4、バルドへイム王国(9)
本日、2話投稿予定しています。
エルサとグランツの甘々をどうぞ。
9.これがあの“壁ドン”ですか?
グランツの筋肉を脳内に焼きつけた日から仕事が手につかなくなったエルサ。とうとう食べる手にも影響が出てしまう。
「お嬢様!しっかりしてください!どうすれば胸のあたりを“ぷりん”まみれにできるんですか!」
政務局の文官女性が作ったお菓子が美味だと王女様が大絶賛。最近王都のパティスリーで売り出され、瞬く間に人気のお菓子となったのが“ぷりん”だ。勿論、エルサの大好物なのだが……。どうやら前掛けが必要なようだ。
「おかしいなあ……。ちゃんと食べれないわ……。頭も“ぼー”っとしちゃうし、風邪かしら?」
“ぷりん”が食べられず、涙が目いっぱいたまっている。
「お嬢様、無自覚ですか……。グランツ様に同情しますね」
(まあ、グランツ様もなかなかデートに誘えず、ただのヘタレですけど)
「グ、グランツ様?」
名前を聞いただけで顔が熱くなる。
「あー。いえいえ。お嬢様はこのままでいいです。そのうちなんとかなるでしょう」
セレナはそっと見守ると決めたようだ。
「さあ、着替えて仕事に行きましょう。今日のランチは“おでん”だそうですよ。王女様も食べに来られそうです」
冬になるとツツミ伯家お抱えの料理人が週に一度騎士団で“おでん”と“肉じゃが”を作ってくれる。今から食堂が人であふれる未来が目に浮かぶ。
「そうなのね!今日は“ゆずこしょう”を攻略して見せるわ!」
先日“からし”をおいしいと感じることができ、レベルアップしたのだ。この勢いに乗って“ゆずこしょう”の階級を攻略したいと思っている。
「お嬢様のお子ちゃま口では難しいでしょう。無理はいけません」
「むむむ!セレナは私を子ども扱いするんだから」
「大丈夫です。少しずつ大人になればよろしいのですよ」
「ん~。でも、ソフィアお嬢様とセレナみたいに大人の女性らしくなりたいの」
「……」
(“ゆずこしょう”で大人の女性になるとは限りませんよ。その考えが“お子ちゃま”なのですが……かわいいのでこのままで)
セレナとソフィアはセレナの世話をしてきたので、今では母のような眼差しを向けている。
「さあ、本当に急ぎましょう。遅刻します」
始業時間に遅れそうになり近道をするために植え垣を飛び越えた二人。
雑務長に見つかり、しっかりと説教を受けていた。
説教を受けた後、書類を届けに近衛隊向かうエルサ。“正座”をしていたので足がしびれてふらふらだ。
「エルサ嬢、大丈夫か?」
「グ、グランツ様!」
心配してグランツが駆け寄ってきた。
「だ、だ、だだ、大丈夫れす!」
(噛んじゃった!はずかしい)
「大丈夫ではなさそうだぞ。ふらついてるし、言葉が……」
そういっている間にもエルサがつまずいてしまった。
「あ……」
とっさにグランツがエルサを庇おうと壁に手をついた。
ドンッ!!
すごい音を立てて、壁に手がめり込む。
「「……」」
木枯らしが吹き、枯れ葉の“カサカサ”という音だけが聞こえる。
カサ、カサカサ……
(どうしましょう……。目の前にグランツ様の腕が!!ああ……この筋肉……噛んでみたい!!)
エルサは変態度がレベルアップ――してしまった。
「すまない、エルサ嬢。怖がらせるつもりはなくてだな……その、倒れそうだったからつい……」
(抱きかかえて助けるという高等技術を思いつくはずもなく、壁に手をついた。そしてこの有様……。情けない……。“ガバッ!といってしまえばいいものを)
後ろから冷ややかに蔑むセレナ。
「あ、あい……ん“!ありがとうごじゃいまふ」
(((かみかみ~)))
そっとグランツから手を差し伸べられ、手を重ねる。そして、ゆっくりと、ゆっくりと顔を上げると、甘くとろけるような顔の微笑みが目の前にあった。
きゅん……
(ああ……。私……胸が苦しいわ)
思わず胸のあたりをギュッと握りしめた。
甘い甘い空気に思わず顔をそらした時、ふっと懐かしい香りがした……。
シダーウッドのような、甘くて、切なくて……なつかしい。
(私はどこでこの香りを嗅いだのだろう……)
王城の一角に住んでいるので人との接触はごくわずかだ。
(どうして、切なくなるの?)
戸惑いながらも、もう一度グランツに向き合うと、視線がからみつく。
目に見えない運命の歯車が、今動き始めた。
※エルサは“ゆずこしょう”を攻略できず、悔しがりました。
2話目はいつも通り20:00を予定してます。
少しずつ核心に近づいていきます。




