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3月上旬 43話

「ファーストキス、どうだった?」

 

 こてんと首を傾げる茜は女性から女の子になっていた。

 

「ん〜」

 

 なんとか熱が引いてきた体で私は返す言葉を探す。

 

「もしかしてファーストじゃなかったり、はは」

「あ、そうだわ」

「え」

「生まれたときとか親にされたかも」

「それはノーカンでしょ! も〜」

「すごい、絶望って感じの顔だったよ。一瞬」

 

 相変わらず私は素直じゃない。

 

「茜はどうなの? 念願の口をいただけて」

「……私語彙力ないから言い方下手だけど……もう! 言葉にならないくらい幸せでキュンだった」

「ふっ、なにそれ」

「ホントにこんな感じなの! そう思うでしょ⁉︎」

「まぁ……悪くない」

 

 私達はタブルベッドで寄り添う。姿は裸のままだったけど、もう今更どうでもいい。今晩くらいはこのままでいよう。

 すると布団の中、這い寄る腕に私の手が絡め取られてあっという間に恋人繋ぎが完成する。

 そのこなれた手つきにかねてからの邪推を思い出してしまった。

 

「ねぇ、茜はファーストキスなの?」

「ん?」

「さっきの。今日一日いて思ったけど茜ってさ妙に慣れてるよね。エスコート上手いし、

 ホテル入り慣れてるし、セックス? も上手いし。過去にそういう人いたの?」

 

 今日一日一緒にいて何度もそう思う機会があった。茜の恋愛経歴なんて私にとっては本当に関係なくて、本当にどうでもいいのだけれど。

 

 茜は私にとっての初めてなのに、私は茜の初めてじゃない……。

 

「……やっぱりヤキモチ?」

「ちがうし。別に言いたくないなら——」

「大丈夫、いないよ。こういうことするのはまりーが初めて」

 

 それを証明するのは恋人繋ぎに込められた包むような力。

 

「安心した?」

「むー」

 

 正直安心してる。

 

「留学で挨拶のチークキスくらいはしたけど郷に入ってはなんとやらだし。唇同士とか裸でベッドで二人きりになったり、えっちしたのはまりーだけだよ。……だけど私そんなに彼女できてたかぁ。偉いな私」

 

 うんうんと一人頷いている。

 

「私だって今日は初めてばっかでさ。夜の新宿歩くのも、ラブホテルに入るのも、人にえっちなことするのも。バレなかった? 私がちょっと落ち着かなかったの」

「え、うそ。全然気づかなかった」

 

 なにより私が落ち着いていなかった気がする。

 

「緊張だよぉ。新宿迷うしさぁ。下見したのにちょっと抜けちゃったし。しかもラブホなんて高校生入れないよ」

「え」

「平然としてそれっぽくしてさぁ。だから今日は大人っぽい服着てそれっぽく見せてたの。あんまよくないこともしたし」

 

 それ、いいのか?

 

「大丈夫なの?」

 

 ちょっと心配になる。

 

「チェックアウトまでまりーも協力してね」

 

 巻き込まれた!

 

「まりーを気持ちよくするのも色々勉強したんだよ。人の触るときって自分のより数倍慎重にならなきゃだし」

「にしては大胆だったね」

 

 大胆過ぎだと思う。押し倒されたときとか。

 

 思い出すだけであの迫力には少し恐々《きょうきょう》する。

 

「自分の欲望に忠実に動いちゃった。てへぺろ」

「欲望であれだけできるようプログラムされてるのは天賦てんぷの才だよ」

「はーーー。でもちょっと疲れたね〜」

 

 大きなため息をつくと数ミリ布団に沈んだ。

 

「あ、いやまりーを相手するのが疲れたんじゃないよ。幸せな時間だったから。ただ張り切り過ぎたねぇって感じ。くっ俺の体の限界か、みたいな」

 

 それっきり茜の瞼は開かない。

 

 そりゃ疲れるか。

 

 ずっと神経張っていたんだろう。普段キャピキャピJKのくせに背伸びして大人の仮面を被って。それでホテル着いたら着いたで今度はへそ曲がりな私の対応。自分で言うのもなんだか疲れないわけが無い。立場逆だったら途中でぶっ倒れる。そもそも多分日和(ひよ)ってラブホの予約が無理だ。

 

 耐え難い苦難も用意されていたけど、なんだかんだ楽しめるように気使ってくれたんだよね。

 

 それに茜の予想通り、あの絶頂への階段で私は一抹の恐怖を覚えていたのは事実。自分の体の制御ができず、爆発に近づく感覚は自分一人で耐えられるかは怪しい。茜がいたからこそだ。優しくというお願いを彼女は忠実に聞いてくれていた。

 

 全く、一人で全部やっちゃうんだから。

 

 シーツに引き波をつけながら茜に近づく。そして腕を広げた。

 今度は私の番。

 

「ほら、来い」

「え、どしたのー」

「おいで」

「そういうのはまりーじゃなくて私が——」

「いいから!」

 

 茜の顔面を私の胸に沈める。さっさと従わない茜に痺れを切らして、結局私から抱き寄せたのだった。

 

「ありゃりゃ。まりーもそっち側に興味あったの?」

「うるさい」

「ふふ、ありがとう」

 

 ぎゅむぎゅむと深くに入り込んでくる姿は庇護ひごすべき子供のようだ。

 今度は私が撫でる。そうしなきゃいけない気がした。

 

 よくできました。

 

 テストの満点で褒められた小学生のときを思い出しながら。

 

「どういたしまして。私もありがとう」

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