26話 俺と夏休みと白い猫子
また更新が遅くなってしまいました。
更新できるようになったらすぐに更新するので、それまで少しお待ちください。
1学期の終業式、特に何も無く終わり、すぐにHRが始まった。
式中、文月は教室で待たせていた。見回りの教師に見つからないように教卓の下に隠れるように教え、今もまだ俺のカバンの中にいる。
「それじゃぁ、夏休み、安全に過ごすように」
最後にそう言うと、皆がわらわらとそれぞれ話し合い、夏休みの計画を立て始めた。
皆でお祭りに行くなど、どこに旅行に行くなど、それぞれだ。
もちろん、猫子も俺に話し掛けてきた。
「今日は丈君、この後用事ある?」
「この後?まぁ…無いけど…夏休みの話とかじゃないのか?」
「まずは、宿題を終わらせよう」
「…え?」
あぁ…なるほど…コイツは最終日に泣かないタイプか…。
「別に…すぐじゃなくても…」
「すぐにやる!最後になって、終わってなかったらどうするの?」
「……わかったよ…」
猫子の目は強かった…コレはテコでも意見を変えないだろう。
「早めに宿題終わらせて…ゆぅぅっくり…私に染めてあげるからぁ」
「宿題かぁ…小学生からまともにやってないなぁ…いつも最後に泣くタイプだからな」
「…スルーされた…でも、早めに終わらせてもそんは無いでしょ?」
「そうだな、んじゃ、気は進まないが…宿題やるか」
「それじゃ、行こうっか」
「あ、俺は少し用事があるんだ。先に行っててくれ」
「用事?なら終わるまで…」
「教師の説教だ…急に点が上がったもんだから、カンニングしたんじゃないかと疑ってるんだ」
「……え?でもカンニングなんて…」
「してねぇぞ、疑ってるだけだ。どれくらい時間かかるかわからんからな、後から行くよ」
「う~ん、それなら…私も私で家で用事あるし…わかったわ」
「悪いな…んじゃ、また後で」
猫子と別れて、俺は進路指導室に向かい、そこで1時間ほど尋問されたが…証拠どころか、事実すらないので、俺は1時間で解放された。
だが、かなり腹が立った。
とてもじゃないが、宿題に集中できるとは思えなかった。
それでも俺は、猫子の家に向かった。
猫子と一緒に話したりすれば、この苛立ちも収まるだろう。
「にしても…暑いなぁ…文月…」
「きゅうぅぅ…」
移動時はカバンに入ってる文月は、今俺の肩に乗ってる。
文月が暑くないように、通気性を考えたカバンを新しく買ったが、それでも今日は暑い。
アスファルトの道路から陽炎が上がるほどだ。
「はぁ…猫子の家、クーラー効いてるといいんだがな」
「きゅうん…」
あいつ、全然暑がったりしないからなぁ。
俺は日陰を選んで歩き、猫子の家に急いだ。
タタタタタ…
その時、先のT字路で、ネコミミをつけた長髪の人が横切った。
「あれ……猫子?」
だが、おかしい。
(陽炎のせいか?)
俺はT字路を曲がり、確認した。
(何だったんだ…本当に…猫子…か?)
錯覚かと思った。そして、そこに居る人を見て俺は驚いた。
いや、それこそ錯覚だと思えた。
そこに居るのは、確かに猫子とそっくりだ。
後ろ姿でもわかった……
いや、それでも…
---白い---
白い肌は猫子と同じだが、尻尾のアクセサリーも、ネコミミも、髪までも…全部真っ白だ。
猫子の髪は黒だ。綺麗な黒髪。尻尾のアクセサリーも、ネコミミも黒い。
だが、そこに居る人は、白い。
まるで白猫。
白い猫子
白猫子
白いワンピースにサンダルと、夏を満喫してる格好だ。
その人が俺の存在に気付き、振り返った。
目は青い、綺麗な水色だ。
「…誰にゃ?」
……にゃ?……
「あ、いや。人違いでした。ゴメンなさい」
「んにゃ、そうかにゃ」
そう言うと白猫は行ってしまった。
ドドドドドドドドドドド!!
