4、バルドへイム王国(12)
エルサが闇を抱えるようになります。
書いている本人も胸が苦しい。
12.赤い糸はつながっていますか?(3)
本日は花祭り。いつもより早く目が覚めてしまったエルサです。
本当に楽しみで、昨晩なかなか寝付けなかったらセレナがカモミールティーを入れてくれてすぐに眠ることができました。
“ぐっじょぶ”セレナ!
「お嬢様、今日のお召し物、いかがいたしましょう?花祭りですので、街娘風にいたしましょうか」
「そうね、動きやすい服がいいわね。ドレスではたくさん食べれないもの」
「さようですね。コルセット無しでご用意します」
(……ドレスでは目立つ……という考えがないのが、お嬢様ですね)
「お嬢様、本日は少しお化粧をいたしましょう。最近街で流行っているお化粧の技術を会得しましたので」
「わあ!本当?大人っぽくしてね!」
「……大人っぽく、ですか?そうですね……目元に少し墨を入れて強調しましょうか。軽くだけですよ」
「うん!グランツ様に少しは綺麗だと……思われたいの……」
「かしこまりました。このセレナ、お嬢様の魅力を最大限引き出して見せます」
「だめよ、セレナ。あまり目立つようなお化粧はしてはいけないわ。エルサの可愛さが消えてしまいます」
「かしこまりました、ソフィア様」
「お姉さま、少しは……いいでしょ?その……綺麗だと思われたいの……」
グランツに群がるご令嬢たちの顔が浮かび、焦る気持ちが膨らんでいく。
「エルサ、人の好みはそれぞれです。綺麗だと言われる人がのことが好き殿方もいますが、違う方もいるのです。まずは相手の好みを知ることが大事なのでは?それにね、相手に合わせすぎもいけないわ。なんでも言うこと聞く女だと思われて、扱いが雑になりますからね」
ソフィアは身勝手な男に泣かされる令嬢たちを社交界でたくさん見てきた。まだまだ貴族を笠に着るバカな令息がいるので、“婚約破棄”がそこかしこで勃発している。
「ツツミ様も嘆いておられたわ。婚約者不在のご令嬢が群がってくると」
ソフィアの持つ扇子が“ミシッ”っとしなっている。
(ソフィアお姉さま……もしかして、ツツミ様のことがお好きなのかしら)
エルサは、人の恋愛はきちんと理解できるらしい。
「ソフィア様もそろそろご用意した方がよいのでは?ツツミ様がお迎えに来られますよ」
「……そうね。お待たせしてはいけませんものね。エルサ、今日は街に出るのですから目立たないように」
湾曲した扇子をメイドに渡して退室したソフィアを見送り、セレナはため息をつく。
(お二人とも、それぞれに魅力的な方なのに、自分に自信がないなんて……もったいない)
やれやれという顔で仕事をこなすセレナであった。
「エルサ嬢。本日もとてもかわいいな。似合っている」
噴水の前で待ち合わせしていた二人。グランツが花束を差し出してくれた。
「あ、ありがとう、ごじゃいまふ」
真っ赤になって噛んでいる様子を周りが温かい目で見守っている。
本人は噛んでいることすら気が付かない。
「お嬢様、花束はこちらで預かっておきます。グランツ様、これから遊びに行くとわかっていてここで花束は……少しはお考えになっていただきたいものです。邪魔になります」
“邪魔”を強調してなかなかな物言いをするセレナ。腕を組んで仁王立ちは怖い。
「すまなかった。そうだな、次回は家まで迎えに行くから今日は許してくれ」
「そうなさってください。こちらも対応しやすくなります」
「セレナ、もうそれくらいで……。すみません、グランツ様……」
「いや、セレナ嬢の言うとおりだ。気にしていない。次回は迎えに行くので安心してくれ」
「っ!!!次回もあるのですか?」
「勿論だ。これからたくさん……その……一緒に過ごせたらと……」
(あらあら、ちょっと先走っておられますが、上出来です。きちんとお嬢様を導いてもらえたらそれでいいです)
上から目線のセレナは一応の合格を出すことにしたらしい。
「グランツ様、花祭りって楽しいですね!いろんなお店が出ていて目が回りそうです」
はじめて城下街に来たエルサは見るものすべてが新鮮で見回しすぎてふらついている。
「エルサ嬢、少し休もう。この先に最近人気の“かふぇ”があるんだ。“ぷりんあらもーど”が食べれるらしい」
「“ぷりんあらもーど”ですか!王女様がおいしいって言ってました!」
これも政務局の文官女性が考案したものだ。“かふぇ”も気軽にお茶できるとあって、貴族平民関係なく利用されて人気だ。
「あら!グランツ様ではありませんか!奇遇ですわね。これは運命なのでは?」
急に後ろから声をかけられて振り返る二人。
先日、訓練場にいたご令嬢が立っていた。
「……運命か……。俺はあなたの名前も知らない。知りたいとも思っていないので名乗らないでもらえるかな。いろいろとややこしくなる」
グランツは冷たい視線を向けて令嬢に言葉を投げかける。
「な!なんですって!失礼な!私は……」
「言うなといっているんだ。目ざわりだ。消えてくれ」
「なんなの!そんな誰の子かわからないような女を連れているあなたも大したことありませんわね!」
「っ!!!」
エルサは自分に指さされて言われたことに胸が苦しくなる。
(いわれてることは……わかるわ。でも、ここで言うことではないはず)
胸にまた黒いモヤがかかる。苦しい……。
「お前……、何を言っている。誰の子かわからない……だと?」
地を這うような低い低い怒気を含む声が辺りを凍り付かせる。
「そ、そうでしょ!“加護”もない“渡り人”の子供なんていませんもの!」
言ってはいけないとわかっていても、プライドを傷つけられた令嬢はもう止まれない。
「みんな言っておりますわ!その子は“カッコウの子”だと!」
「ほう……。托卵された子だと言いたいのか……。馬鹿な女だ。騎士団を敵に回したこと、覚えておくんだな。エルサ、行こう。“かふぇ”は予約してある」
「はい……」
令嬢に言われたことが耳から離れない。噂されてることは知っていたが、面と向かって言われたのは初めてだった。ショックが強すぎた。
「お嬢様、とりあえず“かふぇ”に向かいましょう。ここは目立ちます」
「ええ……。そうね……」
足元がおぼつかない、地面がぐにゃりと歪んでいるような気分になる。怖い。
「エルサ、大丈夫だ。俺が守るから」
耳元でグランツがささやく。
「グランツ様……。グランツ……様?えと……えと……」
グランツの声なのに違う誰か……懐かしい人のような気がする声。
(だれ…だったかしら?えと……夢?で見た人?)
困惑するエルサ。自分が呼び捨てにされていることに気が付かない。
“カチリ”
運命の歯車は止まらない。
明日から12/24までは1話ずつ投稿。
12/25は2話投稿して完結する予定です。




