4、バルドへイム王国(13)
13.赤い糸はつながっていますか?(4)
令嬢を放置し、“かふぇ”についた一行は個室に案内される。
「グランツ様、なにサラッとお嬢様を呼び捨てにしてらっしゃるのですか」
「すまない!ついいつもの癖で……」
「はあ……いつもの癖……ですか」
「ああ……すまない、エルサ嬢。勝手に敬称もつけず名前を呼んで」
「いいえ。かまいません。……距離が近くなった気がして、うれしいです」
頬が赤く染まりながら素直な気持ちを伝える。
(グランツ様の特別になったような気分になってうれしいもの)
「エルサ嬢……。それでは、その……これからは、エルサ……と呼んでも?」
「はぃ」
あたたかい笑顔が、ふんわりとほころんだ。
その後、しっかりと“ぷりんあらもーど”を満喫したエルサは、夕食が食べられずソフィアにお小言を言われて少しだけ反省した。
次回の花祭りの時はグランツと“半分こ”しようと心に決める。
エルサはにやけるのが止まらなかった。
翌日、ゴン爺と書類の山を運んでいると、あちらこちらから視線を送られている感覚があった。
(きっと、昨日の花祭りのことね……。噂されてるってことは……“加護”のことはみんなに……知れ渡った……のね……)
いずれはばれるだろうと思っていたが、その時が来るとやはりつらいものだ。
「エルサちゃん、気にせんことだ。“加護”があってもなくても、その人であることに変わらん。わしも持っとるが、捨ててしまいたくなる時もあるぞ」
「ゴン爺様、持ってらしたのですね……。知りませんでした」
「わしは隣国から来たからの。秘密にしたんじゃ」
「隣国から?それも初めて聞きました。この国には……なぜ?」
「エルサちゃんに会うためじゃよ~」
「うふふ。おかしなゴン爺様。私に会いに来てくれたんですね~」
「そうじゃ。かわいい孫じゃからな。いつも笑ってくれんかの」
「あ……。ありがとう、ゴン爺様」
笑顔が戻ってゴンザレスの顔も柔らかくなる。
「ゴン爺様は、その……何の、“加護”が?」
遠慮気味に聞いてみたエルサ。
ためらう気持ちよりも好奇心が勝ってしまった。
「そうじゃな……。エルサちゃんにだけ。秘密じゃぞ」
「はい。誰にも言いません」
エルサの言葉にうなずく。
「わしはな、“未来視”を持っておる。ただ、万全じゃないがの」
「“未来視”?というと、これからのことが、わかるの?」
「うむ。全部はわからん。断片だけだ」
「すごい……。いいな……。私の未来……ってどうなるか……わかる?」
「……聞いて、どうする?」
「そうね……。私、好きな人がいるの……。その人と、その……赤い糸が、つながっていたら……なんて、思ったりして……」
エルサのかわいい答えに手を差し伸べたくなってしまったゴンザレス。
「よかろう、少し手を貸してくれんかの?」
「手?これでいい?」
右の手のひらを差し出すと、ゴンザレスは自分の手で挟み、ちょっと強めな魔力を流す。ほんの一瞬だけ。そしてすぐに消えた。
「そうさな……。赤い糸、じゃな?」
「はい。その、グランツ様と、つながっていますか?」
「ははは!グランツか!それはいい!赤い糸、グランツにつながっておるぞ!」
「!!本当に?」
一気にうれしい感情があふれ出し、エルサは満開の笑顔を見せた。
「うれしいわ!グランツ様と繋がっているのね」
飛び上がりはしゃぐエルサを見る目は、好々爺そのものだ。
(グランツ、よかったの。報われる日が来そうだぞ)
ゴンザレスには二人が結婚式で笑いあっている光景が見えていたのだ。
――その後のことを彼は見えていなかったが……。
“カチッ、カチッ”
運命の歯車は加速をはじめる。




