13話 俺と猫子と子猫連想
猫子が子猫で子猫が猫子で子猫猫子猫猫猫子子猫猫子…。
読みづらいかもしれません。
俺…川野丈は非常に困っています…。
両手で眼鏡の両端を押さえ涙目になる猫子。
固まる俺。
そして…ドアを開けたまま固まる男の子。
どうしてこうなったのか…事は数分前に遡る。
「文月はキツネだぞ」
「…………え?」
どうやら猫子は文月を女の人だと思っていたらしい。
そして勘違いしたまま嫉妬して押し倒したらしい。
猫子は今、俺に覆いかぶさるように体を押さえつけながら、目を白黒させていた。
「え……キ…ツネ?」
「あぁ、キツネ」
「えっ?」
「哺乳類のキツネ」
(え……どういう事?…つまり私の……勘違い…?)
「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!????」
「うぉ!?」
「私!!にゃんて事をぉぉぉぉ!?」
「わぁぁぁぁぁ!!そのままうずくまるな!!」
「わわわわわ!私の!かかかか勘違い!!!???」
「だからうずくまるな!!色々当たってるぞ!!!」
「んにゃぁぁぁぁぁおぉぉぉぉぉ………!!!」
「……」
「ね…猫子、とりあえず顔上げろよ…」
「無理よぉ!!恥かしくて無理よ!」
猫子は床に座り込み、両手で眼鏡の両端を押さえつけ、涙目になりながら顔を真っ赤にしていた。
確かに…今の今まで人だと思って、色んな事して…それなのにそれが勘違いで、しかもその勘違いがキツネと…。
(そりゃぁ恥かしいよな)
「まぁ、とにかく落ち着けよ…な?」
「無理無理無理無理無理ぃ~!」
ブンブンと顔を思いっきり横に振って猫子は否定した。
(まいったな~…どうにか落ち着かせないと…。そうだ!)
俺は猫子の頭に手を伸ばした。
この前みたいにまた撫でれば落ち着くかもしれない。
どっちにしろ、このままではらちが開かない。
「ウ二ャァ!やめて~!」
「なんだ!どうした!?」
「これ以上恥かしくさせないでぇ!!」
「お…落ち着け!」
「触んにゃいで~~!」
イラッ!
「え~いまどろっこしい!抵抗するな!」
「にゃぁぁぁ!やめてにゃぁぁ!」
「やかましい!大人しくしろ!」
(大人しく撫でられろ!)
「にゃぁぁぁぁぁん!!」
俺は無理やりに猫子の頭を掴もうとした。
猫子はそれに抵抗し、手を思いっきり伸ばしている。耳まで真っ赤になっている。
「ぐぬぬ…」
「うにゃぁぁ…」
「なるほど…大体解かった」
「え?」
「にゃぁ…?」
そこに、1人の男の子が部屋に入ってきた。
身長が少し小さいが中学生ぐらいだろうか?。
少年は俺と猫子の状況を冷たい目で見ていた。
無理やり猫子の頭を掴もうとする俺。
腕を伸ばし、それに抵抗する猫子。
(あ、俺絶対勘違いされてるな)
必死になっていた熱が一気に冷め、俺は猫子から離れた。
その少年はこっちに歩いてきて猫子と俺の間に入って、遮るように立った。
「姉ちゃんに手を出すな!この変態野郎!!」
「あァ?」
「姉ちゃんには心に決めたイケメンの相手がいるんだ、お前みたいなブサイクなんかが姉ちゃんに近づくな!」
「何だよ…お前」
俺はいつもの…刺し貫くように鋭い視線でその少年を見た。
どうやらこの小生意気な少年は猫子の弟らしい。
少年は俺の視線に恐怖を感じ一歩下がったが、すぐに戻った。
でも…猫子の決めた相手って…一体誰だ?。
「…ううん…違うの学…」
「姉ちゃん?」
そこに、嗚咽しながら猫子が声を出した。
「この人が…ヒック……私の好きな…えっぐ…人の…丈君……だよ」
「嘘…?」
「ホント…えっぐ…」
「み…認めないぞ!姉ちゃんの彼氏がこんなヒョロヒョロなヤツだなんて!男ってのはもっと筋肉が…!!」
「にゃんでよ!丈君カッコいいもん!」
「俺は認めないぞぉ~!」
「あ~…俺はどうすればいいかな」
「と…とにかく!僕はそんなヒョロイ男認めないからね!」
そう言って学と呼ばれていた少年は猫子の部屋から出て行った。
部屋には俺と、泣き止んだ猫子が残された。
「それで猫子、さっきのは…弟?」
「うん…弟の学。15歳…」
「えっと…もしかしてその学ってやつ…お前のこと大好きだったりする?」
『姉ちゃんに手を出すな…許さねぇぞ…!』確かそんな事を言ってたし、他にも『姉ちゃんの彼氏なんて認めない』とかそんなような事も言ってたし…やっぱりそうなのか?
「ううん…違うよ…」
「じゃぁ…なんであんなこと言ってたんだ?」
猫子は冷静になったのか、いつもの口調で話続けた。
「そ…それは少しややこしい事になってて…」
「あぁ…いい。言わないでいい。何か聞いたらヤバそうだ」
(い…言えない!学のあんな趣味なんて…!!)
「噛み砕いて説明すると…ある理由があって、それを自分で認めたくないのよ…あの子」
「それで姉であるお前に興味を持つことで誤魔化そうとしてる…ってことか?」
「(コクリ)」
なんとも…頭がクラクラしてきた…。
「はぁ…なんか、面倒くさい事になったなぁ」
「う…ゴメン」
「そういえば、ドサクサに紛れたが、ちゃんと整理させるぞ」
「にゃ?」
「俺が前から言ってる文月ってヤツは、俺が拾ったキツネで、決して人間ではない。わかったか?」
「あ…そうだった。うにゃぁ…私…何て勘違いを…」
猫子はまた顔を赤くした。
俺は猫子のネコミミの付いた頭に手を伸ばして撫でた。
「うにゃぁあぁあぁ…」
猫子は少し恥かしそうにしながらも、どこか嬉しそうだった。
「んにゃ…気持ちいい…」
「落ち着いたか?」
「うん…」
猫子は涙目になりながら、トロンと表情をやわらげた。
こういうところを見てると、文月と一緒にいるみたいだった。
人懐っこい子猫を撫でてる感じだ。
(あ…そうか。今わかった。俺が猫子を助けた本当の理由。あの不良に絡まれてた猫子を見て、俺は知らずの内に猫子を追い詰められた子猫に連想していたんだ。そして、どうしても放っておけなくなった…文月と同じように)
そうか…だから俺、猫子だけには普通に話せたんだ。猫子を子猫に連想してたから。
俺はやっと自分に納得でき「フッ」と微かに笑った。
俺が手を離そうとすると、猫子はその手を掴んだ。
「ん?何だ?」
「えっと…もっと…」
「?」
「もっと…撫でて…」
「フッ…はいはい」
俺はまた、猫子の頭を撫でた。
子猫を可愛がるように、猫子の頭を。安心できるように後ろのほうまで撫でた。
絵師の相棒が猫子ちゃんのカラー絵を描いてくれていて、完成がスッゴク楽しみだったりする青空です。