25話 俺とギターと先輩の部
やべぇ…また更新遅れた…
ショックを引きずったまま数ヶ月、そしてまたショック…どんだけメンタル弱いんだ…俺…
じ…次回こそ早めの更新を目指します!!
中間テストが終り、もうすぐ夏休みになる。
学校は短縮授業で4時間目までしか行われず、科目もほとんど自習ばかりだった。
今は放課後、適当にコンビニで買ったオニギリを食べてから、俺は屋上への階段を上がっていた。
特に何か学校でするわけじゃ無いから、昼食を食べる必要は無かったが、猫子の事だから家に遊びに来ない?とか、これからどっか行かない?とか、さりげなくデートに誘って(その後に何かして)来ると思ったが。
『丈君、今日は私、早く帰るね。チョット…あ~、家で…え~…用事があるの。ゴメンね、今日は丈君を家にさそってあんな事やこんな事…それに…』
と、まぁそんな理由で、猫子は先に帰ってしまった。
予想通り、猫子は俺を誘う気だったらしいが…それをやめてまでしなきゃいけない用事って…?
自分で言うのも何だが、猫子は俺に対してはほとんど優先的に事を進めている。
それが女友達の誘いでも、俺に予定をあわせるくらい。
いや…この表現じゃ弱いか。
それがたとえ、教師であろうとも、俺と一緒になるためなら脅すことも躊躇無くやってしまうくらい。
余談だが、コレはあながち嘘というわけでは無い。
何しろ、2年生に進級する時、猫子が教師を脅して俺と同じクラスになった…という噂が最近あるからだ。
もちろん、そんな事怖くて俺には聞けない…。
そんな理由で、放課後は俺と文月だけになってしまった。
俺は階段を上がりながら文月と話をした。
「文月、夏休みになったら何処に行こうか?」
「きゅう?」
夏休みになったら、文月と色んなところに行きたいと考えながら上っていく。
「海も面白そうだし、山なんてのもいいよな。夏祭りは絶対に行こうな。それから…」
そこで、文月の耳がピクピクと動いてるのに気がついた。
「どうした、文月?何か聞こえるのか?」
「きゅうん」
下ろすと、文月は廊下を進んだ。
時々止って何かを確かめたりしながら進んだ先には。
「音楽室?」
選択授業か部活でしか使わないため、俺にはほとんど縁の無いところだ。
良く聞くと、中からギターの音が聞こえてきた。
(誰か弾いてるのか?)
ギターの事は詳しく知らないが、確かアコースティック・ギターとかクラシック・ギターとか、そんな感じで呼ばれてるやつだった。
少なくとも、エレキ・ギターでは無い。
ゆっくりと落ち着いた音が響いてきて、俺は聞き入ってしまった。
「良い音だな、文月」
「きゅ~ん」
文月は目を閉じながら音を楽しんでいた。
俺も一緒になって音を楽しむ。だがすぐにギターの音が止んでしまった。
(出来れば、もう少し聞きたい)
ギターの音が止むと、文月はドアを開けて音楽室に入って行った。
「ちょ、文月!」
俺も文月を追って音楽室に入った。
教室の中にはギターを抱えた男子生徒が座っていた。
「…誰?」
男子生徒は不思議そうな顔をしながら質問した。
背が小さめで、くしゃくしゃの髪に半目の男だ。
ギターは体に合わせてるのか、大きさに違和感は感じない。
「文月、行くぞ」
俺は文月を抱き上げて、すぐに出で行こうとした。そこに。
「あれ?川野君?」
「犬飼先輩…」
犬飼結菜先輩が入ってきた。
「文月ちゃ~ん、元気だった?」
「きゅん」
犬飼先輩は文月の頭を撫でながら俺を見た。
「どうかしたの?何か用事?」
「あ…いぇ…」
俺は目を合わせられず、目をそらした。
「音楽室に用?それとも軽音楽部?」
あ、そうか。ここって軽音楽部が部室に使ってるのか。
って事は、この男の子も軽音楽部の仲間かな?
ギターを持ってる男の子を見てると、先輩が不思議そうに聞いてきた。
「丈君って酸橘と知り合いだったの?」
「すだち?」
「2年、鼠須酸橘」
ギターの男の子、鼠須は手に持っていたギターを置きながら答えた。
「始めてみたいだね。酸橘、こっちは私の友達の川野丈君。抱っこしてるのが丈君の家族の文月ちゃん」
「(ペコリ)」
俺は軽く頭を下げた。
っと、言うか、今あっさり俺の事を“友達”と言ってくれた。その事に少しくすぐったい気分になった。
(やばい…顔がほころぶ…ニヤニヤが止らん…)
だがそれと同じくらい気になることがある。
俺は表情を崩さないように我慢しながら聞いた。
「なぁ、さっきのギター。鼠須が弾いてたの?」
「? まぁ、練習がてら」
「えっと…もう一回弾いてくれないかな」
「え?」
もう一回、あのギターを聞きたい。
自分じゃ良くわからないが、凄く良い音だったと思う。
「酸橘の出す音、良い音だよね~、私も気に入ってるの」
「いいけど…どうせなら、結菜先輩」
「あ、そうだね、それなら私達の演奏聴いてよ」
「私達?」
それって、軽音楽部の?
