルナイフを軽く振った。
「ねぇ、丈…私、お昼はお肉でも良いと思うの…」
「と…年頃の女の子だろ?だったら…もう少し他の…」
「ねぇ、『芋虫』って小説知ってる?」
「あ~、アレだろ?昆虫図鑑だろ!?ねぇ!?そうだよね!?」
「大丈夫!!例え手足が無くなっても、私が面倒見てあげるから…あ、ノコギリどこだったかにゃぁ?」
「お前らああああああ!!今の猫子と俺を二人にするなあああああ!!」
他のみんなは、危険を察知して、手早く片付けをしていた。
俺の膝に座る事を条件に、何とか猫子に許してもらい、俺達は今日は何をするか話し合っていた。
「今日も海でいっぱい遊ぶにゃああ!!」
「でも、お父さんとお母さん帰ってくるの待たなきゃ。いきなり開けたら、心配するから」
「んじゃ、それまで…各々自由時間でもいいんじゃないか?」
「「「賛成~!」」」
夏の日差しに海風が吹き抜けて気持ちいい。
俺はテラスに出て、そこのハンモックで寝ている。
腹には文月がいて、撫でながら海を眺めている。
「はぁ~~…爽やかだ…」
「あ、丈がサナギになってる」
「ん?何だ、星名か」
「人生ゲームやるんだけど、一緒にやる?」
「あぁ、いいぞ」
文月を頭に載せて、部屋に戻ると、星名、猫子、結菜、進、酸橘がいた。
それぞれコマを持ってるのを見ると、俺を含めて6人でやるみたいだ。
猫子がコマを渡しながら、座るようにうながした。
「人生ゲームなんて、ガキの時以来だなぁ。俺、人生ゲーム弱いんだよなぁ…」
「きゅうん?」
「人生ゲームに弱いとかあったっけ?」
「よし!ポーカーフェイスだ!えっと、まずは俺だな…」
~10分後~
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「え~っと、丈君の番だよ?」
「…うん」
結菜先輩に促され、ルーレットを回す。
「5…1、2、3、4、5…家が火事になる…家を購入したときの料金を支払う…」
「え~っと…これで丈君…」
「借金が95万円。はい」
「ありがとう、星名…」
沈黙の人生ゲームは順調に進んでいる。
俺は涙目になりながら自分の手にある約束手形を睨んだ。
順番は、最初が進、次が俺、酸橘、猫子、結菜、星名となっていて、ゲーム通貨のやり取りは星名が担当している。
「…え~っと、企業が大成功。給料が倍になる…」
「俺の番か…あ…分かれ道だ」
進の番が終わって俺の番。
先頭を行く俺が行き当たった分かれ道を、鼠須が読み上げる。
「奇数ならギャンブルコース、一攫千金を目指せ。偶数ならそのまま進む」
俺は震える手でルーレットを回す。
偶数…偶数……偶数偶数!!
周りを見ると、皆息を呑んでいる。
進、酸橘、猫子、結菜、星名…
そしてその目が語っている。
偶数出ろ…と
そうか、これが友か…
苦しいときも分かち合う…
そして、皆で支えあう!!
負ける気がしない!!
今なら!好きな数字を引く事ができそうだ!!
輝け俺の右手!!
