33話 俺とキツネの葉月
少し(だいぶ)遅くなりましたが、続きです。
年末前にもう一話更新するつもりですが、間に合わなかったら来年になります。
夏休み
家の近くの山。その山を開いて作ったような公園で、文月を遊ばせている。
まぁ、散歩みたいなものだな。
俺はベンチに座り、遊びまわる文月を眺めている。
「木陰は涼しくて良いなぁ〜・・・文月は楽しそうだし、ここは良いところだ」
「きゅうん!きゅう!」
文月はバッタを追いかけまわして遊んだり、穴を掘ったり、花畑に入ったりして楽しそうにしている。
森から聞こえてくるセミの鳴き声がうるさくも心地良い。これこそ夏、と言う感じだ。
そんな夏を満喫してる時、森の中で何か小さい何かが動いた。
「ん?」
「ふゆぅぅ」
何か、文月が警戒してる?
もしかして…蛇とか?
ガサ…ガサ…
「くぁん」
その正体は、なんと1匹のキツネだった。
黙ってこっちを見るキツネを指差して文月に聞いた。
「お前の友達?」
「きゅうん!!(ブンブン!!)」
文月は顔を横に振り、そのキツネを睨んだ。
だが逆に、そのキツネは俺の脚に擦り寄ってきた。
「くぁん、くぁん」
「くすぐったいぞ~、何だお前、迷子か?」
「きゅ!?」
俺はその子を撫で回しながら、さらに話しかけたが、その子は鳴くだけだった。
「お前ここの山のキツネか?」
「くぁん」
「ん~、文月と違って、うなずいたりはしないか…よし!お前、俺の家に来るか?」
「きゅん!?」
「くあぁん」
「よぉし!お前は今日から…ん~、今は8月だから…葉月だ!!」
「くぁん!!」
「きゅぅぅ~ん…」
青空「はい、一旦ここでカット…キツネの二人は何言ってるかぜんぜん分からないから、ここからは字幕バージョンでお送りいたします。ですが、丈にはキツネの鳴き声しか聞こえてません。読者の皆さんに分かりやすくするためのものです。では続きをお楽しみください」
野山を駆け回っていたキツネ改め、葉月を風呂に入れるために、風呂を洗いに行く。
文月と葉月は打ち解けたのか、何か話してるみたいだ。
「ふぅん、ここが人間の住む巣なんだ」
「何で…何でキミが…?」
この子は、前にボクが一度山に帰ったときに出会った子だ。
たしか、群れのリーダーの子供。
ボクよりも少し早く生まれたという事は覚えてる。
「別に、ただの気まぐれよ。はみ出し者のあなたを受け入れた変な人間を見てみたくなっただけ」
「丈は変じゃないもん!!」
「あら失礼、あなた達、ね」
言い合いをしてると、丈が戻ってきた。
風呂を洗い終えて、お湯が張るまでの時間文月と葉月と遊ぼと思い、リビングに戻ってくると、人は何だが話をしてるようだった。俺はしゃがんで文月を撫でた。
「何話してるんだ?」
「丈……何でもないよ…」
「どうした?文月、元気ないな?」
「ねぇ、貴方…私と遊びましょうよ」
「おっと…葉月ぃ、お前は人懐っこいなぁ、よしよし、3人で遊ぶか」
文月と葉月の両方を撫で回すが、葉月ははやり、少し嫌がってるようだった。
やっぱり、まだ慣れないよな。
文月が大好きな猫じゃらしであやすと文月は喜ぶが、葉月は特に見向きしなかった。
しばらくするとお湯が沸き、皆でお風呂に入ることにした。
が
「どうした?葉月」
「い…いや……え?何で水が暖かいの…?」
「別にお風呂なんだから当たり前じゃん」
俺と文月は風呂場に出たが、葉月は入ってこようとしなかった。
まぁ、動物だから水が苦手なのかな?
