10話 俺とバイトの先輩
猫子ちゃん、ヒロインです
かなり登場遅かったですが、猫子ちゃんがヒロインです!!
俺が猫子に告白されたのが昨日の事で、今日は日曜日だ。
土曜日と日曜日はアルバイトが入っているが、昨日は用事という理由で休んだ。
さすがに今日は行かなきゃまずい…が…。
「文月をどうするか…だよな~」
アルバイトの時間は朝の9時から夜の8時まで入ってる。
さすがに一週間丸ごと家を空けると、文月の体調が心配だ。
まぁ…文月が学校に付いて来た事は、カウントしないで…。
遊んだり走ったり出来るとはいえ、文月は怪我をしているし、包帯をしていてもぶつけて傷口が開いたりしたら大変だ。
「仕方ない…」
俺は携帯電話を掴むと、1つのアドレスを開きそこに電話をした。
「あ、先輩?」
「すいません、先輩」
「いいのよ~、丈くんの頼みじゃ断れないし~」
今、俺はアルバイト先である【大鷹書店】に来ていた。
「きゅん!」
「無理言ってこいつを連れてきてしまって」
「いいって~」
そう、さっきの電話は…
『あ、先輩?』
『な~に?丈くん』
『言い辛いんですけど…頼みごとがあって』
『別にいいわよ~、丈くんの頼みなら』
『ありがとうございます。実は…バイトにキツネを連れて行きたくて…』
『キツネ?』
『詳しいことは後で話ますから、お願いします』
『うん、別に大丈夫だと思うよ。大人しくしてれば迷惑にならないと思うし~』
『ありがとうございます』
と、いう内容だった。
「それで、丈くんは何でキツネちゃんを連れてきたかったの?」
「それは…話せば少し長いんですが…簡潔に言えば、怪我してたキツネを世話していて、家をコイツだけにすると傷口開いちゃいそうで心配だから連れてきたかったんです」
…アレ?コレじゃ、簡潔じゃなくて、完結な説明か?
「なるほどね~、それならいつでも連れてきていいよ~」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
さすが先輩だ、心が綺麗というか、清らかというか。この人のそばに居ると、何だかとっても落ち着く。
それに…心が純粋で、つい心を許してしまう。
「じゃぁ…本はわたしが出すから、丈くんはレジをお願いね~」
「わかりました、先輩」
「むぅ~、いい加減名前で呼んでよ~」
「わかりました、店長代理」
「わかってな~~~い」
先輩はそう言うと、ちょっと頬を膨らませながら本を出し始めた。
それを見て俺もカウンターに着いた。
どうせこの店は入ってくる人が少ない。主な収入源は学校や施設に送る教材や絵本などがほとんどだ。
(お客さんが少ないお陰で、人が嫌いな俺でもバイト出来るんだから、ここは良い)
「さぁ文月、ここで大人しくしてろよ」
「きゅう」
俺は抱いていた文月をレジの横に下ろした。
前足の傷は塞がってきている。歩きを見る限り痛みは無いようだった。
短い時間なら散歩に行けると、医者は言ってたから夜に散歩は行っている。この分だと、散歩の時間を少し延ばしても大丈夫かもしれない。
(散歩でストレスを発散させれば、家でも大人しくしてるだろ)
丈はイスに座りながら文月の頭を撫でた。
~3時間後~
「ありがとうございました」
今日もやっぱりお客さんはあまり入ってこない。
開店から3時間、とてものんびりと時間が経ったが、入ってきたお客さんは数えるほどしかいなかった。
しかも入ってくるのは良く来るお爺ちゃんお婆ちゃんばかりだ。
そしてそのまま昼休憩の時間になり休憩室で昼ご飯を食べていると、一緒にご飯を食べている先輩が俺に話しかけてきた。
「ねぇ、その子の名前、何ていうの?」
「文月…7月の『ふみづき』から取って文月です」
「ふ~ん、男の子?女の子?」
「女の子です」
「そうか~」
俺はコンビニで買ったおにぎりと唐揚げを食べながら、先輩は自分で作ったお弁当を食べながら話しをした。文月はテーブルの上で大人しく食後のお昼寝をしていた。
ってか、ご飯食べるの俺達よりも早いな。
そこに先輩が手を伸ばし、文月の頭を撫でた。
「毛がフワフワしてる~」
いきなり撫でられ文月は起きたが、嫌がったりしなかった。
そして先輩は文月の頭を撫でながら、文月に話しかけた。
「よろしく、文月ちゃん。わたし光、よろしくね」
「きゅぅん(光、よろしくね)」
どうやら文月は先輩に懐いたみたいだな。良かった良かった。
俺が先輩と文月を見ていると、先輩が俺の方を向いて、そしてまた文月に視線を戻して、少し考えるように顎に指を当てるとこう言った。
「女の子って事は、丈くんの妹だね」
「へぁ!?」
あ、声裏返った。
「何か、丈くんと文月ちゃんの2人が兄妹みたいに見えただけだよ~」
「妹……兄妹か…」
俺はチラッと文月を見てから答えた。
「そうですね。確かに家族みたいに思っています。文月は大切な妹…大切な俺の家族です」
「いいね~、兄妹の愛」
それから俺と先輩はしばらく話していた。
ちなみに昼の今、店の方には先輩の両親がいる。
昼からは先輩の両親も店に入ることになっているが、だからといって何か変わったりもしない。
やっぱりのんびりとした時間が流れるだけだ。
(でも俺、のんびりした時間大好きなんだよな~)
のんびりと、ただただ時間が流れるのを楽しむ。
まるでお爺さんみたいだけど、全くイヤじゃない。
平日の学校で疲れた体と精神を癒す時間…と俺は思っている。
1週間の中でのちょっとした楽しみでもある。
「さて先輩、そろそろ店に戻りましょうか」
「そうね~」
「キュン!」
俺は文月を抱き上げて店に戻り、またレジに着いた。
そして文月を下ろし、イスに座ると、文月が俺の膝の上に降りてきた。
「どうした?文月」
すると文月は起用に俺の体を上り、頭の上で丸まった。
「落ちても知らないぞ~」
「きゅぅぅん」
そして、そのまま文月は静かな寝息を立て始めた。
(ヤレヤレ、世話の焼ける妹だな)
それから数時間、数えるくらいしか人が来ない店内で、俺は小説を読んでいた。
内容はある王国の城で生まれた双子の兄妹の話だ。
大人たちの勝手な都合で妹は王女になり、そして兄は召使いとなってしまった、悲しい双子の話だ。
ページを捲っていると、カリカリ、と何かを描く音が聞こえてきた。
周りを見ると、店のど真ん中で先輩がイスに座り絵を描いていた。
「先輩?何をしてるんですか?」
「動かないで、今丈くんをデッサンしてるの」
「はぁ…またですか」
「動かないでね」
「ハイハイ」
先輩は時々俺を被写体にして絵を描く。
だけど俺はその絵が大好きだから別に構わなかった。先輩の絵を見るのも、このバイトの楽しみだ。
でもさすがにお客さんが来たら動くなというのは無理がある。けど、先輩はたとえお客さんが来てもその場を離れようとしない。
(よっぽど集中してるんだろうな~)
そして俺は先輩に言われたとおりに動かないでジッっとしていた。お客さんが来るまで。
その後絵が描き終わったのは閉店時間の8時だった。
動けない事より、トイレに行けない事が1番辛かった。
続く
ちょっとこの先行き詰りそうで少し怖いです。