「行けええええええええええええ!!!」
「7」
俺はおとなしく地獄に脚を踏み入れた。
結果、俺は二度と…人生ゲームをやらないと誓った。
なぜなら、その借金は驚異的だった。
人生ゲームに付属する約束手形を全部貰っても、足りなかったからだ…
俺は文月を抱きしめながら、太陽を睨んだ。
「はぁ…眩しくて涙が滲むぜ…」
「丈…プフッ…!」
「笑いたきゃ笑え、星名。どうせ俺は負け犬だ」
「プック…クッ…だって、さ…最初…!!成功しまくって調子に乗ったと思ったら…ブフ!いきなり表情が曇りだして…!!」
「笑いすぎだぞお前!!」
「ぽ…ポーカーフェイス…きてない…!!アハハハ!!」
星名に釣られて、俺以外の全員が肩を震わせていた。
そんな人生に苦悩していると、猫子の両親が帰ってきて、俺達は海に行くことにした。
とにかく早く海に行きたい。
海に行けば、少なくともこの忌々しい人生ゲームを見なくて済む。
海では昨日と変わらず、大いにはしゃいだ。
楽しくて楽しくて……本当に楽しい。
海に潜って、誰が一番綺麗な貝殻を見つけるか競ったり、海草でお化けの真似をしたり、泳ぎながらビーチバレーをしたり、スイカ割りをしたり…
「あれ?下にビニール敷くの?」
「こうすれば割った後に食べれるでしょ?」
「あぁ~、なるほど」
準備を終えて、割り用の棒を持った進が聞いてきた。
「誰がやるの?」
「レオがやるにゃあああ!!」
進がレオに棒を渡し、レオは目隠しをしてその場で10回回った。
「右右!!右!」
「レオ~!左よ~!」
「真っ直ぐ真っ直ぐ!!」
「レオ姉ちゃん!実は後ろだよ!」
皆がいろんな事を良いながらレオを誘導する。
「丈、やりたそうだね?」
「え!?いや!!そんなんじゃ…」
俺の隣にいた結菜先輩が俺の顔を覗き込んだ。
まぁ、確かに…一度もやった事無いから…やってみたい…
凄く面白そうだ。
ボスッ!!
「うにゃぁ~…外しちゃったにゃぁ」
「ねー!次は丈にやらせてみようよ!!」
「はーい、丈頑張ってにゃ!」
「お…おう。うん…うん!!」
ヤベ…嬉しい。つい顔が緩む。
「よーし!!目隠しをしてくれ!」
目隠しをして10回回ると、思ったより場所が分からない…
しかも軽く目が回って真っ直ぐ進んでるのかも妖しい…
「丈君!真っ直ぐ!!」
「右右!!」
「一旦そこでジャンプ!」
「キュン!!キュゥン!!」
皆色々言うが、どれが正しいのやら…
文月の声が聞こえるが…これは何処に行けと言ってるのか…
真っ直ぐでいいのか?
そのまま進むと、文月が大きく鳴く。
真っ直ぐよろけながら進み、それらしい所で止まる。
「おりゃ!!」
ガシュッ!!
割れる音がした…
目隠しを取ると、割れたスイカがあった。
「やったあ!!アハハハ!!」
「きゅうん!!」
俺は駆け寄ってきた文月を抱き上げ、頬ずりする。
「ありがとうなぁ、文月ぃ!」
「きゅんきゅん!」
割ったスイカを皆で分け、俺は大きい所を貰った。そのスイカを文月と分け合いながら食べる。
適度に冷えたスイカはとても甘くて、水分もたっぷりだ。暑い陽気と熱い砂浜に合わさって、余計に冷たく、美味しく感じた。
文月はスイカが気に入ったようで、ガツガツ食べてる。
俺を見上げた文月は、果汁だらけの顔で嬉しそうに鳴いた。
そして昼食を食べに別荘に戻った俺たちは、午前中遊んだだけなのに疲れきって皆昼寝をしてしまった。
それほどはしゃいだのだ。
俺は再びハンモックに寝転がり、文月を抱き上げて静かに空を眺めた。
「文月、楽しいか?」
「きゅうん」
「そうか。俺も楽しい…」
「くわぁ~…ふゅう」
あくびをする文月をゆっくり撫でながら、俺のまぶたもどんどん重くなる。
「文月…文月ぃ…」
「んぐぐぐ」
撫でる手を甘嚙みする文月。ちょっと痛くも、気持ち良い感覚を味わっていると、いつの間にか眠っていた。
「…………」
「……んぅ?」
頬が湿っぽい…
文月が舐めてるのかな…?
