4、バルドへイム王国(15)
15.束の間の幸せとスタンピード(2)
祝宴会場へ向かい二人であいさつ回りをしていると声がかけられた。
「盛大な祝宴ですわね」
いつかの令嬢だった。
一気に体がこわばる。
グランツがエルサの前に立ち、言葉を放つ。
「ええ。二人の門出ですから」
一言一句、強調するかのように。
苛立ちから一瞬顔をひきつらせたが、すぐに淑女然とした仮面をかぶる令嬢は、悪意の言霊を吐き出す。
「“加護”持ちは幸せになると言いますものね」
あざけ笑うかのような顔をエルサに向ける。
周りはざわつき始める。
瞬時に状況を把握した令嬢は「では、ごきげんよう」とだけ言ってさっさと去ってしまった。
エルサは……顔色を無くし立ち尽くすだけだった。
その後はグランツが気遣ってくれ、無事に参加者を送り出した。
寝室へ向かった二人。エルサは緊張で喉が渇いて仕方ない。
「エルサ、少し話をしないか」
「?はい」
いつになく真剣な顔をするグランツに向き合う。
「エルサ、今から、その、初夜を迎えるが……もし子宝に恵まれなくても、二人でずっと支えあっていこう」
「……?はい……」
突然の話題に戸惑いながらも、彼の声があまりに優しくて、深く考えずにうなずいてしまった。急に子宝の話になり、意図を汲めていないが、やさしいグランツが無理をさせないという気遣いをしてくれたのだと納得することにする。
そして、ずっとグランツについていこうと心に決め、二人は契りを交わした。
挙式から1年。それなりに穏やかな日々を過ごしたが、エルサはまだ子宝に恵まれていない。半年前から屋敷内でも噂するメイドが出てきた。
「エルサ様、また月のものが来ちゃったわね……」
「そうね……病弱、でもないようなんだけど……」
「そうなのよ。他家では三月もしたら授かる方が多いみたいなんだけどね……」
「早く、いつもの笑顔に戻ってほしいな…」
メイドたちは噂よりもエルサが心配だった。
こうなると、人の口に戸は立てられないもので、屋敷外でも噂が流れる。
「グランツ様もお子が欲しいだろうに」
「そうだよな。跡継ぎがいないとな」
「……そういえば、エルサ様……“加護”がないって聞いたことがあるけど……」
「普通は“加護”があるもんなんだろ?おかしくないか?」
とうとう“加護”のことが話につくようになってしまった。
エルサは気にしないように心がけていたが、ふとした時に思い出す言葉があった。
『“加護”持ちは幸せになると言いますものね』
自分には“加護”がない。もしかすると、幸せになってはいけないのかもしれない。
胸にもやがかかる。
最初は少しだったものが、どんどんと広がり、そして闇に飲み込まれていく。
(どうして私には“加護”がないの?本当は、お母さまの子供ではないのかもしれない。父と姉がやさしいのは、本当は血が繋がっていないから?)
心の闇はエルサを間違った方向へ導いていく。
元気がなくなり、外出することも少なくなったエルサにゴンザレスが訪ねてきた。
「エルサちゃん、最近見かけないけどどうしたんじゃ?どこか具合でも悪いのか?」
心から心配している声だがエルサはうつろな目でどこか疑っているかのような目で見てくる。
「……いいえ。……気分がすぐれないだけです……」
声に張りもなく小さい。
(おかしい。あんなに良く笑っていた子が……)
異変を感じ、急ぎ“未来視”をしようと手を握った時。
バチッ
手に小さな電撃を受けた。
そして、エルサの倒れている姿が見えた。
(これは……まずいな……)
ゴンサレスは小さく息を吐き、二度目の決意を固めた。