凄い速度で走りながら。
「…何だったんだろうな…?」
「きゅうん?」
とりあえず、猫子の家に向かうことにした。
しばらくして猫子の家に着き、インターホンを押したところで……また来た。
さっきの白い猫子だ。
走って来たのに、息一つ乱れてなかった。
「また会ったにゃ」
「えっと…うん」
「にゃおん、そこの家ににゃに《何》か用かにゃ?」
いや、何と言われても…。
「そっちこそ、ここに何か用か?」
「にゃ、それは…」
そこで黒い方の猫子が家から出てきた。
「丈君、待ってたよ。さぁ入っ……」
黒い方の猫子の顔が凍りついた。
「にゃはははは!猫子ちゃぁ~~ん、来たにゃぁぁぁ!!」
「れ…レオ…!?」
「え!?知り合い!?」
「猫子ちゃんはレオの従姉妹にゃん!!」
「ええええええええええええ!?」
「きゅ!?きゅ!?」
文月と俺は、目を白黒させた。
白猫子と黒猫子だけに…
~数十分後~
「鈴鳴獅子にゃ、よろしくおにぇがい《お願い》するにゃん」
「あぁ、よろしく…」
「改めて、この子はレオ、お父さんの兄弟の娘。私の従姉妹」
猫子の従姉妹の獅子かぁ…。
従姉妹というより、姉妹に見える。
鏡写しみたいにそっくりな見た目だ。
違うのは眼鏡をかけていないのと、白いことだ。
「レオ、この人が……私のぉ、愛のパートナーの丈君よ」
「普通に彼氏とか恋人って言え…川野 丈、よろしく、レオ」
「にゃか良しになろうにゃん」
「コイツは文月って言うんだ」
「きゅうん」
「文月にゃんも、よろしくにゃ」
俺はここで、猫子にこっそり聞いた。
「なぁ…コイツの髪と目の色…」
「うん、先天性白皮症って病気…生まれつきのね」
「…そうか……」
聞いたことがる。
先天性白皮症。人にあるメラニン色素が作られない病気だ。
色素を作る能力が全く無いと赤。少しあると、目の色は青になるとか。
そうか…それでコイツは、こんなに明るくすることで、隠そうと…。
「多分、今丈君が考えてること、心配いらないわよ…」
「え?何でだよ…だって…」
「この子…自分の病気…全っ然気にしてないのよ…自分で聞けばわかるわ…」
「へ?」
俺はレオに聞いてみた。
「お前…その髪…」
「にゃ、この髪かにゃ?真っ白で綺麗にゃん!レオの自慢にゃ!」
「…は?」
「目も青いんにゃ!外人みたいでかっこいいにゃ!」
「………」
「ニャハハハハハ~~~!!」
本当だ…コイツ、気にして無い…。
「病気って言われたけど…レオはあんまりわかんないにゃ」
「でも、その病気って、皮膚病にも繋がるんじゃ…?」
「レオはお父さん似で、肌がとっても強いのにゃ!日焼けもしにゃいし、風邪も引いたことにゃいにゃ!」
「ネコミミと尻尾は、私の真似。一時は眼鏡をかけようともしてたわ」
「だってレオ、猫子ちゃんとそっくりだにゃん」
…猫子の家系の人は皆こんな感じなのか…?
「でも、おっぱいはレオの方が大っきいにゃん!」
「な!変わんないでしょ!?私は制服だからわかんないだけ!」
「え~っと、その喋り方は?」
「この子の喋り方は、口がうまく回らないのよ。な行が全部にゃ、になるのよ」
「にゃはははは!猫子ちゃんより猫みたいにゃ!!」
……あれ?
「でも、ねこって、言えてるじゃないか。ね、も、な行だぞ?」
「にゃん、それはいっぱい練習したからにゃ。な、は大丈夫にゃ」
それにしては、さっき、“な” も “にゃ”になってたがな。
「じゃぁ、語尾は?」
「コレは猫っぽいからにゃ!にゃはははは!!」
爆笑しながら獅子は答えた。
何か、底抜けに明るいやつだけど…単なるバカなような気もする…。
「ところでレオ、どうして今日来たのよ、泊まりにくるのは来週でしょ?」
「うにゃん、猫子ちゃん達と遊びたかったから、遊びに来たにゃぁ」
「来たって…まったく…」
猫子は呆れたように頭を押さえた。
「私達は夏休みの宿題をやるの、だから遊ぶのは無理よ」
「………」
(レオは遊びたい、猫子は宿題進めたい、俺は宿題やる気分じゃない……)
「よぉし!じゃぁレオ!遊ぶかぁ!」
「ニャハハハハ!!レオは外に逃げるにゃぁ!鬼ごっこにゃぁ!」
「よぉし!絶対捕まえてやるぞぉ!」
ダダダダダダダ!!!!