「んぁ…」
目が覚めると、目の前に結菜先輩の顔があった。
先輩は顔を覗き込むように俺を見ている。
「……あぁ、丈、起きた?」
「…うん…起きた」
上半身を起こすと、文月が俺の腹の上でもう起きていた。
「起こしてくれたんッスか?」
「え?……うん、気持ちよさそうだったけど、もう3時だから」
「ふあぁ~…2時間くらい寝てたのか」
「良く眠れた?」
「はい」
その時俺は見てしまった…
部屋に戻った先輩の後ろに…
体を半分だけ見せてたたずんでいる猫子の黒いオーラを…
「ウフフフフフフ…ニャハハハハハ……」
「ッッッッ!!!???」
キラッと目が光ったと思ったら、俺は再び眠っていた。
「ぅぁ…」
「あ、気が付いた?」
「俺…どうなった?」
進が俺を起こしながら心配そうに覗き込む。
どうやら男子部屋の真ん中に寝ていたようだ。
(たしか急に意識が無くなって…それから…)
「よかったな。文月ちゃんが呼んで、学が軌道の確保をしてくれなかったら…」
「………え?」
そう言いながら進は口が直接触れないようにするための人工呼吸器を折りたたんでいた…
……え?
俺…息してなかったの?
そういえば、首の辺りが締め付けられたように傷む…
「でも、鈴鳴さん、生き生きしてたな」
「うん、凄い嬉しそうな顔してた」
進と酸橘が頷きあう。
俺…どうなってたんだ?
「それと、やたら右頬がスゥスゥするんだが…?」
「大丈夫、剃刀負けはしてないから」
「一体俺は猫子に何をされたの!?」
結局誰もまともに教えてくれなかった。
そういえば、猫子もそうだが、女性陣が見当たらない。
「皆着替えてるよ」
「着替え?何の着替えだ?」
「あぁ、丈は気を失って聞いてなかったな。この後祭りに行くんだ」
「そっか、祭りかぁ…久しぶりだ。楽しみだな、文月」
「きゅうん!!」
俺は文月を抱きしめながら、猫子が言ってた事を思い出していた。
そういえば来る途中の車内で猫子が祭りがあるから浴衣を持ってくるとか言ってたなぁ。
という事は皆は浴衣の着付けをするために別室にいるんだな。
俺の浴衣もあるとかなんとか…そんな事も言ってたっけ?
そこに学がやって来た。
「皆の浴衣…まぁ甚平だけど、用意できたよ」
学の案内で着替えに行く。
部屋には色々な甚平が並んでいて、それぞれ水着と同じ色の甚平を選んだ。
俺は水色
進は青
鼠須は灰色
学は緑色
「ハァ…ハァ…うぇへへ…」
なんだろう…学の熱を帯びた視線に寒気を感じる…
着替え終わり、リビングに戻ると、着付けを終えた女性陣が待っていた。
みんな昼間の水着と同色の浴衣を着ている。
猫子は黒
レオは白
結菜先輩はオレンジ
光は黄色
紅は赤
星奈は水色
「ねぇ…丈君…」
「うお!?ね…猫子…?何だ……?」
「か…可愛い?」
「へ?」
てっきり、追加で怒られるのかと思ったが、猫子は全く予想外な事を言ってきた。
今の猫子はネコミミを付けているが、髪は三つ編みをお団子にまとめていて、いつもの印象と全く違ていた。
華奢な体に黒い浴衣、髪を上げて見えるうなじが、儚げながら繊細な魅力を出していた。
「あ…あぁ、可愛い…!」
「にゃ…にゃは…にゃはは」
猫子は照れて、両手でメガネのツルを押さえる動作をした。
「んにゃぁ~…お腹が苦しいにゃぁ…」
「でも涼しいよね?」
「涼しいけど…ギュウギュウで苦しいにゃぁ」
むずがるレオと、それを見て微笑む結菜先輩。
