サラダとスープ
「お待たせしました」
という店員さんの声と共に持って来られるメニューの数々。
もしかしなくても一度に頼み過ぎたな、やっぱり。
「……待ったか?」
「全く?」
「あはは……」
なんと言うか、お待たせしました、は料理をお持ちしました、って意味だから。
そこまで待たせてなくても当然のように言って貰えるよね。
「すぐにパスタとかも来ますよ」
「テーブルを開けないとですわね」
という事で慌ただしくもいただきます。
「エビのサラダ美味いぞ!?」
「キャロットラペも美味しいですわよ?」
「青豆の甘さと卵の黄身のまろやかさがかなりいい」
と、サラダに手を付けたエルフ達に比べ、ガブロさんは……。
「……」
運ばれてきたグラスワインに口を付け、目をぱちくり。
そして、
「やっぱり、値段間違えとらんか?」
「合ってますよ?」
と。
それほどまでに百円でワインが飲めることが信じられないらしい。
「粗悪品でもなく、薄められたわけでもない。しっかりとしたワインじゃぞ?」
「どれどれ……」
そんなガブロさんに釣られ、エルフの三人がワインに口を付ける。
……サラダと合わせるためにみんな白ワインの方を飲んでるね。
「ふむ、美味い」
「キャロットラペと相性が良いですわね」
「赤も気になるな」
こうなったら止まらない。
白ワインの後に赤ワインに口を付け、思い出したように香りを嗅いで……。
「冷やされているから香りは閉じてしまっているな」
「でも、温度が上がると渋味やらが浮いて来そうですわよ?」
「これで百円ならわしらが飲んでたワインはいくらだっちゅー話じゃわい」
「グラスじゃ足りんな。マグナムを頼むか」
サラダと合わせただけで、ワインが足りない事を確信。
追加でマグナムの赤白両方入ります。
「グラスの口が窄まっていないのが気になるが」
「正直、安さと美味しさの前には細事ですわね」
「スープも美味いぞ!」
サラダ類は全員に取り分けて、ワインと楽しんで早々に無くなり。
次に伸びたのはスープ類。
ほい、スプーンですよっと。
「具材がゴロゴロしていて、値段とクオリティが釣り合っていない……」
「まろやかなコーンスープだ……。――赤と合う」
「バゲットの入った玉ねぎのズッパがメイン料理レベルで美味いぞい」
「ミネストローネも美味い。これには白だな」
「玉ねぎのズッパ美味しいですわね。じっくり炒めた玉ねぎの旨味がしっかり出ていますわ」
美味しそうに飲むわね。
ま、俺はスープには黒胡椒をプラスして飲むけれども。
バゲットとチーズがまた美味いのよ。
ここの玉ねぎズッパは。
「というか今更だが、このドレッシング美味いな」
「美味しいですよねぇ」
サウザンドレッシングなのかな?
この店のドレッシング、マジで美味い。
「エビのサラダに……というか、大体の料理にオリーブオイルかけるとまた味わいが変わりますよ」
「ほぅ」
という事で、俺の言葉を聞いてサラダにオリーブオイルを一回し……。
「香りとほのかな苦みが追加されたな」
「変なエグミも無いですし、このオリーブオイルも美味しいですわ」
「何なら、これだけで野菜が食えそうだな」
まぁ、オリーブオイルは美味しければドレッシングなのでね。
「サラダやスープだけでグラスが空いてしもうたわい」
「料理も美味けりゃワインも美味い。誰だってそうなる」
凄いよね。
言ってる通り、まだ前菜まで手を付けてない。
それなのにこの満足感よ。
「トマトとチーズは先にいただきたいですわ」
「生ハムもな」
ハモンセラーノとはスペイン産の生ハム……らしい。
今知ったよ、俺も。
「トマトは瑞々しく、チーズはフレッシュ」
「オリーブオイルとブラックペッパーが合いまくる!」
「生ハムも薄く切られていて……口に含むと甘さすら感じられるほどですわ!」
「甘さの後に塩味と旨味。そこに流し込む白ワインが最高じゃわい!」
もう既にこの店の楽しみ方をマスターしているな。
やっぱりこの店の商品は、自分でアレンジしてなんぼよ。
「ハムには赤だと思っていたが……白も美味い」
「塩っけのあるミネラル感たっぷりの白ですもの。そりゃあハムに合いますわ」
俺の知識だと加熱して赤くなる食材には赤ワイン。
白くなるなら白ワインっては知ってるけども……。
まぁ、結局好みと言われたらそれはそう。
「さて、次はどれにするか」
「私、エスカルゴが気になりますわ」
「じゃあそれからで……うん?」
エスカルゴの皿を中央に寄せ、食べ終わったお皿は重ねてテーブルの端に。
その時に気付いてしまったんだ。
エスカルゴを頼んだのなら頼まなければならないアレが無い事に。
「ちょっと追加注文しますね」
「ほう?」
「フォッカチオをエスカルゴのソースに浸して食べるのが最高なんですよ」
「それを早く言わんか!」
怒らんでもろて。
というか、メニュー表にバッチリおススメだって書いてあるでしょ。
俺のせいにしない。
「ソースさえ残っていればいいのだろう?」
「ですね」
「では熱い内に食べよう」
「待った」
「今度は何じゃ」
「俺を信じてオリーブオイルビシャがけで食べてください」
「……分かった」
ふぅ。
こっちはセーフっと。
……まだ前菜までしか進んでないってマジ?