でも、このままじゃ泥だらけだから、ちゃんと入れないとな。
「ほら、こっち来い」
「ひゃぁ!?」
「流すぞ~」
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
やっぱり、動物って、水が苦手なんだな。
葉月は風呂場で逃げ回った後、何とかシャンプーで全身を洗い、一応風呂に入れたが…半分気絶していた。
「オフロコワイオフロコワイオフロコワイオフロコワイオフロコワイオフロコワイオフロコワイオフロコワイオフロコワイオフロコワイオフロコワイオフロコワイオフロコワイオフロコワイオフロコワイオフロコワイオフロコワイオフロコワイオフロコワイオフロコワイ」
「丈の事バカにしてたクセに、こういう所キミは弱いんだね」
ボクは少し勝ったような気分で、背伸びした。
その体を、丈がブラッシングしながら“どらいやー”で乾かしてくれる。
「はい、次は葉月の番だよ」
「ひ!?」
俺は葉月を抱き寄せると、優しくその体にブラシを入れながらドライヤーの風を当てる。
最初は嫌がっていた葉月だが、段々落ち着いて、気持ちよさそうな顔をしている。
「まぁ…これは…中々……悪くない…」
「さて、乾いた。次はご飯にするか!」
俺は夏休み前に学校の図書室で借りてきた【動物でも食べられる料理】の本から適当なものを見つけて作った。
そして、自分の分も軽く作り上げ、皆で食卓を囲む。
「いただきます!!」
「いたぁきます!」
「い…いただきますぅ?」
文月は元気に声を上げてから食べ始め、葉月は少し匂いをかいでからゆっくり食べ始めた。
俺も作った肉と野菜の炒め物でご飯を食べる。
「もぐもぐ…!!!バクバクバク!!」
「美味しいか?よかったぁ」
葉月の食べる勢いはどんどん増して行き、すぐに皿が空っぽになった。
どうやら喜んでくれたみたいだ。
晩御飯の後は、皆でテレビを見たり、遊んだり、本当の家族のように笑った。
「ほら!葉月ぃ!」
「捕まらないよん」
「待てぇ!おっぷ、アハハハ!文月!くすぐったいよ!」
「ペロペロペロ」
「アハハハハハ!!はづ!葉月!アハハハハ!足!足裏は!!ハハハハ!卑怯だぞ!アハハハハハ!!」
そして、時計の針が10時をさしたあたりで、寝る事にする。
文月が眠そうにあくびをする。
ベッドに入り、二人を呼ぶ。
「おいで、文月、葉月」
「丈、おやすみぃ」
「………」
「おやすみ」
電気を消して少しすると、浅い眠りがやって来た。
眠るまでの間、俺は葉月を撫でる。
窓を開け網戸だけだから、外から虫の鳴き声が聞こえる。
「寝た?さてと」
(悪くは無い…かも。
少なくともこの人間は…あの子を本当の家族のように大事にしてる。
それにあの子も、まるでそれがあたりまでであるかのように人間と一緒にいる。
分からない…何で…)
「もう行くのか?」
「!?」
葉月は網戸を開けた状態で俺のほうを振り返った。
俺は網戸を全部開けて、葉月と一緒にベランダに出る。
「月が綺麗だな」
「葉月…」
文月も起きて、葉月の隣にやって来た。
「悪くは無かったわ。ご飯は美味しいし、ドライヤーは気持ちよかった。でも」
葉月は俺に向かって一声鳴いた。
「私は人間と一緒にはならない」
「やっぱり、山に帰るんだな」
何て言ってるのかは分からないが、何となく感じる。
葉月はただの気まぐれだったのかもしれない。
文月は不安そうに鳴いた。
「丈は良い人だったよね…?」
「……えぇ」
葉月は踵を返すと、そのままべランダから飛び降り、物置の屋根に飛び乗り、そこからまた飛び、地面に着地した。
「いつでも来いよ!」
小さくなった葉月は大きな声でまた一声鳴いた。
「気が向いたら」
続く