結菜先輩はトレードマークのカチューシャを付けたままで、レオはネコミミのまま、ポニーテールにしている。
紅はしきりに手鏡を見て、自分の髪型や、化粧を確認しているようで、忙しそうだ。
髪をアップにして光は、ふんわりとした表情で皆を見つめていた。
「さて、そろそろ行きましょうか」
猫子のお母さん、学美さんが車のキーを見せた。どうやら車で行くらしい。
行く時同様の車にそれぞれ乗り込む。
車で移動すること20分ほど。お祭り会場に到着した。
駐車場から見える祭りの明かりと聞こえる音でテンションが上がる俺に、結菜がニヤニヤしていた。
「うわぁ~…」
「丈、楽しみ?」
「ふえ!?い、いやぁ…あ!文月が楽しみにしてたから!ね!?」
「きゅうん!」
「フフ、丈、可愛いなぁ」
「ん?今何て言った?」
「別に~、ほら、行こう」
「あ、うん!」
お祭り会場は沢山の人と出店で溢れかえっていた。
ソースや醤油の焦げる匂い、リンゴ飴やチョコバナナの甘い匂い、お酒やタバコの匂い、人々の笑う声、太鼓や笛の音、色々混ざって祭りの雰囲気を大きく盛り上げている。
「はぁぁぁ!うわぁ~!!あはは!!」
「やっぱり楽しみだったんじゃない。(もう、可愛いなぁ)」
「なぁなぁ猫子!あれ何だ?」
「うん?あぁ、ドネルケバブだね」
「どね…?」
「ドネルケバブ、美味しいよ?」
「ふ~ん。あっちは何だ?」
「アレはクレープだね」
「アレが噂に聞く、クレープッ!!」
「噂??」
「お!ヨーヨー掬いだ」
俺はすぐそばの水風船ヨーヨー掬いの屋台に入った。
「ほら文月、ヨーヨーだぞ」
「きゅうん??」
文月は前足でチョンチョンとヨーヨーを触った。
浮き上がる反動が気に入ったのか、文月はチョンチョンしまくった。
「きゅう~~ん!」
「よし!俺が取ってやる。おじさん、一回」
俺はお金を渡し、代わりに釣り糸を貰った。
一旦文月を猫子に預け、慎重に糸の先の針金を水面に付ける。そして紙で出来た糸を濡らさないように輪ゴムに引っ掛けて、ゆっくり上げる。
「……よっと…」
「お!兄ちゃん、起用だね!」
「ほら文月、ヨーヨーだぞ」
「きゃう~ん」
前足でヨーヨーを挟んで、文月は冷たい水風船に頬ずりした。
「じゃ、次行こうか」
「おう」
文月を抱いたまま、猫子が笑った。
「しまったぁ…皆は何処だろう」
はしゃぎまくってどんどん進んでた俺は、皆とはぐれてしまった。
携帯電話で連絡を取ろうと思ったが、回線が混雑して繋がらなかった。
全く知らないところで一人になると、物凄い心細くなってきた。
「参ったなぁ……弱ったなぁ…」
「あ、丈く~~ん」
「あ!光ィ!!」
前から人ごみを抜けてやって来たのは光だった。
「丈君もはぐれちゃったの?」
「丈君も…って事は、光もか…」
迎えに来たのかと期待したが、二人して迷子とは…
俺がガックリと落ち込んでいると、光は微笑んだ。
「じゃぁ、二人で回ろっか」
「はい?」
「一人だと迷子だけど、二人なら迷子じゃないよね」
そう言ってニコリと微笑む光。
さっきまでの心細さとは間逆な暖かい感情にニヤけそうになるのを押さえながら、俺は頷いた。
「あぁ、一緒に回ろう」
「うん!」
とりあえず、俺は近くにあった射的屋を覗いた。
中では子供達が四苦八苦しながらコルクを銃口につめていた。
昔祭りに行った時には、物凄くやってみたかったのを覚えてる。
だがその時はまだ幼すぎて、やらせてもらえなかったが。
念願の初射的…やってみるか!
