スミス
8/23 一部改稿しました
『この男、あの勇者教の刺客だったようですわ』
この男は勇者教の何らかの指令のもと
魔界森を迂回して僕らの所を
目指していたらしく、
先々で無差別に女子供構わず
殺戮を繰り返していた様だ。
この男がフラムトリアの街に
到達していたらと思うとゾッとする。
ギルドのウリン達や
猪の水舎亭や西町のみんなの誰かが
その毒牙にかかっていたかもしれないと
思うと同時に、この男が道中で殺した
罪なき人々に申し訳ない気持ちになる。
何故なら自分を殺しに来た故に
道中で被害に遭った人々が居たのだから…
『あるじ様よ自分を責めるでない。
此奴は何処ででもどんな状況でも
あるじ様に関係なく悪事をしておったろうよ…その悪行をあるじ様が止めたんじゃ。
誇るべきで、後悔ではなかろうよ』
『そうですわ、優しいスルトですもの
でもそんな風に考えてはダメですわ』
そうだろうか?
確かに解放した少女は涙を流して
僕らに何度も感謝の言葉をくれたのだった。
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倒れたあの男は、
数人の村人と老人をその凶刃にかけ、
貢がれた少女が何人か犠牲になったそうだ。
惨たらしい惨劇を今も静かに降る雪が
優しく包んでくれているのがせめてもの
救いだろうか…
落ち着けば村の人々で死者を
丁重に弔うだろう。
数日前から普段は見かけない魔物が、
村の近くで目撃されており、
避難先の山の洞窟と村を繋ぐ山道にも、
大型な魔物が多数出没しているらしく、
いずれも普段よりも凶暴化していて
手がつけられない状況だと言う。
村へ帰りたいが危険を伴う事からアリス達が
洞窟を砦に村人を守っている状況だ。
しかし何日も洞窟に避難を強いられた村人も
限界が近いだろう。
アリスとオリビアが見てきてくれたが、サイクロップスの亜種とリザードの群、
凶暴化したマッドウルフ…
後は背後の森から死霊系の魔物の気配が多数あったそうだ。
フランとアディは山道方面に向かうとしても
村に近い大量のマッドウルフとアンデット系を残りで対処するには無理がある。
一面焼き尽くす様なアディの様な
戦い方は出来ないし、
どちらかを見捨てる事も
迷っている暇も無いのだった。
その時。
『何じゃ貴様!』
突然アディ達に緊張が走ると
壁から黒いローブを身につけた
えらく華奢な男が顔を覗かせる。
黒曜も低く唸り
半身を僕の前に滑り込ませる。
「えらく困っておいでですねぇ?」
「ヒッ」
村長とアリス達も顔を引きつらせて
後ずさる。
「そう警戒されなくとも、私噛んだりしませんよぉ」
印象より随分と甲高く
明るい声に似合わない彼の顔は
絹のローブの奥に見える
不気味な黒い骸骨の顔だったのだ。
身長は2.5m程
大柄な身長のはずだが華奢な印象から
意外にも小さく見える。
しかし漏れ出る強い魔力から
相当に強力な魔物である事は間違いない。
最初こそ警戒したのだけど、
彼に攻撃や敵対の意思は無く
どことなくマイペースで飄々とした
好爺のような雰囲気にすっかり警戒を
解かれてしまった。
しかし骸骨の顔に走る金の模様と
ローブに刻まれる金のルーン文字は魔法的に
高度な技術が施され、強い存在感を放つのだった。
彼はゆっくりと落ち着いた所作で、
テーブルに座ると、
じっと僕の方を向き目を見つめる。
(実際は眼孔は真っ暗でこっちを見てるか定かじゃ無いんだけれど)
「おっと自己紹介が必要ですなぁ…」
ふむさてと
優雅とも取れる緩慢な所作で
オリビアが出したカップをつまむと
カップの紅茶を一口
ビシャ
「おっと失礼」
懐から出したキャラ物のハンカチで
スカスカの骨の隙間からこぼれた
お茶を器用にも優雅?に拭き取る
ビッキィ!!
『なんじゃぁ!貴様は!!?』
すでにキレているアディが華奢すぎる
客人を粉々にしようと青筋をたてている。
「アディ ま、待って」
咄嗟に彼女の手を取って暴走を止める。
彼女は掴まれた自分の手をじっと見て
次に僕を無表情で見つめる…
あ、鼻血でた
グリングリン変わる
歓楽街のネオンの様な顔色で固まった
アディをよそに
「ガイコツさん確かに僕らは困った状況ですが…」
サイクロップスとマッドウルフだけでもキツいが水属性のリザードと死霊系のモンスターは強力で厄介だ。
はっきり言って対処しきれない。
「私、見ての通りリッチで名はスミスと申します。」
彼はそう言うとお茶受けのクッキーを嚙り
ボロボロと骨の隙間からこぼして
「おっと失敬」
クッキーも優雅にハンカチで拭き取る。
「おっとそうそう。青年の方?アンデットの群勢を引き連れてお助けしたくまいりましたのですがぁ?」
!?
ゆらりと森に現れる死霊系モンスターの軍勢が
ボウっと姿を表す。
「そっそっれは嬉しい限りですが…あなたがそうする理由が…」
「お忘れですかねぇ。先日我らの危機を救ったでは無いですかぁ?」
ゆっくりと片目でチラリとスミスを見ながら
紅茶とクッキーを頂くフランに、
同じくアリスとオリビアが並び
甘ーいパスタを頬張る黒曜に、
ニヤけてグネグネするアディ。
そんな面々をよそに僕は先日の出来事を
思い出していた。
それは村にたどり着く数日前の事だった。




