4、バルドへイム王国(1)
今日から新しい章です。
昨日までとは違い、明るくなってます。
1.修羅ゴードンの娘
「お嬢様!おやめください!」
いつも冷静沈着な侍女、セレナの悲鳴が屋敷に響き渡る。
「大丈夫よ~。セレナもやってみる?」
(私は楽しいことはみんなでやるのが一番だと考えている。なので、ぜひセレナにもやってもらいたいのだ)
「無理です!10キロのダンベルでジャグリングなんてできません!」
「え~。きっとできるわよ~」
(みんな、やろうとしないからできないんだと思うの。こんなに楽しいこと、一度はやってみようよ)
10キロのダンベルは普通の女性では重く感じるはずだが、この少女はどうやらそうではないらしい。
(お嬢様!ダンベルでジャグリングをしようとは思いませんから!)
「お嬢様、少しは落ち着いてくださいませ。もう、いいお年頃なんですから」
「確かに、15歳だもの。そろそろ身の振り方を考えないとね」
(ん?身の振り方という言い方とは言わないか。ま、いっか)
「そうだわ!わたし、お父様のいる騎士団に入るわ!」
(お父様と一緒に騎士団で働いたら毎日楽しいわね!)
「お嬢様、騎士団に入って何をするおつもりで?」
(お願い、お嬢様。普通にお掃除とか事務仕事をするといってください!)
「そんなの、決まってるじゃない。楽しく筋肉をきたえるのよ!」
「やめてくださいませ!エルサお嬢様!」
私はエルサ。エルサ・バルデック。
この国、バルドへイム王国の騎士団長を務めるゴードン・バルデック男爵の次女よ。
この国で「エルサ」という名を持つ子供は、戦乱の際に命を落とした少女、エルサの鎮魂のために名付けられるのが慣例。私もその一人。
父はとても強く、修羅ゴードンと言われているらしい。
私にはとてもやさしいので修羅と言われてもピンとこないけど。
そして、この国は15歳が成人とされている。
先月、15歳になったので、私はもうれっきとした大人の女性というわけだ。
成人したら結婚もできる、お酒も飲める、仕事をしても学問を究めても自分の責任で決めていいのだ。
貴族社会は親が結婚を決めたりするのが通常らしいが、ここバルドヘイム王国は当事者が拒否することも良しとされている。
約200年前、敗戦した国家は粛清され、新しいバルドへイム王国が作られた。貴族制度やライフライン、農業や商業、あらゆるものを見直した際に婚姻についても女性の意見を聞いてもらえるようになった。もちろん、仕事をすることもだ。女性が結婚せずに仕事に生きることも今では当たり前となった。
成人を迎える前、結婚か就職かたくさん悩んだ。結婚してもいい年なのでそれも一つの選択肢なのだが、今はお父様と一緒に働きたいと考えている。だって、“身体強化”のギフトがあるからこれを生かさないなんてもったいないよね。
次女の私は家督を継がなくていいし、バルデック家はソフィアお姉さまがいるから安泰。そう、女性が家督を継ぐのもよくある話なのだ。
“騎士団に就職しよう!”という天啓に満面の笑みを浮かべていたら、急に扉が割れて開いた。
バキバキッ
ドォン
「あ、お父様。おはようございます」
大好きなお父様はちょっと大雑把なのでよく扉が壊れる。
まあ、通常運転ね。
「エルサ!騎士団に入るのか!父はうれしいぞ!」
さっきのやり取りがお父様に聞こえていたのね。改まってお話しする手間が省けたわ。
「ええ!そうなんです!皆さんのお役に立てるお仕事がしたくて」
「なんてやさしい子なんだ、エルサは!いつからだ?」
「まだ決まっていないのでお父様が副隊長様にお願いしてください」
「よし!では早速話を詰めにいくぞ」
「はい!」
お仕事が早くて、本当にできるお父様ね。
満面の笑顔で笑いあっていると後ろから冷気を感じる……。
「何が。どうしたら。エルサの騎士団入りになるんですか?」
抑揚のない、ゆっくりとした口調で声をかけられ、青ざめた私とお父様は“ギギギ”と体のきしむ音を立てながら振り返る。
そこには全く表情のないソフィアお姉さまとセレナが腕を組んで立っていた。
(あれえ、何かあったかしら。ええと、ソフィアお姉さまセレナが怒ってる……ように見えるのは……どうしてかしら)
エルサはやっぱりずれていることに気が付かない。
この後、扉を割ったお父様はソフィアお姉さまに延々と説教され、騎士団入隊の話は後日家族総出で副団長に相談することになった。
扉は……というと、お父様が一人で修理することを約束させられていた。
合掌……。
明日もかわいいエルサをお楽しみください。




