20 剣聖
8/23一部を改稿しました。
翌日早朝にはブルードンの西門を抜け
次の中継地点である村を目指す。
門番の衛兵からは、まだ冬の到達には早いが
数日中には雪が降りそうな事と、一週間程前に強力なモンスターが出没して商隊が全滅した事を教えてもらった。
渓谷も上流に近くなると
道は狭く険しさも増して、
既に周りは雪が降り始めいよいよ
本格的な冬が到来する。
僕は冬特有のシンとした静けさの中で自身がつけた足跡と、サクリサクリと新雪を踏み締める音がとても好きだ。
アディは寒いのが苦手らしく荷馬車の中で毛布に包まった小山になっている。
フランは僕に並んで一緒に雪の感触を楽しんで並んで歩く。その手は僕のポケットに突っ込まれていて、お互いの体温でとても暖かい。
黒曜は寒さに強い様で、尻尾に氷柱を付けたまま優雅に先導している様だ。
それは荷馬も同じ様で、時折黒曜が目配せすると負けじとその足取りは力強い。
まもなく僕らはミラージュ大氷河入り口の村に到着する。
『おお!村じゃな!早速食事処へ行くぞ!』
僕らは人里が見えた途端に元気になるアディに皆で苦笑いした。
『全く…貴女は現金です事』
「ふふ、じゃあ早速村へいって先ずは村長に
挨拶だね。」
僕らは村へ入ったのだが、
何かがおかしい事にすぐに気がついた。
なんだか寂しいと言うか?
人の気配が少ないと言うか。
冬季なので人が少ない事は分かるが、
村に入ってから全くと言って良いほど
人の気配が無い。
「村の人はどこへ行ったんだろう?」
『分かりませんわ。でも嫌な匂いがしますわ』
『…』
アディからは既に殺気が漏れ出している。
アリスは水を通して周囲の状況をある程度把握する能力を持っている。
アリスが空気中に水球を作り出すと
手に取って井戸へとその水球を投げ入れた。
アリスの水魔法は水流を通して村の状況を走査する。
理由は分からないが村の大半の人間が居ないか、数人が身を寄せ合っている様だ。
僕らは村の中央奥にある少し大きめの家に
向かう事にした。
「ごめん下さい。旅の冒険者なのですが、どなたかおられませんか?」
村長宅を訪ねると驚いた顔の村長が
僕らを出迎えた。
その深く刻まれたしわが、
心なしか老人の顔に暗く深い影を落とす。
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「数週間前にな、流れもんの男がふらりとやってきてのう、偶然に森のモンスターに襲われておった子供をな、助けてくださってのじゃが…助けたのだから相応の物を寄越せとおっしゃってのう…」
「村には払えるものがのうて、仕方なく村に伝わる一本の宝剣を差し出したんじゃが…」
その宝剣を男が振り回しても何故か草一本も切れなかった。
激昂した男が、子供を攫おうとした時に
子の父親が抵抗すると腰の剣を抜き
子の前で父親を切り伏せたそうだ。
幸い一命は取りとめたが未だ重症らしい。
それから男は村の近くに拠点を構えて、
定期的に女を攫っており、
住人は山の中腹にある洞窟へ、
危険をおかして避難していると言う。
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今回の仕事もつまらん散歩の様な物だ。
少し貫禄のあるがっしりとした体躯、
太い腕に青色の上等な軍服姿。
帯刀は腰のロングソードが二振り
煌びやかな装飾が施された軍刀と剥き身の
逆曲刀。
浅黒い肌の髭のある冷徹な顔が張り付いている。
喚く女子供をゆっくり追って剣の錆にする。
縋る男どもを軽く薙ぎ払って、余興の様に子供を攫ってそれを追う親祖父母を斬り、
女子供はちょいと味見して
最後には村ごと皆殺しだ。
西の剣聖などと小賢しい建前を押し付けられたばかりに、公には賊まがいのマネは大っぴらに出来なくなったが、こうして都を離れればやはり自身の中に居る悪い虫が騒ぐのだ。
弱き者など斬られてこの剣の肥やしとなるべし。
非道の限りを尽くした自分の中にある日、悪魔が住んでいる事に気がついたのだ。
無抵抗に又は無力に。
その者を切った時の肉を断ち切る瞬間と
骨を砕き、命を奪う瞬間に俺は快楽を
覚えたのだ。
モンスターを嗾しかけた街道近く村を見下ろす丘にある岩壁を恐ろしく鋭い剣筋で切り開いて簡易の洞窟を作り、差し出された女を裸にして弄びながら集落を醜悪な笑い顔で見下ろしていた。




