4、バルドへイム王国(5)
グランツの努力とバルドへイム王国のこれからの話です
5.君の涙を見ると胸が苦しくなるんだ グランツside(2)
葬儀の後の俺は鍛錬に打ち込む毎日を送った。
毎日毎日、雨の日も雪の日も。
さすがに嵐の日に外で鍛錬を積んでいると父上に叱られたが、それでも続けているとゴードンさんを呼んできて殴られ、気絶したところをベッドに縛り付けられたことは、今となってはいい思い出だ。
父上からは体を鍛えるだけでは誰も守れないと兄上と一緒に学問も学ぶことになった。
最初、ミミズが這うような文字しか書けなかったが、次第に算術や歴史、魔術学をマスターしていき、兄上が拗ねてぐれてしまった。どうやらやりすぎてしまったようだ。何事もほどほど、力加減が大事だと学んだ日だった。
父上とはこの時、今後のことを相談した。
家督は継がない。兄上から奪うつもりはない。大事なものを守るため騎士団に入ると。
父上は苦い顔をしたが、俺の左腕を見せると大きく目を見開いた後、大きくため息をつき、目を伏せた。
すぐに王城に使いを送り、国王へ謁見の許可を求めた。即座に許可が下り登城するのだが、後ろで兄上が喚き散らしていたようだ。あまりにも些末なことなので相手にはしていないが。耳障りなので「邪魔」だというと泣いて逃げていった。逃げるくらいなら最初からおとなしくしていればいいものを……。
国王との謁見は完全に秘密裡に行われた。プライベートな空間に父上と俺、国王と王妃、宰相のスチュワート・ツツミ伯爵が集う。
皆、困惑顔だった。それはまあ……仕方がないことなのだろうが、子供を目の前にもう少し威厳を保ってほしいものだ。
「ドミニク、この子が……そうなのか?」
ツツミ宰相が重苦しい空気の中言葉を発する。
「いかにも。我が息子、グランツ・バルディーニです」
「まだこんなに幼く……でも、それがある……のですよね?」テレシア王妃はどういえばいいのか思案しているようだ。
「……はい。グランツ、左腕を」
こんな幼い子供が紋章を持っているなど信じられないのだろう。
仕方ないので服の袖口をたくし上げ、左腕を見せる。
「「ッ!!!」」
くっきりと紋章が入った左腕を見るなり各々が困った顔をして見つめてくる。
王家の代々語り継がれてきた伝承にある紋章。古代文字で何かが書かれている。
「ということは……魔物のスタンピードが……起こるというのか……」
アレクサンドル・バルドへイム国王が絶望の顔でつぶやく。
「伝承によると、そうなりますね……」ツツミ宰相がしきりに眼鏡をいじりながら返答する。
伝承として伝わっているのは、紋章持ちが産まれるとスタンピードが発生し、国を亡ぼす……というもの……らしい。
この伝承だと、俺が産まれたことが悪いことに聞こえるのだが……。
「スタンピードはまだ起こりませんよ。少なくともあと15年は。あと、俺が原因ではありませんからね。魔力だまりが決壊してスタンピードが起こるんですからね」
「「!!!」」
ああ……。うまく伝わっていなかったのだな……。
「はあ……。俺はスタンピードを止めるために産まれてきたんです。俺自身が厄災ではありませんから。間違わないでくださいね」
俺の言葉を聞いたみんなは安堵のため息をついた。
伝え聞く言葉はどこかで誰かの解釈で湾曲してしまう。
これもいわゆる“あるある”だ。
「お前は……俺の息子のグランツ……だよな?」
「勿論ですよ、父上。ただ、いろんな記憶があるので子供らしくなくて申し訳なく思っています」
「そうか……、よかった……。俺の息子がどこかに行ったわけではないのだな……」
ちょっと涙目になっている父上を見て愛されているのだと感じた瞬間だった。
なぜか口の端が似やついてしまったので慌てて手で隠してしまった。
(こそばゆい。でも、悪くない)
この謁見を皮切りに、バルドへイム王国は軍部を強化することを決めた。他国を侵略するのではなく、自国を守るために。
そして、魔力溜まりについて国が機関を作り研究を進めると決めた。これは、俺が進言できない領域なので申し訳ないが、みんなで学んでもらうしかない。
「グランツ、少しはヒントをくれてもいいと思うが?」
「父上、俺が力を無くして、スタンピードで国民が傷ついていいのですか?」
「……今の、聞かなかったことにしてくれ……」
全く、困った人だ。
次回もグランツsideのお話です。