「………はぁ…全く…」
「ハァ…鬼ごっこって……言っても…アイツ…ハァ…何てスピードだよ…」
レオはまるでバイクで走ってるかのようなスピードで猛進している。
どう考えても追いつける気がしない。
俺自身、運動はあまり得意じゃない分野だ…よけいに無理な話だ。
「きゅぅん」
「あれ?文月、お前猫子の家に残ったんじゃないのか?」
文月が俺の肩から顔を出した。
空気の匂いを確かめるように、鼻をヒクヒクさせ、何か気付いたほうに顔を向けた。
「キュン!」
「あっちか?」
文月が向いた顔のほうに進んで行くと、そこは小さな山で、レオがその先で手を振っていた。
「お~いジョウにゃぁん、こっちにゃぁぁ~」
レオが大声で俺を呼んでいる。
木で作られた階段を上り、追いつくとそこは、小さな公園が広がっていた。
「ハァ…ハァ…お前…早すぎるぞ…」
「おっきい木にゃぁ」
レオは俺の話を無視して、目の前の木を見上げていた。
確かに、この公園にしてはやけに木が大きい。
遊具は無く、ただ木がそこにあり、公園というより広場という感じだ。
木の下だけに芝生が生えていて、その周りは涼しそうな木陰ができている。
「だるまさんが転んだやるにゃぁ!」
「へ?」
「レオが鬼やるにゃ!」
レオはそう言うと、木まで走り、歌を歌い始めた。
「だぁるぅまぁさぁんがぁ~…転んだ!」
「!!」
俺は反射的に動きを止めた。
「だぁ~るまさ~んがぁぁ~転んだ!」
「!!」
文月も肩から降りて、参加した。
俺と文月は少しずつレオに近づき、そのたびに動きを止める。
レオは楽しそうにニコニコしながら鬼を続けた。
そして鬼を交代しながらやること数十回、レオは次の遊びを考え始めた。
「かくれんぼするにゃぁ!」
「はいはい、いいぞ、どんどん来い」
「レオが鬼やるから、隠れるにゃぁ!」
「ちゃんと10数えろよ~」
俺はそう言いながら走り、文月と共に隠れた。
「9…10!見つけるにゃぁ!」
レオはあっちこっち探しては、さっきの文月みたいに空気の匂いを嗅いだ。
「見っけにゃ!」
「今ので良く見つけられたな…」
そしてかくれんぼもやること数十回、そろそろ疲れてきた。
「レオ、そろそろ帰…」
「今度は木登りにゃぁ!」
「はえ!?」
「ニャハハハハァァ~~!!」
レオは木に飛びつくと、するすると登って行き、あっという間にかなりの高さまで上ると、太い枝に座った。。
「木登りなんて…小学生以来だな…」
俺は近くの太い枝に手を伸ばし、上り始めた。
以前身についた感覚というのは、結構覚えているもんだと実感した。
文月は俺の肩にしがみつき、話さないように服に噛み付いていた。
そして特に苦も無くレオの隣まで登れた。
「ほら、文月、俺の膝に乗れ」
「きゅうん」
膝の上で文月は真っ直ぐ前を見つめた。
「綺麗にゃぁ…」
レオと文月の目線の先は、街が一望できる絶景だ。
「あぁ、綺麗だな」
俺も眺めを楽しんだ。
街はすでに夕日が差し、ヒグラシが鳴いていた。
遊びで掻いた汗が風を受けて気持ちが良い。
運動するってのがとても楽しいものだと、改めて思えた。
「今日は楽しかったにゃぁ~」
レオは満足そうに笑うと、俺にくっ付いてきた。
「暑苦しい、離れろ」
「嫌にゃん、レオはジョウが気に入ったにゃん」
そういいながら、本当の猫のようにレオは俺に頭を擦りつけた。
その頭を撫でながら、俺は夕日の街を眺めた。
続く!
更新が遅くなって本当に申し訳ありません。