03 森へ
フラムトリアの街は東西南北を外壁が囲う
新旧のつぎはぎの頑丈で高い壁だ。
古くは森からのモンスターの侵入を防いできたが、戦火に巻き込まれた歴史もないこの国には、
立派すぎる壁となって独特な景観を作っている。
雑多な街をすっぽりと覆う高い壁が外からの
視線を遮って、街から数メートル高い位置にある
貴族街・そこから続く
一番高い台地に立つ白い王城だけを見せる。
王城の周囲にはいつ出来たとも知れぬ
古く高い尖塔が円形に半径数キロの感覚で均等に
6本配置されている。
その尖塔を中心に広がる街並みは雑多ではあるが活気に溢れるものだった。
朝方は尖塔の影が落ちる薄暗い中央の路地を
通って街の西端の門を潜る。
振り返れば路地の突き当たりに高い尖塔
その先に霞む様に高い台地に王城が見える。
太古の昔からあると言う門は
その他の門扉の雰囲気とは大きく異なる。
数キロ先からガラリと雰囲気が変わる壁が、
視界を埋め尽くすここは、実はスルトの
お気に入りの場所だったりする。
ツタが這い、
なにとも知れぬレリーフが精緻に彫り込まれた、
建造物は街の城壁とは違い西門だけが異質で、
外側に対すると言うよりは、
そこから先への入り口のようでもあった。
門兵の顔馴染みに挨拶して
東の森へ抜けるスルトは、
今日受け取ったクエスト依頼書の
内容を確かめる。
《西の森の入り口付近に出没した
グレイウルフを3匹討伐する 金貨1枚》
低級のモンスターだが群れる数によってはクラスが変わる。
街で聞いた噂では、
数匹のウルフが街のすぐ近に出没。
商隊が門扉近くで襲われて、
商人が負傷したようだ。
グレイウルフは
血の味を覚えると厄介だから、
早い討伐が肝要になる。
街道に群れを呼ばれ
ナワバリを作られてしまえば
駆除は困難を極めるだろう。
数キロ森に入った所でアリスが反応した。
『スルト!来るよ!』
「数は?」
『分からないけど速い!今朝から森の瘴気が濃いの』
一般的に魔物の発生ポイントでは、
瘴気が濃くなるし強力なモンスターは、
それ自体が瘴気を纏う事がある。
「$$$$$$$€€€€」
スルトは決まった呪文を唱え手持ちのノートを
めくり魔力を込める。
アリスとオリビアが淡く光り攻撃態勢になる。
「頼むよアリス!オリビア!」
『『わかった!』』
2人同時に叫ぶと
現れたグレイウルフを次々屠る。
アリスは爪で、オリビアは闇で。
4体倒した所で静かになる。
「ふー、ありがと2人とも」
『いいのよスルト』
『…2人ともッ!』
暗い森の奥を見つめていたオリビアが、
焦りを含んだ叫びを発する。
森の奥に金の瞳が二つ。
グレイウルフより3回りは大きく黒い
ウルフがゆっくりと近づいている。
『ブラックウォールウルフ!』
『スルト!逃げッ』
「いや遅いな…奴はこちらを認識してしまっている」
ブラックウォールウルフにターゲットにされれば速さで逃げ切れる可能性は極めて低い。
だが相手はAクラス冒険者のパーティでも苦戦する相手だ。
Dクラス冒険者のスルトには絶望的状況だ。
最悪なのは森の手前側から現れた事だろう。
スルトは森のさらに奥へ逃げながら、
ノートに魔力を込める。
走りながら絶望に呑まれ無かったのは、
アリスとオリビアがいたからだ。
アリスとオリビアの攻撃がブラックウォールウルフに通じている様子は無い。
『くッ』
アリスの鋭い爪
オリビアの放つ闇
どちらも奴の足を止める程の効果は
無いらしい。
森の木々の高さに迫る巨体からは
凶悪な攻撃が降って来る。
一撃が地面を抉り、木々をなぎ倒す威力だ。
いよいよ森のかなり奥まで追い込まれ魔力も
尽きかけてきた。
背後に見える霊峰オロムが近い。
焦りがスルトを支配する。
「ここまでか…」
最後の魔力で2人を逃そうと思った。
ニタリと黒い凶悪な塊が笑ったような
気がした。
強烈な膂力をもって巨体が暴力的な加速をする。
巨大な口を開けて真っ直ぐこちらへ。
覚悟は決めた。
彼女らが無事逃げられることを祈る。
『『スルトッ』』
2人の悲痛な叫び声は暗転して
無音になった。




