魔物の名前にあるの?
賢い僕は思い知りました。
いかに提供されるメニューの量がバグっていても、あの人たちはそれを容易に超えてくると。
――某珈琲店のお会計はちょっと思い出したくもない。
姉貴金融からの融資が無かったら、給料日までご飯とみそ汁だけの生活になってた。
――あと異世界食材。
「それで? 今日は晩御飯の用意が無い所を見ると外食なのか?」
「ですです」
という事で前回の反省を踏まえ、この人らをあの場所に連れて行こうと思います。
俺の財布へのダメージが少ないであろう、あの場所へ。
*
そんなわけでやってきました『鳥辺境伯』。
本日の晩御飯はこちらに予約を取っております。
「この名前……」
「名前? あー……」
そう言えば異世界組にはマジもんの貴族が居るんだっけ。
……現代にも一応貴族って居るのかな? 居たとしても少数だろうけれども。
そんな貴族の爵位を冠したこの店の名前、異世界組からしたら避けたかったりする?
「こちらの世界にも、あの魔物が居ますのね!?」
「はい?」
「店の名前になっているという事は、『鳥辺境伯』をメインに調理する創作料理屋だろう」
待て待て。
「中々捕まえるのが難しい上に解体にもちょっとしたコツが必要じゃからのぅ。ま、こちらの人間ならば難なくこなすじゃろうて」
いやまぁ、それには同意。
食べ物に関する知識や技術はマジで高いからな。
何度か挑戦したら、当たり前に解体手順のマニュアルが出来そう。
……って、そうじゃなく。
「この店の名前の魔物が居るんですか?」
「? おうとも」
「鳥型の魔物ではありますが、空を飛ぶよりも地上を走る事が得意な魔物で」
「超高速で移動した後、羽を広げて低空滑空の状態で突進してくる」
「物理攻撃が過ぎる」
「避けられたらそのまま逃走しますし、移動の早さも相まって見つけるのも、捕らえるのも苦労する魔物ですわ」
「リリウムにかかれば、転移させて速度を殺して楽に捕まえられるがな」
……どうしよう、思ってた鳥系の魔物と違う。
あの、あれだ。
海外アニメのめっちゃ足がグルグル回る鳥。
俺の魔物のイメージはそれになっちゃったよ。
「ちなみになんですけど」
「うむ」
「その魔物は関係ないです」
「そうなのか……」
店の名前と魔物の名前が一致したのは偶然だね。
ま、よくある事さ。
――よくあるか?
「とりあえず入りましょう」
「そうだな。腹も減った事だし」
「魔物では無いとなると、一体どんな料理が出てくるのでしょうね」
「酒があると嬉しいのぅ」
「この世界の店で食べる料理はどれも衝撃だからな。楽しみだ」
というわけで入店入店。
「いらっしゃいませー」
「五名で予約していた臥龍岡ですけど……」
「席までご案内しますね」
という事で入店しましたら、電話で予約していたことを伝え。
店員さんに連れられて席の方へ。
「食べ飲み放題でお間違いなかったですよね?」
「はい。五人とも食べ飲み放題で」
「かしこまりました。最初にスタートメニューが出てきます。スタートメニューがお席に届き次第、追加での注文が可能になります。メニューはタブレットからの注文で、注文できる商品全てが食べ飲み放題に含まれてます。時間は二時間で、ラストオーダーは終了二十分前、ただし、釜めし系の注文はお時間の都合上一時間前までとさせていただいております」
「OKです」
「それではスタートメニューをお持ちしますね」
そう言ってお辞儀をし、席を離れていく店員さん。
そう、とうとう連れてきちゃいましたよ。
食べ放題飲み放題のお店に!
ちなみに『鳥辺境伯』では電話で前日までに予約して、利用人数が四人以上で食べ飲み放題にすることが可能。
それでお値段なんと三千九百円。
前回の出費が何だったんだって思えるレベルの価格ですわよこれは。
――某ファミレスの方が安いのはご愛敬だけども。
……こう考えるとマジであの店安いな。
しかもワインまで入れて、だからね。
もう今後あの場所に通わせようかな……。
「カケル! カケル!!」
「どうしました?」
「食べ飲み放題と聞こえたのだが!?」
「そうですよ?」
「なんじゃと!?」
「……びっくりした。てっきりこの魔道具から頼めるメニューが全て自由に食べていいのかと思った」
「その通りですけど……」
というやり取りの後、タブレットを操作する四人。
「酒があるぞ」
「ありますわね」
「ワインもあるぞ」
「あるな」
「当然のようにデザートもある」
「……これらが……食べ放題?」
「酒も飲み放題?」
「……桃源郷?」
「現代ですけど……」
目を丸くするって言うのはこういうことを言うんだろうなってくらい目を丸くしておられる。
やっぱり異世界に食べ放題みたいなシステムは無いのか。
「早速頼みませんと!」
「待て。さっきの店員の話を聞いていなかったのか?」
「全く!!」
「全然!!」
潔すぎる。
「最初に運ばれてくるメニューがテーブルについてから、こちらの魔道具での注文が可能になるんだ」
「なるほど」
ラベンドラさん、助かるなぁ。
異世界組の手綱を安心して任せられる。
「はっ! こんな美味い話があるわけ無いと思っとったが、そう言う事か!」
「どうしたガブロ?」
「つまり、その最初のメニューがアホみたいな量運ばれてくるんじゃろ? それで胃袋を圧迫させ、あまり食べられないように――」
とかガブロさんが言ってたら、
「お待たせしました、スタートメニューです」
運ばれてきたのは……。
人数分のタレもも串、塩ぼんじり。
唐揚げに釜めし、ポテトフライに白ねぎ塩昆布、ホルモンねぎ盛りポン酢と言ったラインナップ。
結構ボリュームあるな。
でもまぁ、こんなもんか。
「アホみたいな量か?」
「普通に一人前程度ですわよね?」
ダウト。
一人前なわけあるかい。
俺は絶対に食べきれない自信があるぞ。
「この量なら誤差というか微差ですわ。メニューを追加しましょう」
「まず飲み物だ。ワインの赤白を人数分と」
「わし、ハイボール三つ」
「飲み干してからにしろ。ハイボール一つと」
「カケルは飲み物は?」
「あ、じゃあ烏龍茶で」
なんでこの人らもうタブレット使いこなしてるの?
とまぁ、そんなこんなで。
『鳥辺境伯』の食べ放題……始まります。