「そういう事なら、2人も呼ばなきゃ」
犬飼先輩は携帯を取り出して電話をかけた。
「あ、私。今すぐ来れる?…わかった、待ってるね」
電話を終えて、携帯をポケットに入れ、先輩はドラムスティックをカバンから出した。
「それじゃ酸橘、準備。丈君は座ってて良いよ」
「わかった」
「あ、はい」
俺は適当にイスを見つけて座った。
先輩がドラムを運んでいると、音楽室のドアが開き、他の部員がやってきた。
部員というか、星名と紅だった。
「結菜先輩、お待たせしました」
「あれ?ドラム出して…今日は演奏練習ですか?」
ドラム(細かい名称は知らない)のパーツを組み立てながら犬飼先輩が俺の方に目線を向けた。
釣られて二人が俺を見つけた。
「あれ?丈君?何でここにいるの?」
「私が誘ったの。演奏聴かない?って」
犬飼先輩が軽く説明すると、2人も楽器を準備し始めた。
「あれ?星名、お前美術部って言ってなかったか?」
「え?言ってないよ?。美術部には友達がいるだけだよ?」
あぁそうか、前に文月が学校に着いて来た時は普通に美術部に出入りしてたから、星名はてっきり美術部だと思ってた。
その星名は苦笑しながらキーボードを運んでいる。
「丈君って結菜先輩と知り合いだったの?」
「猫子からのな」
紅がベースを出しながら聞いてきた。
(多分ベースであってると思う…鼠須の楽器がギターだったから…)
「そう言えば、今日は猫子ちゃんと一緒じゃないの?」
「あぁ、用事みたいでな、文月と屋上行こうと思ったら、文月がここまで来たんだ」
その文月は、俺の膝で大人しく待っている。
俺は文月が落ちないように、膝をくっつけて座っている。
それから少し待って、音あわせをしてから、軽音楽部の演奏の準備が出来た。
「それじゃぁ、私達の曲ね…1.2.3.4」
犬飼先輩がドラムスティックを打ち鳴らし、リズムを取ると、それにあわせて演奏が始まった。
それは鼠須の時と同じで、思わず聞き入ってしまうような曲だった。
明るく、元気の出るような。
歌詞はまだ無いのか…それとも元々無いのか…歌は無かったけど、それでもその演奏は…俺の中では一番の演奏だった。
演奏が終わると、俺は立ち上がって拍手をした。
その拍子に、文月が俺の膝から転げ落ちた。
「フギュッ!」
「凄かった…凄かったです…!」
「ウフフ、ありがとう」
笑いながら犬飼先輩はフゥ、と一息ついた。
「どう?僕たちの演奏」
鼠須が軽くギターを弾きながら聞いてきた。
「うん、凄く良い…久しぶりに感動したよ!」
コレは本当だ。感動するほど心が動いたのは、数年ぶりだ。
「ねぇねぇ酸橘、この曲さ…」
結菜先輩と鼠須が話し始め、星名にも感想を言おうとすると、星名が目に涙を浮かべているのが見えた。
俺は小声で星名に話しかけた。
「な…なんで泣いてるんだよ!」
「だって…丈君が…色んな表情してるから…」
「はえ?」
「丈君の顔が…あんなに楽しそうに変わるの…久しぶりだったから…」
あぁ…そうか。星名と進とは、あんまり会話をしてないから…。
それで…泣いてるのか。
「丈君が変わったのってさ…文月ちゃんと出会ってからだよね」
「あぁ…文月が、居てくれたからだ」
俺は足元に居る文月を抱き上げた。
「ありがとう、文月ちゃん…丈君と仲直りさせてくれて」
「きゅうん」
そこに、紅が割り込んできた。
「星名ちゃん、この後なんだけどさ………なんで泣いてるの?」
「あ…ううん、何でも無いよ。何?」
「うん、この後さ、猫子ちゃん誘って、皆でお買い物とか行かない?」
「うん、いいね。丈君も行こうよ!」
「あれ?言わなかったか?猫子は今日は用事があるって…」
その時、紅と星名が同時にビクッと身体を震わせた。
「ど…どうしたんだ?」
「ねぇ…巳茶ちゃん…この時期に猫子ちゃんが用事って…」
「うん…きっとそうだよ…またあの…『真夏の白い悪魔』…」
「な…なんだ…それ?」
鈴鳴家、空き部屋にて。
「うん。泊まる部屋の準備は出来てるよ。…夏休みは毎年恒例だからね。従姉妹同士でも全く気使わないよね…そこがいいところなのは、私も知ってるけど…うん、それじゃ、8月にね」