燈籠の底に眠るもの
羽和戸愛作としての第一作です。
今回AIと相談し、共に書き上げました。
ChatGPT plusにも感謝を述べると共に、読んで頂ける読者の方々、作家としての先輩方にも御礼申し上げます。
羽和戸の世界観をご堪能ください。
川は、音もなく流れていた。
夕闇が山間を包み、久瀬の村に、一年に一度の「送り火」の夜が訪れていた。
村人たちは灯籠を携え、静かに川辺に並ぶ。
灯籠の中には、白い紙にしたためられた死者の名。
薄紅の灯が揺れ、風に乗せて、冥き彼岸へと魂を導くという。
「なあ、あれ見たことあるか」
青年・悟が、隣に立つ遥に声をかけた。
指さした先、岩陰にぽつんと置かれた木箱があった。
「あの灯籠だけ、毎年流されねえよな。誰のものなんだ?」
遥は顔をしかめる。
「“封じ籠”よ。名前も書かれてない。あれは……“流しちゃいけない灯籠”なの」
「どうして?」
「婆ちゃんの話だと、あれの火は“魂”じゃないの。
昔、村が――何かを“忘れる”ために作ったんだって。
あれを流すと……“思い出される”らしいよ」
悟は笑いかけたが、遥の表情は冗談ではなかった。
空には星が瞬き始めていた。
次々と流される灯籠の列が、闇の川を染める。
だがそのとき、風がぴたりと止んだ。
重い、沈黙のような凪。
悟の耳に、誰かの声が囁いた。
「……あけて……あけて……」
振り向いても誰もいない。
ただ、岩場の木箱――その蓋が、わずかにずれていた。
翌朝、村には緊張が走っていた。
封じ籠が、夜のうちに川に流されたという。
長老は顔面蒼白で、土下座のように地面に伏していた。
悟は何も言えなかった。
灯籠を流したのは、自分だったのだ。
木箱を開けたとき、妙な感覚があった。
ただの木でできたはずの灯籠が、じわりと体温を持っているようだった。
火を灯すと、中に彫られた奇怪な紋様が微かに動いたように見えた。
そのまま、まるで導かれるように、悟は灯籠を川に置いていた。
流されたそれは、ほかの灯籠と違い、どこにも流れなかった。
川の中央にとどまり、ひとつの星のように輝いていた。
それから村は、静かに崩れていった。
村人たちの「記憶」が失われはじめたのだ。
名が出てこない。
隣人の顔がわからない。
自宅の場所が思い出せない。
悟の母は、三日目にして息子を「どちらさまですか」と呼んだ。
遥は自分の名前を忘れ、村のはずれをさまよっていた。
空には鳥も飛ばず、夜虫の声すら消えた。
それでも、あの灯籠は川の中央にとどまり続けていた。
火を灯したまま。
その灯火はもはや炎ではなかった。
星の光が地に落ちたような、異様な輝き。
悟は、それを見て理解した。
このままでは――村ごと、“思い出される”。
だが、それは“何に”なのか――それだけが、思い出せない。
夜。悟はひとり、川辺へと向かった。
村の記憶も、人の形も、少しずつ崩れていくようなこの現実。
彼は、あの灯籠を焼き捨てに来た。
再び木箱に封じ、かつてのように“忘れさせる”ために。
だが、川の中に立っていたのは――人ではなかった。
影。
それは、人の形をしている“何か”だった。
肘は逆に折れ、皮膚はぬめりを帯びた仮面のよう。
顔というべき場所には、幾つもの小さな“星の目”が浮かんでいた。
それが、悟を見た。
「……キサマが……忘れた……ノダ……」
音ではない、言葉でもない。
頭に響く声が、意識を軋ませる。
“それ”は、かつて空より来たるもの。
人の理からはじかれ、記憶から削ぎ落された「異神」。
封じ籠は、それを人の記憶から消すための“楔”だった。
今、それが解かれた。
悟は、視界が白く染まる中、最後に遥の叫び声を聞いた。
数日後――行政の記録から、「久瀬村」は消えていた。
地図にも、戸籍にも、過去の新聞記事にさえ、村の名は残っていない。
ただ一つ、川辺の岩場に木箱が置かれていた。
中には、朽ちかけた灯籠。火は灯っていない。
その木肌には、読めぬ文字が彫られていた。
「……なんだ、これ。
文字のようで、どれも意味がわからない……」
若い役人がつぶやいた。
彼は、村のあったという場所を調査するため、半ば懐疑的にここまで来ていた。
隣の年配職員が肩をすくめた。
「まあ、誰かの悪戯だろう。
忘れられた土地で、誰かが意味もなく彫ったんだ。
……忘れてやるのが一番さ」
忘レヨ。忘却コソ、祝福ナリ。
記憶サレシ時、我ハ目覚メル。
風が吹いた。
灯籠は、音もなく、微かに揺れた。
今回は数回の推敲と一部提案をしての完成となりましたが、想像以上に出来が良く、読みやすい仕上がりになったと考えています。
さほど恐ろしくは無いですが、読み物としては及第点を頂けるのではないでしょうか。