1月下旬 10話
上野を去った私達。今度は山手線に乗り向かう先は原宿駅。
因みに私は演劇のリクエストをしたのみなので、ここから先の物見遊山のプランは一切知らない。というか教えろと行っても教えないの一点張りだったためどうしようもなかった。だからこの後自分がどういった目に合わせられるのかが不安で不安で仕方がない。電車内の数分がもっと続くよう祈ったが、それは叶わなかった。
「到着〜」
「で、どこ行くの」
かったるそうに尋ねる。
「ただいまから行くのは〜かの有名な竹下通りでございます。それでは左手をご覧ください」
「壁だ」
「添乗員風。言ってみたかっただけ」
「じゃあ、まず昼食にして欲しいですね、添乗員さん。もちろん決まってるんでしょ? 案内しろ」
「お口が大変お悪うございますね。それでは先導させていただきます」
駅から始めの一歩を踏み出す。茜の先導と聞いて頼りなくは思うが、どこに行くか知らない分にはサポートのしようもないので何事もなく辿り着けることを祈るのみ。
にしても人が多い。
竹下通り。名前は聞いたことがあった観光名所だが、こんなにも人が多いとは。しかも陽キャ過ぎる出で立ちのギャルとか裏ストリートで屯しているような外国人とかも多く見受けられ少し気後れする。私の暮らす世界とは完全に違う。
見た目が派手で危ない人とは死んでも関わりたくない。路上飲酒と路上喫煙の輩は特に。
「っ、すみません」
そう思ったそばから道行く人に肩をぶつけてしまった。幸いにも相手も会釈をしてくれたのでまだ大丈夫な人だ。
これはかなり神経を擦り減らしそうだ。早くも帰りたくなる。
「歩き方にご注意くださーい」
「わぁってるよ、あんたも前向け。ぶつかる」
「この辺は何回か来てるから〜」
「そういう問題でもないだろ。あとここなに? ドブ臭いんだけど」
てくてく歩いてると結構不快な臭いが鼻につく。それも下水的な。
「なんでこんな臭いところに人が集るんだ。ハエ?」
「あんま大きい声で言っちゃダメだよー。睨まれちゃうから」
「だけどさ」
割とマジで気持ち悪い。この臭いに耐えた先に一体なにがあるのか。どうせ録でもないだろう。帰りたい。
「こういう都市部がばっどすめーるなのは仕方ないさ」
全然分かんない。
現代に生きながらにして現代人の思考は掴めそうになかった。もしかして私は周りとは本当に人種が違うのかもしれない。私ホモ・サピエンスじゃない説。
「ここでございまーす」
通りの中心真っ直ぐに抜け、一本の路地に入る。するとそこにはまた結構な数の人が騒めいていた。彼らの頭上を見る。
「ハンバーガー……」
看板にはハンバーガーを手に持ったウェスタンな女性のイラストが描かれている。店の外観は無骨な木材と観葉植物や樽のインテリアでまとめられており、見るからにアメリカンスタイルを売りにいていると感じられる。
「そうそう。ここのはすっごく美味しいんだよ。元はアメリカで食べたんだけど忘れられなくって。日本にも出店してからお気に入りなの」
「ふむ」
アメリカで食べたってのはバスケの遠征のときだろう。本場の味というやつか。
中々に興味深い。
大好きって程でもないが、好きの部類に入る料理だ。ハートのケチャップオムライスとかよりは断然グッドチョイスと言うべきだろう。
「いいね、楽しませてもらおう。メニューは任せるよ。あるんでしょ、飛びっきりのおすすめ」
「もちろん。任せとけ」
茜にお金を預けて、私は席の確保に向かう。外の人の数の通り、店内の人口密度もそれなりに高い。
ちょっと時間かかりそうだな。
歩き回っても空席はないため、店内中央の樽テーブルに落ち着いた。お腹辺りの高さで椅子はなく、立ち食いになるがこれも雰囲気満点だ。
ほほう、さては私、気分いいな。
木目を見ながら五指でトトトッ、トトトッとリズムを刻む。
家では手の込んだ料理もしたりする私。美味しいものには目が無い。そして本場アメリカのハンバーガーとやらの響きは実にそそられる。
演劇も楽しめたことだし、お店も気に入った。今から食すランチも待ち遠しい。好条件が揃った今、珍しく私はご機嫌だった。
「お待たせ〜」
お、来たね。
「おおぉ」
「ふふん、どうだ」
お前は作ってないだろうというツッコミを忘れる程、眼前に据えられたトレイを食い入るように見つめる。バンズ、パティ、チーズ、レタスなどなど、数々の食材から織り成されるその地層は一層一層が分厚い。
「まりーのお口じゃ足りないかもね」
「顎足んないよ。このベーコンすっご……食べ応えがこれまた……」
一際目を引くのは、ハンバーガーを貫くように挟まれたベーコンで上から眺めればまさに記号のΦだ。そしてその上からトロけたチーズが溢れた炭酸飲料のように覆い被さる。側にはもちろんある王道のセット、湯気立ち上るカリカリ系フライドポテト。
「アメリカンベーコンチーズバーガーだよ。ご賞味あれ」
某Mのハンバーガーが求める『ファスト』とは良い意味で一線を画する出来栄えだと、香ばしい匂いを鼻腔の内側に味合わせながら思う。
アメリカン、いい響きだ。
「茜」
「ん?」
「楽しいね」
思わず本音がポロリ。それでもいいと思える程高揚している。
「あららら、まりーがこんなにも喜んでくれるなんて。にはは、彼女みょ、みょり、んんっ、彼女冥利に尽きるね。ん? 合ってる?」
「じゃあいただくか」
「うん。あ、はい、飲み物」
「ありがと。では、いただき……は?」
いざ口の中へと思った矢先、茜が置いたドリンクが私を止める。




