4、バルドへイム王国(3)
エルサが運命の出会いをします。
3.涙が出るのはなぜですか
「今日もお仕事楽しいなあ~。今日のお昼ご飯は何かなあ~」
騎士団に雑用係として入って1か月が経ちました。
部隊に入れなかったのは残念だけど、それも仕方ないと今は納得している。
試験問題が難しくて……名前と最初の計算問題しか解けなかったのよね。採用してもらえてよかったわ~。本当は騎士として働けたらよかったけどね。
――エルサは知らない。裏でソフィアが糸を引いていたことを……。
きちんと自分の学力が伴っていないことを理解しているエルサは、今の仕事にも満足して働いている。そして食堂のメニューにも大満足している。
(セレナが料理長とお話しをしてからデザートが付くようになったのよね~。“ぐっじょぶ”セレナ!)
ここ最近のバルドへイム王国では新しい言葉が流行っている。なんでも、政務局の文官女性がつぶやいた言葉が『面白い』と王女様が使い始めたのがきっかけらしい。
エルサもたまに使って楽しんでいる。
今日のお昼ご飯を楽しみに歌を歌いながら腕を振り回しているエルサ。
この状態のエルサの周りには通常誰も近づかない。
「あ、あの。エルサ嬢。……少し時間……」
ところが、危険を顧みず、話しかける猛者がいた!
ゴッッッ!!
エルサの振り上げた腕が、拳が、顎にクリーンヒットする。
きれいなアッパーカット。
殴られた騎士は、これまたきれいな放物線を描いて後ろに吹き飛ぶ。
“しまった!”とエルサが慌てて後ろを振り返ると、殴られた騎士はくるりと一回転宙返りをし、見事きれいに着地した。
殴られた騎士は、顎を押さえ立ち上がり、なぜか頬を赤く染めてつぶやいた。
「とてもキレのある動き。さすがエルサ嬢だ」
事の成り行きを遠巻きに見ていた騎士団員たちはこの一言と赤面に疑問しかない。
((殴られて顔を赤らめるって、何?))
「大丈夫か?グランツ!すごい音がしたぞ!ていうか、顎があり得ないくらい腫れてるぞ!」
殴られた騎士の同僚は慌てて駆け寄り声をかける。本当にすごい音がしたのだ。心配するのも無理はない。
「問題ない。それより、エルサ嬢の手が心配だ」
「グランツ……お前ってやつは……」
自分より相手の拳を心配する。まさしく騎士道。漢気が半端ない。
「申し訳ございません!グランツ様!思いっきり腕を振っていて、本当にごめんなさい」
エルサは自分の無意識な行動で怪我人が出てしまったことに動揺して駆け寄り、グランツの顎の腫れを見て顔を青くする。
「どう落とし前を付けたら……いいでしょう……か……」
声を震わせ恐る恐る手を伸ばした。
(ああ!誰かに怪我させるなんて!騎士団の騎士道に反することをしてしまったわ!)
言葉のチョイスがいろいろと混雑しているが、本人は気が動転しているので判断することはできなかった。
「落とし前など、エルサ嬢は何も気にしなくていい。急に声をかけた俺が悪い。すまなかった」
エルサの手を握りしめ、とろけるような眼差しでやさしく声をかけるグランツ。
ゴードンに続き、「鬼神グランツ」と名高いこの男がこんなにもやさしくとろけるような顔で話しかけるなど、だれが予想しただろう。
((鬼神が落ちた!))
周囲の意見が完全一致した瞬間である。
そして、エルサもまたグランツに何かを感じた。
(グランツ様、なんて透き通った蒼い目なんでしょう。蒼い目、蒼い……どこかで……見たことがあったような……)
どこで見たことがあったのか、思い出せないのに懐かしく思え、自然に涙がこぼれた。
「ああ。泣かないでくれ、エルサ、嬢。君の涙は見ていると辛くなる。お願いだ。笑ってくれ」
やさしくなだめられ、さらに大泣きしたエルサ。それをさらになだめる鬼神グランツ。
周りは温かい目でそっと見守ることにした。
運命の出会いを果たしたエルサ。
何かを感じたものの、それが何なのか気が付きません。
次回はグランツsideです。