「おじさん、俺も一回!」
「はい、500円で8発」
俺はコルクを受け取って、おじさんに教わりながら銃口に一つつめた。
コルクをつめた間隔と、子供達が的に当てる音を聞く限り、台から景品を落とすのは無理だと思った。
だが、
それでもおもちゃの銃を握る感覚に、胸が躍った。
「丈君~、頑張って~」
「おう、まぁ、楽しめればいっかな」
光は見てるだけだった。だが、少しそわそわしてるところを見ると、やってみたいようだ。
するとおじさんが、3発コルクを拾い、光に渡した。
「はい、彼女さんにも3発オマケ!」
「いいんですかぁ?」
「ぶふっ!?」
俺は今の一言で同様して思いっきり昇順を外し、弾はこけしに当たり、倒れたこけしにキャラメル箱が巻き込まれ、景品台から落ちた。
「お!彼氏君、運がよかったねぇ!ほら、おめでとう!」
(かかかか…彼女…!?彼氏!?)
猫子と恋人関係にある俺だが、光とそう見られると、何故か急に恥ずかしくなってきた。
その光は、小学生に負けないぐらい四苦八苦しながら玉をつめていた。
「……ほら、こうするんだよ」
俺はやって見せて、光に教えた。
「あれぇ?」
「こうだよ」
俺は玉を指で押し込み、弾倉を上げた。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
「お…おう」
赤面してしまい、まともに顔が見れない…
結局光は景品を取れなかったが、それでも楽しめたらから良かった。
俺はキャラメルの箱をポケットにしまい、歩き出した。
と、思ったら、光が躓いて転びそうになった。
「キャッ!」
「大丈夫か?」
「うん…人が多くて、ちょっと足元怖い、かな」
慣れない下駄だし、ココは俺が先導するか。
俺は光に手を伸ばした。
「ほら」
「ん?」
「手繋いで。人が少ない所で一旦落ち着こう」
「うん…ありがとうね」
はにかみながら光は俺の手を取った。
しっかり手を握り、人があまり多くない場所を探した。
少し歩き、海が見える広場までやってきた。
「ここなら少しは楽になるか?」
「うん」
近くのベンチに腰掛けて、二人で海を眺める。
光は複雑な顔で、膝に置いた手を見つめていた。
「どうした?気分でも悪い?」
「丈君、彼女いたんだ」
「はい?」
光は怒ってるのか、頬を膨らました。
だが全然怖くない…。
予想しなかった光の一言に、俺はポカンとした。
「何で教えてくれなかったのぉ?」
「あ…あれ?言ってなかったっけ?」
「はぁ~、お姉ちゃん、丈君の事、いつも考えてるのに。丈君はお姉ちゃんに色々教えてくれないんだもんなぁ」
「ま、待て、何でそんなにお姉ちゃんを連呼する!?」
「お姉ちゃんの事、嫌いになっちゃった?」
「き…!?嫌いになんて…なって……ない…」
「そっか、よかった~」などと言うと思ったが、光はまだむくれていた。
何て言おうかと悩んでると、光はボソリとつぶやいた。
「だって、私の浴衣、褒めてくれなかった…」
「え?そんな事?」
「女の子はそーゆー事気にするの!!」
「はいッ、ゴメンなさい!!」
「………」
「…えっと…可愛いよ?」
「………」
「え~っと、え~っと!可愛い!すごく可愛いよ!ほら、黄色って光に合ってるし、それに凄く美人だから、浴衣姿は栄えるし!それに胸も…あッ!!いや!そうじゃなくて!!え~っと!?」
視線が光の顔、体、胸と動き、すぐに目をそらす。
慌てて弁解するも、光はそっぽを向いてしまった。
「あう…えっと…うぅ……」
「……ぷふ…フフフ」
「ひ…光?」
「アハハハハハ!もう、男の子ってほんとおっぱい好きね!」
「いや!!別に好きじゃねーし!!」
「お姉ちゃんも嫌い?」
「はい!?」
視線を光に戻すと、光は愛おしそうに俺を見つめていた。
その視線に恥ずかしくなり、俺は顔を隠すようにうつむいた。
「いいよ、許してあげる。さっきの反応、可愛かったし」
「かッ…!可愛くねーし…」
「あ、皆来たみたいだよ?」
振り返ると皆がこっちに歩いてくる。
光は唇に指を立てて、小声で「ナイショ」と言った。
続く