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神々の記憶の中で、ただ君の平和を願う 〜戦乱の世で神の【記憶】を宿した少年と、天涯孤独の少女が世界の真実と闇に挑む物語〜  作者: 蒼宙 つむぎ


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4、バルドへイム王国(17)

スタンピードのお話、最後です


17.束の間の幸せとスタンピード(4)


 始まったスタンピードは雪崩のように勢い強く広がっていき、王都を襲い始めた。


「ゴードン!グランツは!」

 ゴンザレスがゴードンに叫ぶ。

「いません!エルサといなくなりました!」

「!!第一、第二で迎え撃つぞ!行け!」

「はっ!」

「間に合わなかったのか……」

 ゴンザレスの声は怒号にかき消された。


「エルサ!戻ってくるんだ!」

 グランツは黒く姿を変えたエルサに何度も呼びかける。

 だが、全く反応がない。

「きゃははは!やっぱりその女、おかしかったのよ!こいつがいるからいけなかったのよ!」

 あの忌まわしい女が気が狂ったかのように叫び指さす。

(こいつが引き金を引いたのか)

 グランツの心は憎しみしかない。

(こいつだけは許さない)

 憎しみで目が赤く充血したグランツは、そっとエルサを横たえ、女に向かって歩き出す。

「グランツ様もわかったでしょう!あの女が全て悪いんです!」

「うるさい。黙れ」

(悪意に満ちた人間など、いらん)

 グランツの吐く息が、歩みを進める足元が、冷たく凍りつく。

「ひいっ!」

 ゆっくり、ゆっくり、こちらに向かって歩いてくる男の顔に恐怖で後ずさる女。

「私は悪くない!みんなが言ってることを教えてあげただけよ!」

 確かに、女は人のうわさを口にしただけだが、それで何もしていないというのは虫がよすぎる。そこに悪意があったのだから。

「逃げられると思うなよ、女」

 背に何かがぶつかり後がない。死が迫りくる恐怖に体が壊れ始めた。鼻水も涎も涙も全て垂れ流し、失禁までしている。生き残っても廃人となるだろう。

 

 グランツはその姿に戦意を失い、エルサの元に戻り始めたが、目の前で魔物がエルサを襲おうとしている。

(クソ!間に合わない!)

 手を伸ばし走る。

(ダメだ!なぜ、エルサを一人にしてしまったんだ!)

 自分の愚かさが恨めしい。

 グランツの目の前で、魔物がエルサの腹を爪で射抜いていた。

「エルサ!!!」

 グランツは瞬時に両手に力を込め、光の玉を作り魔物に投げ放つ。

 魔物は消滅させた。

 だが、貫かれた傷は消えない。

 駆け寄りエルサを抱き上げ、泣き叫ぶ。

「エルサ!ごめん!また、守れなかった」

 何度後悔し、何度やり直せばいいのだろうか。

 何度も、何度も。

 守ると誓ったのに。


 大切な人たちのことを考えたら胸は痛むが、

 もう、絶望で世界がどうなろうといいと思った。


 さわっ


 かすかに自分の頬に誰かの手が触れた。

 びっくりして目を見開くと、元の姿に戻ったエルサが手を伸ばしていた。

「ごめん、ね。グランツ。ん……えと……ルクス?って呼んだ方がいい?かな」

「!!」

「ふふふ。びっくりしてる」

「ああ、名前はどっちでもいい。エルサが俺を呼んでくれるなら」

「ふふふ。じゃあ、ルクスって呼ぶ。だって、今のあなたの姿、ルクスが大人になったみたいに見えるわ」

 よく見ると、グランツの面影もあるが、ルクスの方がしっくりくる。

「いいよ、エルサ。記憶、あるんだ」

「そうね、全部、知ってるわ」

「そうか。ごめん。またこんなことになって」

「仕方ないなあ。でも、“これ”は終わらせて。私、悲しいわ。自分が厄災だったなんて……」

「うん。わかった」

「私、あとどれくらいもつかな?……ルクスとお話が、したいな」

「あと少しかな。スタンピードはすぐに終わらせるから。親父と交渉するよ」

「お父さん?」

「あ……神?ってやつ」

「あ~そうね」

 グランツ……ルクスは指先から小さな光を出し、やさしく息を吹き込む。

 光がふわっと広がったと思ったら一気に光がはじけまぶしくきらめく。

 光の粒が霧雨のように降りかかり……そこかしこにいたはずの魔物は一匹残らず消えていた。


「エルサ、終わった。森へ帰ろう」

「ふふ。ルクス、光り輝いてるわ。王子様というより、神?」

「ああ、そうだな」

 柔らかく微笑み、エルサを抱きかかえ、


 大きく一歩を踏み込むと――

 精霊の森に立っていた。

「わあ、あっという間ね」

「うん。今の俺に時間というのは意味をなさない」

「すごいね、神様って」

「ああ」

「これから、どうなるのかな?」

「うん。人間に“加護”はなくなる。魔力は……ほとんどなくなっていたからこのままかな。そのうち消える」

「そう。私はなぜ“加護”がなかったの?」

「……ごめん。前のエルサの時、俺の“神の逆鱗”の矢を受けて、“咎人”になってしまったんだ」

「ああ……そういうことね。だから子供もできなかったのね」

「すまない」

「もう、終わったことよ。もういいわ」

「うん」

「私は、死ぬのね」

「そうなる、な」

「そか。もう、生まれ変われないのね」

「人間に生まれ変わることは、ない。さっき、輪廻が焼き切れた」

「そっかあ。ちょっと寂しいけど、これが運命だったのね」

「怒らないのか」

「終わったことよ。ただ、寂しいだけ」

「うん」

「痛みはないけど、なんだろ、眠いわ……」

「痛みは俺が受け取る。エルサ、もう寝てもいいよ」

「痛み、ありがと。ん~寝ちゃったら、もうルクスに会えなくなる。私は、それが怖いの」

「大丈夫だ。ずっと傍にいる。だから……おやすみ」

「ん……。ありがと。ルクス、愛してるわ……」


 穏やかな顔で、瞳がゆっくり閉じていき、

 眠っているように見える。


「おやすみ、エルサ。愛してる。永遠に離れないよ」


 ルクスは世界樹の根元にエルサを抱えながら座り、目を閉じた。


あと2話で完結します。

本日最後まで投稿します。

最後まで、見届けてください。

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