午後の光の中で(後編)
商店街を抜けて、細い路地に入る。
コンクリートの壁に、午後の光が斜めに落ちている。洗濯物が風に揺れ、白いシャツが空を切る。見上げると、青が思ったより深い。
私は写真を撮るでもなく、ただ眺める。
こういう瞬間を、誰かに共有しなくてもいいと思えるのは、強がりだろうか。それとも、本当に満ちているからだろうか。
ふと、ショーウィンドウに映る自分と目が合う。
少し疲れた顔。
でも、悪くない。
通り過ぎる人たちは、皆それぞれの目的地へ向かっている。待ち合わせの人。家族連れ。恋人同士。買い物袋を提げた主婦。誰もが誰かとつながっているように見える。
私は、どこへ向かっているのだろう。
特に、決めていない。
それでも足は止まらない。歩いていれば、何かに出会う気がするから。
古本屋の前で立ち止まる。店先に積まれた文庫本を一冊手に取る。少し黄ばんだページの匂い。誰かが読んだ時間が、そこに残っている。
私はその本を買う。
帰り道、袋をぶら下げながら思う。
誰かと一緒にいる時間も、きっとあたたかい。
でも、ひとりで歩くこの午後も、悪くない。
孤独なのかもしれない。
けれど、空虚ではない。
街の音は、私を拒まない。
風も、光も、匂いも、平等に私に触れる。
公園の出口で、振り返る。木々の間に差し込む光が、さっきより少し傾いている。
時間は、ちゃんと流れている。
誰かと共有しなくても、この時間は私のものだ。
部屋に戻ったら、さっきの本を読むだろう。湯を沸かして、マグカップを両手で包むだろう。そして今日の風のことを、思い出すかもしれない。
孤独かどうかは、まだわからない。
でも、街を歩いて、風を感じて、パンを食べて、本を買って。
それだけで、今日は十分だった。
夕暮れが近づく。
私はゆっくりと、帰る方向へ歩き出す。
ひとりで。
けれど、どこか満ちたままで。




