過ぎ去る嵐
「カタラーナアイスの濃厚なカスタードが最高だ」
「みたらしのかかったミルクアイスも美味いぞ」
「王道はイチゴのアイスでしょう?」
「カリカリとしたチュロにチョコソースやクリームを付けて食うのが酒の良い休憩じゃな」
うん、信じられるか?
これ、食事の最中の口直しなんだぜ?
デザートを持って来た店員さんが、
(そうだよね、あんなペースで食べ続けるわけ無いよね)
と、どこか安心した表情でこれらのデザートを持って来てくれたんだけど……。
一体いつから、エルフ達が食事を終えると錯覚していた?
――注文済みの釜飯もまだ届いて無いしね。
「む? この晩餐会限定メニューというのは頼めるんか?」
「どれのことです?」
と、タブレット端末を指差しながら言うガブロさん。
なになに?
……釜茶碗蒸しだと?
何それ美味そう。頼みましょう頼みましょう。
「頼めますよ」
「じゃあ頼むか。あと、そろそろ焼酎タイムじゃな」
「まだ飲むのか」
「じゃあお主らはワインは飲まぬか?」
「飲むに決まっているだろう」
「そう言えば、サングリアなんかも置いてありますよね」
「どういったものだ?」
サングリア、当たり前に異世界に無いのか。
まぁ、ワインに何か混ぜるというのが異世界的にはご法度っぽいし、無くても不思議ではないかな。
「ワインにフルーツやスパイスを加えて一晩寝かせたカクテル? ですね」
カクテルなのかな?
普通に香りを付けたワインな気もするけど。
「飲む」
「ですわね」
という事で人数分頼まれるサングリア。
まぁ、飲んだ事無いんですけど、俺。
「ワインに合わせるのは?」
「タレから数本。きもと……む、ハツはもう無いのか」
言われてタブレットの画面を見たら、ハツが頼めなくなってる。
そういえば、ハツは生産量不足で個数制限があるとかあった気がする。
まぁ、さっき食べたし大丈夫でしょ。
「ではつくねチーズを」
「美味かったからな」
「むねのマヨタクも美味かったから頼もう」
「牛串も行くぞい」
うん、口直しのデザートを食べて、また当たり前に注文し始めたわね。
ちなみに俺は口直しの前からすでにギブアップ済み。
ソフトドリンクやコーヒーを飲みながら優雅に制限時間が来るまで待たせて貰うよ。
「お待たせしました、鳥釜飯です」
「来た来た」
「釜で茶碗蒸しです」
「美味しそうな匂いがたまりませんわぁ」
……うぷ。
匂いだけで結構来るわね。
いやマジで、この人らのどこに消えていってるんだ?
あの量の食べ物とアルコール。
「ラベンドラ、おこげを寄越せ」
「独占するなバカ。皆に等しくよそう」
「茶碗蒸しの出汁と卵の風味が絶妙じゃの~」
……焼き鳥、鳥釜飯と茶碗蒸しって、使われてる材料だけ見たらほぼ親子丼なのでは?
でも丼になってない、つまり同じ家に居ないって事で、息子が巣立ったか、あるいは家庭崩壊?
食材にも意外なドラマが……?
「どうしたんじゃ?」
「何でもないです」
暇なんよ。
今みたいな妄想しとかないと。
あと、現実逃避とも言う。
店員さんの俺に向ける目線というか、視線が結構怖いものになってきたから。
「なるほど、これがサングリアか」
「果汁感が感じられる分、ワインとしての味わいは若干損なわれますけれど……」
「それを差し置いても美味い。質の悪いワインを誤魔化す為ではなく、より美味いワインに変えるという意図がくみ取れる」
へー。
ちなみにどんなフルーツフレーバーが入ってるんだろ。
……特に書いて無いな。
まぁでも、ワインに合いそうなフルーツってある程度は想像出来るし、きっとそんな感じの味わいなんだろうな。
「濃厚なタレと肝の味わいによく合いますわ」
「この赤ワインは本当に内臓系とよく合う」
「マヨタクとも合うぞ」
いやぁ、気持ちのいいくらいの食べっぷりですわよ。
……ちょっとだけ茶碗蒸し貰お。
――うむ、美味い。
しっかりと鶏の出汁が効いてて、たっぷり入ってるねぎがまた美味い。
はぁ……ゆっくり食べるのに丁度いいな。
「そう言えばカケル」
「?」
「先ほどのアイスが柔らかいものに包まれていたが、あれは何だ?」
「ちょっと待ってくださいね」
アイスが包まれてた柔いもの?
えーっとメニューには……ああ、求肥の事か。
「さっきのは求肥と言って、餅粉に水あめや砂糖を加えて練ったものになります」
「牛の皮?」
「違いますが?」
確かに求肥は牛皮とも書く場合があるらしいけども。
どう考えても俺の説明で牛の皮には辿り着かないでしょうよ。
まーた翻訳魔法さんが適当な翻訳をしたな。
「とにかく、美味しいものなんだな?」
「ですね」
人には好みというものがあり、俺は正直求肥はそこまで好きじゃ無かったりする。
あの柔らかさがダメなんだなぁ……。
でも、さっきアイスを食べてたラベンドラさんとリリウムさんが特に言及せずに食べきってたし、異世界組にとってはそこまで気になる食べ物ではなかったんだろう。
とりあえず食べるか、みたいな考えだった説も否定できないけども。
「もうじき残りが三十分になる。リリウム、マジャリス、ガブロ、ラストスパートを仕掛けるぞ!」
「「おう!!」」
そんなに気合入れんでも。
なお、この後、ラストオーダーまで本当に食べ、飲み続け。
制限時間の二時間が経つ頃には、店員さんがげんなりした表情で俺たちの対応をするまでに至る。
これに関しては店員さんを責めないで欲しい。
もし俺が逆の立場だったら、同じような表情をしない自信がない。
あと、お会計を済ませて帰る時に、
「よっしゃあぁぁぁっ!! 乗り切ったぁぁぁっ!!」
とか厨房から聞こえてきた気がするけど、きっと気のせいだよね?




